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第一章 虐げられた姫
第26話 空を飛ぶ
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「お師匠様に言われて会いに来てみたけど、結構可愛いね!」
そう言って、私を抱き上げた。
この人が……第五皇子?私の……兄?それに、師匠って誰なんだろう?
というか、可愛いって言われたのは、初めてかもしれない。でも、嫌だとは思わない。
「う~ん……確かに魔法が不安定……なのかなぁ?僕にはよく分からないや」
私の顔を覗き込むようにして、そう言った。
「おししょーしゃま、らえ?」
「あれ、話せるの?父上は話せないって言ってた気がするけど……まぁいっか。それで、お師匠様だっけ?お師匠様はフェレス様だよ。フェレスリード・ベル・ヒーライド公爵様!」
この人も私が話しても怒らない。そして、師匠はフェレスなんだ。私のことを知っているのも納得した。
「そうだ。これから、母上達とお茶会に行くことになってたんだよね。フィレンティアも行くよね?」
母上……?お茶会……?あの、第六?皇妃がやっていたあれかな?
「皇族みんな招待されるんだけど、君と連絡手段を持っている子がいなくてさ、僕が伝言役を頼まれたんだ。君に会いに行くって言ったからね」
私も皇族ってことなの?別に、わざわざ言いに来なくても、呼ばれなかったとしても気にしないのに。少しは人間になっているのかもしれないけど、まだ人形でもあるから。悲しまないし、その感情も知らない。
「あの……第五皇子殿下」
ハリナが何か話そうとすると、第五皇子はそれを遮った。
「君、ハリナだっけ?お師匠様から聞いてるよ。可愛げのない漢みたいなはとこだって」
「……奴は後でとっちめるとして、皇女殿下の意見をお聞きしてからにしてくださいませ」
「あぁ、そうだね。フィレンティア、行きたい?行きたくないなら別にいいんだけど……」
行きたくないわけではない。でも、行きたいわけでもない。その場合はどうすればいいんだろう。
「ろっちれもいい」
「“どっちでもいい”ってこと?それなら行こうか。フロー姉様もいるからさ。気まずくはならないと思うよ?」
フロー姉様……?フロー姉様って誰のことだろう?
「フローねえしゃま、らえ?」
「あれ?会ったんじゃないの?フローラル・ミルト・アベリニア第二皇女だよ。フィレンティアのこと可愛い可愛いって言ってたから、てっきり仲がいいのかと」
フローラル……会ったことあったっけ?そういえば、皇女だっていう人には一人会っていたような覚えがある。その人のことかな?
あの人も、私のことを可愛いって言ってくれたのか。嬉しい……かもしれない。
「にしても、フィレンティアって長いよなぁ……ティアって呼んでいい?」
「……いいよ」
あっ、初めてまともに発音できた。
「じゃあ、ティア。お茶会に行こうか。お兄様がだっこしてあげるから」
そのまま歩いている。30分くらいは経った気がする。馬車に乗っていく方がよかったんじゃないの?
「ばしゃ、のあないの?」
“ら”が発音できないなぁ……ハリナとセリア、この人には通じているみたいだから、大丈夫だろうけど。
「ティアをこのまま抱えて行こうかなって思ってね。時間はまだ一時間くらいあるし」
「ちゅかえないの?」
“つ”も発音できなかった。“れ”も発音できていないけど。うまくできるようになりたいな。せっかく話せるようになったんだから。何度も話せばできるようになるかな。
「魔力を体に纏うとね、疲れにくくなるんだよ。それに、僕も皇子だから、一応体は鍛えてるよ。魔法が好きなのは否定しないけど」
魔法……か。そういえば、私は魔法のせいで話せないんだっけ。それなら魔法を解けば、話せるようになるのかな。魔法を解けば──嫌だ。解きたくない、壊したくない。戻りたくない。
心の奥底から何かが沸いてくるような感じがする。
「ティア!!」
「っ!」
大きな声で呼ばれて気がついた。後少し遅ければ、また倒れたかもしれない。
「無理しなくていいよ。ティアの言葉は何でも聞き取るし、たとえ父上が言っていたような人形姫でも、僕の可愛い妹ってことに変わりはないから」
可愛い……ルメリナもよく言っていた。可愛い可愛い人形姫って……あなたは一人では何もできない。一人では生きられない。周りに生かされる哀れな人形姫だと。人形は飽きたら捨てられる。だから、飽きられたら周りが自分を捨てていく。全員に捨てられたら、人形姫のあなたは生きられないと。
