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幼少期
4 新たな家族
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アドリアンネは、顔合わせを終えて、部屋に戻っていた。
「お優しい方だったわ……」
自分が話せないというのは周知の事実だったので、がっかりされたり、義務感だけで接してくるかとばかり思っていたのに、よく笑みを向けてくださる。
そのことに、アドリアンネは嬉しく感じた。今まで、アドリアンネに笑いかけてくれたのは、家族である父と母、侍女長であるであるシエナと侍従長のロハンだけだったのだから。
セルネス殿下のことを思い出していると、ドアがノックされる。
「アドリアンネさま。アンナです。入ってもよろしいでしょうか?」
アドリアンネは、すぐさまベルを二回鳴らす。
すると、ドアが開いてアンナが入ってきた。
「セルネス殿下からお手紙が届きましたので、お届けに参りました」
アンナは、そう言って持っている手紙をアドリアンネに渡す。その手は、ほんのかすかに震えていた。
アドリアンネは、手紙を受け取って、アンナに、にこりと微笑んだ。アンナは、一瞬きょとんとしたが、すぐにぎこちない笑みを向けてくれた。
その笑みは、嫌々というわけではなく、慣れていないための拙さのように感じ取れた。
自分の異能を恐れているところはあっても、やはり根は優しい人たちばかりだ。
アドリアンネは、机に置いてあるペーパーナイフで封を開ける。
そこには、先日の顔合わせのときのことと、今度お茶会に誘ってもいいかという事実上のお誘いだった。
王族がわざわざ伯爵家に許可なんて取らない。何かお茶会やパーティーなどに誘ってもいいかと聞くときは、都合の良い日時を教えてほしいというときによく使われる手法。
アドリアンネも、当然そのことは知っていた。
『近いうちに外せない用事はありましたか?』
アドリアンネが紙に書いて側にいるアンナに聞く。
アンナは、メモ帳を取り出して確認した。
「いえ、今のところはございません」
『では、三日後にしておきましょうか』
アドリアンネは、返事の手紙に三日後なら空いていると認め、アンナに渡す。
アンナは、これが誰に当てられたものかを知っているので、受けとると早々に立ち去った。
(やはり、シエナじゃないと落ち着かないわね……)
悪気がないのはわかっている。でも、アドリアンネもまだ10歳。自分がほしくて手に入れたわけでもない力に怯えられるのは、少し辛いところがある。
もう慣れの問題なのだが。
「失礼します、アドリアンネさま!」
いつもはきちんとノックしてから入室の許可を求めてくるのに、いきなりドアが開く。
入ってきたのはシエナだった。
「ど、どうしたの?」
アドリアンネも突然のことだったので、思わず声に出てしまう。
「アシェルさまがすぐに身支度するようにと。そこにお座りください」
何がなんだかわからなかったけど、アドリアンネは、とりあえず椅子に座る。
シエナが、手早く、それでも丁寧に髪を整える。
そして、完全な部屋着だったのに、客を出迎えるための正装に着替えさせられた。
着替えが終わると、シエナから会話のための紙を渡される。
「アシェルさまは応接室におられます。ただちにお向かいを」
シエナが真剣な表情でそう言うので、アドリアンネもこくこくと何度もうなずく。
アドリアンネは、そのままそそくさと父親であるアシェルの元へと向かった。
◇◇◇
シエナがあんなにも慌てていたので、アドリアンネも駆け足でアシェルの元に向かう。
アドリアンネがアシェルの部屋をノックすると、返事が返ってくる。
「入りなさい」
そう言われたので、アシェルはおそるおそる中に入った。
すると、そこには一人の幼い少年と、その少年に隠れるように幼い少女がいる。体格からして、少女のほうが少年よりも幼いように見える。
兄妹だろうかとアドリアンネがまじまじと見ながらも、アシェルに質問する。
『お父さま、この子たちはなんなのでしょう?』
「アドリアンネがセルネス殿下と婚約したことで、跡継ぎがいなくなってしまったからな。妻のフィオリアはもう子どもを産むほどの体力は残っていないのは知っているだろう」
