無口令嬢は心眼王子に愛される

りーさん

文字の大きさ
5 / 22
幼少期

5 お茶会当日

しおりを挟む
 新たな家族ができて、なんとか交流を持ちたいとは思いつつも、なかなか実現できずに、とうとうお茶会の日がやってきた。
 顔合わせのときはセルネス殿下にお越しいただいたものの、今回はアドリアンネが王城に出向くことになっている。
 久しぶりの外出なので、体が弱いのに、母であるフィオリアも外まで見送りに来てくれた。

「ドリー。気をつけなさいね」
『お母さまもお体に気をつけて』

 アドリアンネは、少しぎこちなく微笑みながら、そう書いた紙を見せる。

「ええ。いってらっしゃい」

 フィオリアは笑顔でアドリアンネに手を振った。
 アドリアンネが馬車へと乗り込んだとき、フィオリアの笑顔は消える。

「私が、あんなことをしなければ……あなたは、もっと自然な笑顔をたくさん見せてくれたのかしら……」

 そう呟きながら、フィオリアは屋敷の中へと戻っていった。

◇◇◇

 アドリアンネは、馬車に揺られている間、ずっと深呼吸を繰り返して、気持ちを落ち着かせていた。
 伯爵家と言っても、父親が城勤めなので、他の伯爵家に比べれば、王城との距離は近かった。

(どんな方がいるのかしら……)

 あのとき、父は自分の異能を知っているのは陛下だけだと言っていた。
 でも、実際はもっとたくさん知っているかもしれない。
 もし、そうだとしたら。自分を色眼鏡で見てくるかもしれない。アドリアンネは、それが怖かった。
 屋敷の空間が心地よかっただけに、他の場所でそんな扱いを受けてしまったら、外に出るのが怖くなってしまう。

(なるようになるしかないわね)

 アドリアンネは、決意を固めて、動きが止まった馬車から降りた。
 馬車から降りたときに見えた景色は、美しいという言葉以外が浮かばなかった。

(うわぁ……!)

 そんな感嘆な声が、思わず口から漏れ出てしまいそうなくらいには、見る人を惹き付ける。
 ただ豪華というわけではない。雑草の一つ一つまで丁寧に手入れされているお陰で、自然の美しさというものが感じられる。

(やはり、王城勤めの人達は能力が高いんだわ……)

 ワーズソウルの庭も貴族らしく美しさがあるが、王城と比べたら霞んでしまう。
 さっきまで少し怖い気持ちがあったが、その気持ちも薄れていた。
 しばらくアドリアンネが庭を鑑賞していると、王城のほうから人がやってくる。

「お待たせして申し訳ありません。アドリアンネ・ワーズソウルさまでしょうか?」

 そう尋ねてきた男性に、アドリアンネはこくりと頷く。
 息切れしていたので、どうやら走ってきたようだった。

(そんなに急がなくてもよかったのだけど……)

 そう思ったものの、特になにか文字に起こすことはしなかった。

「セルネス殿下のところへご案内します」

 そう言った男性に、アドリアンネは軽くお辞儀した。

 セルネスの元へと向かう道中、アドリアンネは気になったことを聞いてみることにした。
 先導している男性の服の裾を引っ張る。

『なぜ遅れたのですか?』
「日時の連絡に手違いがありまして、直前まで日時は明日と失念しておりまして……」
『なぜそのようなことに?』
「職務怠慢な方がいまして……。アドリアンネさまからの手紙の内容を届いた翌日にお伝えしたため、一日ずれてしまったのです」

 アドリアンネは、三日後という記載ではなく、きちんと日付けも書いておけばよかったと後悔した。
 今回はきれいな庭を見ていたので時間は気にならなかったものの、暇潰しになるようなものがなければ、ずっと待ちぼうけを食らっていたにちがいない。

「その職務怠慢を犯した者は、すでに処分を受けていますので、今後このようなことはないかと思われます」
『そうですか』

 アドリアンネは、少し戸惑いながら、いつもより遅くそう書いた。
 その人も落ち度があったかもしれないが、自分が日付けも書いておけば、こんな手違いは起こらなかったような気がするから。

「あの東屋にて、殿下がお待ちです。申し訳ありませんが、私はこれから用事があるので、ここで失礼いたします」

 アドリアンネは了承の意味を込めて、笑顔で頷く。
 そして、セルネス殿下をお待たせするわけにはいかないと、少しだけ駆け足でその場所へと向かった。

「あなたがアドリアンネ・ワーズソウルさまですの?」

 後ろから声をかけられて、アドリアンネは足を止める。
 そして、くるっと後ろを振り返ると、そこには明らかに貴族のお嬢さまという風貌の少女がいた。
 容姿は銀髪に黒目という変わったもの。
 この国で銀髪を持つ少女は一人しかいなかった。
 アドリアンネは、急いで紙に文字を書く。

『私に何かご用でしょうか?ミレージュ・サウスティールさま』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

処理中です...