その通りだと思う。私は一人では生きられない。周りに助けてもらわないと。でも、ある日見捨てられたら……人形は、その体が朽ちるまで、その場で生き続ける。多分私も、ろくに食事にもありつけず、飢えて死んでいくんだろう。
……辛くない。私は人形だから。人形だから辛くない。何とも思わない。死んでもいい。生きたいと思わない。
「……ア?……の?」
大丈夫、大丈夫……
「ティア!……魔法が少し強くなったかな……?ハリナ、セリア。お師匠様のところに寄り道するね!だから、遅れるかも」
「はい、お伝えしておきます」
「ティア。ちょっと飛ぶから。しっかり掴まっててね」
言われた通り掴まる。すると、第五皇子の体が浮かんだ。そして、一直線に飛んでいく。
空を飛べるんだ。今の私が思うのはそれくらいだった。
数分くらい飛んで、ある建物が見えてきた。
「じゃあ、急降下するから」
そう言って、そのまま下がっていく。でも、飛んでいるときもそうだったけど、あまり風とかは感じない。触覚が機能していないだけかもしれないけど。
「おーしーしょーうーさーまー!!」
そうやって声を出すと、中にいるフェレスが気づいたみたいで、指を鳴らすと、第五皇子と私が部屋に入っていた。
「あのさぁ、ドアから来いっていつも言ってるよね?」
この人、第五皇子にはタメ口を使うんだ。
「いいじゃないですか!どうせ転移させてくれるんですし!」
そして、この人はフェレスには敬語を使っている。
「……あれ?なんで皇女様を連れてきてるの?」
「あぁ、視てくれません?さっきから様子が変だし、魔法もなんか変化してるみたいだし……」
「う~ん……確かに、少し強くなってるね。もう一度弱体化かけ直そうか」
フェレスは第五皇子にそこの椅子に私を座らせるように指示して、私はそこに座らされた。
「それで?また空を飛んできたみたいだけど、今日は撃ち落とされなかったの?」
「さすがに何度も狙われないと思いますよ。むしろ、狙われるのは……」
「皇女様か。第四皇妃を恨んでいる奴は大勢いるし、狙われてもおかしくはないね」
……この人、狙われているの?獲物にでも見られたのかな?
そして、私も狙われているのか。
「もう一度かけ直したはかけ直したけど、根本的な解決ではないからね?」
「分かってますって。だから母上達と交流させようって提案したんでしょう?僕がなんとか兄様や姉様の都合をつけたんだから、頑張りますよ」
「戻るなら、普通に戻った方がいいよ。狩人がいないとも限らないから」
「そうですね~。獲物になるのは勘弁です」
獲物?狩人?本当に何の話をしているの?私が悩んでいる間に、第五皇子は私を抱えて部屋の外に出ていった。
そう言って、私を抱き上げた。
この人が……第五皇子?私の……兄?それに、師匠って誰なんだろう?
というか、可愛いって言われたのは、初めてかもしれない。でも、嫌だとは思わない。
「う~ん……確かに魔法が不安定……なのかなぁ?僕にはよく分からないや」
私の顔を覗き込むようにして、そう言った。
「おししょーしゃま、らえ?」
「あれ、話せるの?父上は話せないって言ってた気がするけど……まぁいっか。それで、お師匠様だっけ?お師匠様はフェレス様だよ。フェレスリード・ベル・ヒーライド公爵様!」
この人も私が話しても怒らない。そして、師匠はフェレスなんだ。私のことを知っているのも納得した。
「そうだ。これから、母上達とお茶会に行くことになってたんだよね。フィレンティアも行くよね?」
母上……?お茶会……?あの、第六?皇妃がやっていたあれかな?
「皇族みんな招待されるんだけど、君と連絡手段を持っている子がいなくてさ、僕が伝言役を頼まれたんだ。君に会いに行くって言ったからね」
私も皇族ってことなの?別に、わざわざ言いに来なくても、呼ばれなかったとしても気にしないのに。少しは人間になっているのかもしれないけど、まだ人形でもあるから。悲しまないし、その感情も知らない。
「あの……第五皇子殿下」
ハリナが何か話そうとすると、第五皇子はそれを遮った。
「君、ハリナだっけ?お師匠様から聞いてるよ。可愛げのない漢みたいなはとこだって」
「……奴は後でとっちめるとして、皇女殿下の意見をお聞きしてからにしてくださいませ」
「あぁ、そうだね。フィレンティア、行きたい?行きたくないなら別にいいんだけど……」
行きたくないわけではない。でも、行きたいわけでもない。その場合はどうすればいいんだろう。
「ろっちれもいい」
「“どっちでもいい”ってこと?それなら行こうか。フロー姉様もいるからさ。気まずくはならないと思うよ?」
フロー姉様……?フロー姉様って誰のことだろう?
