冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第27話 謎の光

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「さて……建物の外に出たし……飛んでいこうか」

 普通に行けと言われていたのをもう忘れたのかな。でも、そんなことを言う気はなかった。

「ほら、行くよ」

 私を当たり前のように抱えて、空を飛ぶ。

 そして、私の住んでいるところと似ているようで違うような場所に来た。私が住んでいるところよりは広い感じがするけど。

「ここは僕が住んでいるサファイア宮。ここの庭園でお茶会をやるから」

 そう言って、サファイア宮の前に着地した。そして私を抱えたまま、お茶会の会場に向かうことに。

 私を抱えたまま、そこに向かうと、すでに人々が座っていた。見覚えのある子もいる。そして……あの人が一回だけ会った皇妃かな。

「お待たせしました」
「構いませんよ。それで、そちらが……」

 奥から三番目の左側に座っている女の人が私を見ている。

「はい、フィレンティアです」

 人数は……14人、かな。私達も含めたら16人だ。皇族って結構人数が多いみたい。

「フィレンティア、久しぶりね。元気だった?」

 ……誰だっけ、この人。……そういえば、皇帝に呼ばれたときに会ったような……

「フロー姉様。近いですよ」
「あら、ローランド。私の妹でもあるのよ。独り占めはよくないわ。フィレンティア、こっちにいらっしゃい」

 そう言われたので、掴んでいた腕を離してフロー姉様と呼ばれている人に移った。

「フロー姉様、ティアをとらないでください!」
「フィレンティアはあなたのものじゃあ……って、フィレンティアのことティアって呼んでるの?」
「だって長いですし。それに、そう呼んだ方が可愛いじゃないですか。ティアはいいって言ってくれましたし」
「そうなの?」

 フロー姉様と呼ばれている人は、こっちの方を向いた。

「うん」

 そう言ったら、急に周りが静かになった。どうしたんだろう?

「お前、喋れるのか!?」

 机を揺らして大きな声で、男の子がそう言った。この子も会ったことがあるような……?

「僕と会ったころは話さなかったのに……」

 怒ってるの?私が話さなかったから。話せなかったから、怒ってるの?なら、頑張って普通に話せるようになればいいの?

「アルク。大きな声を出したらティアが怖がるでしょ」
「そうよ」
「すみません……」

 こんな声が聞こえるけど、私は周りを見ていた。

 まだ、あまり景色をきれいと感じる心はない。花が咲いている。空が青い。木が葉っぱでいっぱいになっている。こんな感じにしか思えない。ただそこにあるだけ。何もない。
 嫌な感じはしない。これをきれいと思えたら、私も人間に戻れるのかもしれない。でも、魔法を壊そうとすると、とたんに感情的になってしまう自分もいて。
 私は、魔法を壊したくないのかな。自分のことなのに、分からない。人間になりたいはずなのに、なりたくない。

 そういえば、第五皇子が狩人がどうとか言っていた。この辺りにいるのだろうか。人間を獲物にするのだろうか。なら、私は狙われないかもしれない。周りから見たら、話せること以外は、人形姫と何も変わっていないから。

 まだ痛みは感じない。感情も意識して表に出せない。魔法を壊そうと思ったら、壊したくないという思いが溢れてくる。私はどうすればいいのかな。
 でも、みんながこんな風にわいわいしているのは、嫌だとは思わない。冷宮にいるよりも、マシだと思えるくらいには。それなら、私は、もう冷宮が嫌になっているのかも。

 ……うん?奥の方に、一瞬何か光るものが見えた。距離的に……100メートルはあるかも。でも、ボヤ~とした光。少し黒っぽかったかも。でも、はっきりとは分からなかった。あの距離が見えるほど視力がよくなったわけではないみたい。

「……?フィレンティア、さっきからどこ見てるんだ?」

 名前を呼ばれて、いったんはそっちの方を見て、すぐに光が見えた方に向き直した。

「……あっち」

 そしてもう一回見たときには光は見えなくなっていた。あれは何だったんだろう。
 確かめに行こうかな。なんか、気になる。見てみたい。でも、抱かれている腕を振り払うほどではない。

「フローラル。私達にもだっこさせてちょうだい」
「そうですよ。フロー姉様はもう充分でしょう!」
「……分かりました」

 今度はこの大人の女性みたい。なんでみんな私をだっこしたがるのか分からないけど。

 そして、だっこ……というよりは、膝の上に座らされた。いろんな人に頭を撫でられたりもした。ほとんどの人が私に笑いかけているけど、二人だけ、あまり私と触れ合わない人達がいた。

 女の人と、男の子。多分、皇女と皇子。

 人形があまり好きじゃないのかな。私のことを嫌っていたとしても、別にいいんだけど。私もこの周りにいる人達を好きとは思うことがまだできないし。嫌いでもないけど。

「ねぇ、どう?この髪型可愛くないですか?」

 髪型……?と思って自分の髪を見てみたら、いつの間にか編み込みをされていた。そして、体の向きも横向きになっていて、左右の一部を編み込みされて、後ろで一つに纏められているみたい。動かされたのも髪をいじられたのも気づかなかった。

 私の髪は長いから、確かにアレンジをしやすくはあるだろうけど……なんで自分の髪でやらないんだろう?私を練習台にでもしたかったのかな。それとも……ただやりたかっただけかも。

「エド兄様、トリー姉様、フィレンティアと一緒にいないんですか?」
「僕は……別にいい」
「わたくしも結構ですわ」

 エド?トリー?どっちも知らない。その呼ばれた人の方を見ると、後ろの方に、さっきと同じような位置にまた光が見えた。今度ははっきりと。黒い光が。

 あれは何なの?私にしか見えていないの?それとも、周りが気づいてないだけ?

「また変な方向見てるな。あっちに何かあるのか?」
「僕は何も見えないけど……」

 他の人達も見えないみたい。なら、私にしか見えていないのかもしれない。なら、それは一体なんでなんだろう。そして、あの黒い光はなんだろう。

「まぁ、いいよ。ティアが何か見えていても僕の可愛い妹ってことには変わりないし」

 そう言って、私をまた抱き抱えた。

「あー!今度は私がだっこする番だったのに!」

 いつ順番が決まっていたんだろう。

「さっさとやらないからでしょ?それに、僕の・・妹なんだから別にだっこしてもいいでしょ」
「フィレンティアはみんなの・・・・妹よ!ローラが独り占めしたらダメなの!」
「僕のことをローラって呼ばないでくださいといつも言ってるじゃないですか!」
「女の子みたいで可愛いからいいじゃない」

「だから嫌なんです!」と言い合いを始めた。

 言い合いをしながらも本気で怒っているようには見えない。まるで、フェレスとハリナみたい。

 この空間は、嫌だとは感じなかった。むしろ……もうちょっとだけ、続けばいいのにと感じた。
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