アシェルの言葉に、アドリアンネはこくんと頷く。
アドリアンネの母であるフィオリアは、アドリアンネにとってとても優しい母親で、アドリアンネも好きな存在だ。
だけれど、致命的に体が弱い。元々子どもを産める体ではないと言われていたが、アドリアンネを産んでからはさらに悪化した。いつもベッドの上にいて、時折気分がいいときにアドリアンネに会いに来てくれるが、咳き込んで部屋に戻ってしまうことも時々ある。
アドリアンネは、自分の言霊の力で治してあげたかった。でも、父であるアシェルだけではなく、当の母親からも猛反対されてしまい、なんとか薬などで命を繋いでいる状態だ。
「だから、分家から子どもを引き取ってきた。兄のほうはジュード。妹のほうはシェーノだ」
『アドリアンネ・ワーズソウルと言います。病気により話せないので、筆話で会話いたします』
初めての挨拶なので、できるだけ丁寧な文体を心がけつつも、手早く書いて見せた。
何年もこの方法で会話してきたので、アドリアンネは素早く文字を起こす技術を身につけており、会話と同じとまではいわないものの、それより少し遅いくらいのスピードで文字を書くことが可能だった。
だが、今回は丁寧な文体を心がけたので、いつもよりも時間がかかってしまっている。
「よろしくお願いします。アドリアンネさま。ジュードと申します」
「お、おねがいします……。シェーノ……です……」
ジュードは微笑みながら、シェーノは機嫌をうかがいながら挨拶してきた。
アドリアンネは彼らの様子を見て、紙に書き出した。
『家族なのだから、姉と呼んでくれてかまいませんよ』
「で、ですが……」
アドリアンネが微笑みながら紙を見せると、ジュードは少し戸惑っている様子を見せた。
そんなジュードを微笑みながらもじっと見ていると、ジュードが軽くため息をついた。
「……わかりました。あ……姉上……さま」
「姉……さま?」
慣れていない様子を見せながらも、姉とは呼んでくれた。
まだぎこちなく、姉と呼べと言われたから呼んでいるような感じもするが。
(二人には、内緒にしておかないと)
養子とはいえ、新しく家族になった存在にまで怯えられたくはない。
壁を作っているような気もするが、アドリアンネは、異能のことは秘密にしておくことにした。
「お優しい方だったわ……」
自分が話せないというのは周知の事実だったので、がっかりされたり、義務感だけで接してくるかとばかり思っていたのに、よく笑みを向けてくださる。
そのことに、アドリアンネは嬉しく感じた。今まで、アドリアンネに笑いかけてくれたのは、家族である父と母、侍女長であるであるシエナと侍従長のロハンだけだったのだから。
セルネス殿下のことを思い出していると、ドアがノックされる。
「アドリアンネさま。アンナです。入ってもよろしいでしょうか?」
アドリアンネは、すぐさまベルを二回鳴らす。
すると、ドアが開いてアンナが入ってきた。
「セルネス殿下からお手紙が届きましたので、お届けに参りました」
アンナは、そう言って持っている手紙をアドリアンネに渡す。その手は、ほんのかすかに震えていた。
アドリアンネは、手紙を受け取って、アンナに、にこりと微笑んだ。アンナは、一瞬きょとんとしたが、すぐにぎこちない笑みを向けてくれた。
その笑みは、嫌々というわけではなく、慣れていないための拙さのように感じ取れた。
自分の異能を恐れているところはあっても、やはり根は優しい人たちばかりだ。
アドリアンネは、机に置いてあるペーパーナイフで封を開ける。
そこには、先日の顔合わせのときのことと、今度お茶会に誘ってもいいかという事実上のお誘いだった。
王族がわざわざ伯爵家に許可なんて取らない。何かお茶会やパーティーなどに誘ってもいいかと聞くときは、都合の良い日時を教えてほしいというときによく使われる手法。
アドリアンネも、当然そのことは知っていた。
『近いうちに外せない用事はありましたか?』
アドリアンネが紙に書いて側にいるアンナに聞く。
アンナは、メモ帳を取り出して確認した。
「いえ、今のところはございません」
『では、三日後にしておきましょうか』
アドリアンネは、返事の手紙に三日後なら空いていると認め、アンナに渡す。
アンナは、これが誰に当てられたものかを知っているので、受けとると早々に立ち去った。