「フローねえしゃま、らえ?」
「あれ?会ったんじゃないの?フローラル・ミルト・アベリニア第二皇女だよ。フィレンティアのこと可愛い可愛いって言ってたから、てっきり仲がいいのかと」
フローラル……会ったことあったっけ?そういえば、皇女だっていう人には一人会っていたような覚えがある。その人のことかな?
あの人も、私のことを可愛いって言ってくれたのか。嬉しい……かもしれない。
「にしても、フィレンティアって長いよなぁ……ティアって呼んでいい?」
「……いいよ」
あっ、初めてまともに発音できた。
「じゃあ、ティア。お茶会に行こうか。お兄様がだっこしてあげるから」
そのまま歩いている。30分くらいは経った気がする。馬車に乗っていく方がよかったんじゃないの?
「ばしゃ、のあないの?」
“ら”が発音できないなぁ……ハリナとセリア、この人には通じているみたいだから、大丈夫だろうけど。
「ティアをこのまま抱えて行こうかなって思ってね。時間はまだ一時間くらいあるし」
「ちゅかえないの?」
“つ”も発音できなかった。“れ”も発音できていないけど。うまくできるようになりたいな。せっかく話せるようになったんだから。何度も話せばできるようになるかな。
「魔力を体に纏うとね、疲れにくくなるんだよ。それに、僕も皇子だから、一応体は鍛えてるよ。魔法が好きなのは否定しないけど」
魔法……か。そういえば、私は魔法のせいで話せないんだっけ。それなら魔法を解けば、話せるようになるのかな。魔法を解けば──嫌だ。解きたくない、壊したくない。戻りたくない。
心の奥底から何かが沸いてくるような感じがする。
「ティア!!」
「っ!」
大きな声で呼ばれて気がついた。後少し遅ければ、また倒れたかもしれない。
「無理しなくていいよ。ティアの言葉は何でも聞き取るし、たとえ父上が言っていたような人形姫でも、僕の可愛い妹ってことに変わりはないから」
可愛い……ルメリナもよく言っていた。可愛い可愛い人形姫って……あなたは一人では何もできない。一人では生きられない。周りに生かされる哀れな人形姫だと。人形は飽きたら捨てられる。だから、飽きられたら周りが自分を捨てていく。全員に捨てられたら、人形姫のあなたは生きられないと。
その通りだと思う。私は一人では生きられない。周りに助けてもらわないと。でも、ある日見捨てられたら……人形は、その体が朽ちるまで、その場で生き続ける。多分私も、ろくに食事にもありつけず、飢えて死んでいくんだろう。
……辛くない。私は人形だから。人形だから辛くない。何とも思わない。死んでもいい。生きたいと思わない。
「……ア?……の?」
大丈夫、大丈夫……
「ティア!……魔法が少し強くなったかな……?ハリナ、セリア。お師匠様のところに寄り道するね!だから、遅れるかも」
「はい、お伝えしておきます」
「ティア。ちょっと飛ぶから。しっかり掴まっててね」
言われた通り掴まる。すると、第五皇子の体が浮かんだ。そして、一直線に飛んでいく。
空を飛べるんだ。今の私が思うのはそれくらいだった。
数分くらい飛んで、ある建物が見えてきた。
「じゃあ、急降下するから」
そう言って、そのまま下がっていく。でも、飛んでいるときもそうだったけど、あまり風とかは感じない。触覚が機能していないだけかもしれないけど。
「おーしーしょーうーさーまー!!」
そうやって声を出すと、中にいるフェレスが気づいたみたいで、指を鳴らすと、第五皇子と私が部屋に入っていた。
「あのさぁ、ドアから来いっていつも言ってるよね?」
この人、第五皇子にはタメ口を使うんだ。
「いいじゃないですか!どうせ転移させてくれるんですし!」
そして、この人はフェレスには敬語を使っている。
「……あれ?なんで皇女様を連れてきてるの?」
「あぁ、視てくれません?さっきから様子が変だし、魔法もなんか変化してるみたいだし……」
「う~ん……確かに、少し強くなってるね。もう一度弱体化かけ直そうか」
フェレスは第五皇子にそこの椅子に私を座らせるように指示して、私はそこに座らされた。
「それで?また空を飛んできたみたいだけど、今日は撃ち落とされなかったの?」
「さすがに何度も狙われないと思いますよ。むしろ、狙われるのは……」
「皇女様か。第四皇妃を恨んでいる奴は大勢いるし、狙われてもおかしくはないね」
……この人、狙われているの?獲物にでも見られたのかな?
そして、私も狙われているのか。
「もう一度かけ直したはかけ直したけど、根本的な解決ではないからね?」
「分かってますって。だから母上達と交流させようって提案したんでしょう?僕がなんとか兄様や姉様の都合をつけたんだから、頑張りますよ」
「戻るなら、普通に戻った方がいいよ。狩人がいないとも限らないから」
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