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学園入学

20 学園に到着 (セルネス視点)

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 馬車に乗っている最中、アドリアンネは窓を眺めている。
 心ここにあらずという感じだ。

「アドリアンネ嬢、退屈だったりする?」

 アドリアンネは、少し間を置いて話しかけられたのに気がつき、ふるふると首を横に振る。
 こう聞きはしたものの、別にセルネスも何か話の話題があるわけではない。
 結局、馬車の中で行われたのはこの会話のみだったため、セルネスは少し気まずさを感じていた。

 しばらく馬車に揺られて、学園へと到着した。
 セルネスのエスコートで、アドリアンネは馬車を降りる。

(わぁ……広いのね……)

 貴族が通うところのため、当たり前と言えば当たり前なのだが、アドリアンネのいる別邸よりもはるかに広い学園の敷地に、アドリアンネは圧倒される。

(そうか。彼女にとっては広いのか)

 城の広さに慣れていたセルネスは、逆に学園が小さく感じていたのだが、それは自分の感覚がずれていたのだと理解した。
 アドリアンネは辺りをきょろきょろと見回している。
 学園に来ても変わらないアドリアンネの様子に、セルネスは笑みがこぼれる。

「それじゃあ、入学式に向かおうか。兄上が代表挨拶をするから、聞いてあげないとね」

 セルネスがそう言うと、アドリアンネは呆けている。
 心を読まなくても、クーファが代表挨拶をすることを忘れていたのがそれだけでわかった。

「まさか、忘れてたとか?」

 セルネスは、少しからかいたくなってしまい、微笑みながらアドリアンネに尋ねる。
 アドリアンネは顔を硬直させた後、少し慌てている様子を見せる。

(正直に忘れてたというべきかしら?でも、セルネス殿下が不機嫌になられるかもしれないし、でも嘘はつくべきではないし……)

 完全にセルネスが心が読めるということすら忘れている心の声だった。
 あくまでも、セルネスには文字として見えているだけなのだが、アドリアンネの声で聞こえてくるように感じてしまう。

『忘れてはいましたが、クーファ殿下を冒涜しているわけではなく、昨日は少し徹夜をしてしまって、記憶があやふやになっていて……』
「徹夜は健康にはよくないよ。なんで徹夜してたんだい?」

 セルネスがそう聞くと、アドリアンネは少し顔を赤らめる。
 うん?と思ったセルネスがアドリアンネの心を見てみた。

(セルネス殿下と登校するのが楽しみで眠れなかったなんて言えないわ……)

 アドリアンネは、そう思い浮かべながらどう答えればいいか迷っていたが、その思いに今度はセルネスの顔が赤くなる。

「早いところ、会場に行こうか」

 セルネスは、アドリアンネの手を半ば強引に掴み、紳士的とは言えないエスコートでアドリアンネを誘導する。

(君は、どれだけ僕の心を振り回したら気が済むんだ)

 アドリアンネをからかってその反応を楽しむつもりだったのに、いつの間にかセルネスのほうが振り回されている。
 しかも、それを無意識のうちにアドリアンネは行っていた。
 セルネスは、純粋な降りをして狡猾に自分を狙ってくる令嬢よりも、アドリアンネのほうがよほど小悪魔に感じていた。

(彼女には敵わないな)

 セルネスは、アドリアンネの手を優しく引いて、会場のほうに向かっていった。
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