(やはり、シエナじゃないと落ち着かないわね……)
悪気がないのはわかっている。でも、アドリアンネもまだ10歳。自分がほしくて手に入れたわけでもない力に怯えられるのは、少し辛いところがある。
もう慣れの問題なのだが。
「失礼します、アドリアンネさま!」
いつもはきちんとノックしてから入室の許可を求めてくるのに、いきなりドアが開く。
入ってきたのはシエナだった。
「ど、どうしたの?」
アドリアンネも突然のことだったので、思わず声に出てしまう。
「アシェルさまがすぐに身支度するようにと。そこにお座りください」
何がなんだかわからなかったけど、アドリアンネは、とりあえず椅子に座る。
シエナが、手早く、それでも丁寧に髪を整える。
そして、完全な部屋着だったのに、客を出迎えるための正装に着替えさせられた。
着替えが終わると、シエナから会話のための紙を渡される。
「アシェルさまは応接室におられます。ただちにお向かいを」
シエナが真剣な表情でそう言うので、アドリアンネもこくこくと何度もうなずく。
アドリアンネは、そのままそそくさと父親であるアシェルの元へと向かった。
◇◇◇
シエナがあんなにも慌てていたので、アドリアンネも駆け足でアシェルの元に向かう。
アドリアンネがアシェルの部屋をノックすると、返事が返ってくる。
「入りなさい」
そう言われたので、アシェルはおそるおそる中に入った。
すると、そこには一人の幼い少年と、その少年に隠れるように幼い少女がいる。体格からして、少女のほうが少年よりも幼いように見える。
兄妹だろうかとアドリアンネがまじまじと見ながらも、アシェルに質問する。
『お父さま、この子たちはなんなのでしょう?』
「アドリアンネがセルネス殿下と婚約したことで、跡継ぎがいなくなってしまったからな。妻のフィオリアはもう子どもを産むほどの体力は残っていないのは知っているだろう」
アシェルの言葉に、アドリアンネはこくんと頷く。
アドリアンネの母であるフィオリアは、アドリアンネにとってとても優しい母親で、アドリアンネも好きな存在だ。
だけれど、致命的に体が弱い。元々子どもを産める体ではないと言われていたが、アドリアンネを産んでからはさらに悪化した。いつもベッドの上にいて、時折気分がいいときにアドリアンネに会いに来てくれるが、咳き込んで部屋に戻ってしまうことも時々ある。
アドリアンネは、自分の言霊の力で治してあげたかった。でも、父であるアシェルだけではなく、当の母親からも猛反対されてしまい、なんとか薬などで命を繋いでいる状態だ。
「だから、分家から子どもを引き取ってきた。兄のほうはジュード。妹のほうはシェーノだ」
『アドリアンネ・ワーズソウルと言います。病気により話せないので、筆話で会話いたします』
初めての挨拶なので、できるだけ丁寧な文体を心がけつつも、手早く書いて見せた。
何年もこの方法で会話してきたので、アドリアンネは素早く文字を起こす技術を身につけており、会話と同じとまではいわないものの、それより少し遅いくらいのスピードで文字を書くことが可能だった。
だが、今回は丁寧な文体を心がけたので、いつもよりも時間がかかってしまっている。
「よろしくお願いします。アドリアンネさま。ジュードと申します」
「お、おねがいします……。シェーノ……です……」
ジュードは微笑みながら、シェーノは機嫌をうかがいながら挨拶してきた。
アドリアンネは彼らの様子を見て、紙に書き出した。
『家族なのだから、姉と呼んでくれてかまいませんよ』
「で、ですが……」
アドリアンネが微笑みながら紙を見せると、ジュードは少し戸惑っている様子を見せた。
そんなジュードを微笑みながらもじっと見ていると、ジュードが軽くため息をついた。
「……わかりました。あ……姉上……さま」
「姉……さま?」
慣れていない様子を見せながらも、姉とは呼んでくれた。
まだぎこちなく、姉と呼べと言われたから呼んでいるような感じもするが。
(二人には、内緒にしておかないと)
養子とはいえ、新しく家族になった存在にまで怯えられたくはない。
壁を作っているような気もするが、アドリアンネは、異能のことは秘密にしておくことにした。
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