悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん

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第三章 休みくらい好きにさせて

第19話 友人というのはいいものだ

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 私は、ちょっと頭を悩ませていた。なんやかんやでの領地滞在となってしまったわけだが、完全に乙女ゲームと流れが変わってしまっていることに。
 いや、お前が悪役令嬢やってないからだろと言われればそうなんだけど、あまりにもずれすぎているような気がする。
 どこから狂ったのだろうか。ヒロインからしてみれば、私の印象は良くないだろう。遭遇しても無視か、何か話すにしても悪態をつくばかり。これで好印象を持つのは、よほどのマゾヒストだけだろう。
 つまりは、ヒロインからしてみれば、いじめてないだけで、私は悪役令嬢のポジションにいることは変わらない。ヒロインを泣かせたりもしたしね。
 問題は、攻略対象。カインがうざがっていると言っていたから、カインはあまりヒロインには好印象を持っていないと考えられる。他にあの天才魔法使いもしかり。今はわからないけど、私が会話を盗み聞きしていたときは、そこまで仲良くはしていなかったように思える。
 むしろ、ジュラルミンの話をしていた私のほうが、友人くらいには思われているかもしれない。自惚れではないかと思われるかもしれないけど。
 他の攻略対象とは、会っていないのでわからない。というか、他に誰がいるのか、あまり詳しくない。私は、実際にプレイしたわけではなく、プレイしている画面を見ていただけだ。興味がなさすぎたから、友人からのリークしか情報がない。

 そんなわけで、ソフィアを呼んで聞いてみることにした。

「攻略対象って、隠しキャラと、天才魔法使いと、お兄様と、カイン以外に誰かいる?」
「え~っとねー……王子が二人でしょ?後は……神官と騎士団長の息子かしらね」

 これはまたテンプレな。乙女ゲームだと、必ずと言っていいほどいるような立場だ。神官はそうでもないかもしれないけど、騎士団長の息子はあるあるではないだろうか。

「王子って、一人はドルー殿下よね?後一人は?」
「まだ入学されていないのよ。年下キャラだもの」
「えっ?最初から登場しないのもいるの?」

 てっきり、乙女ゲームだから、最初から攻略対象が登場するものだと思っていた。まさか、ヒロインが進級しなくてはいけないとは思わなかった。

「そう。でも、攻略はそこまで難しくはないのよね。子犬?っていうの?そんなキャラだから、甘えん坊なんだけど、逆にその王子に頼るように行動すれば、簡単に攻略できるわ」

 ソフィアはため息混じりに説明する。
 つまりは、あなただけが頼りなのってやつか。確かに、私もソフィアもそういう女は嫌いだ。頼りにする前に、何とかしようと努力しろよって思ってしまうから。

「でも、他の攻略対象は、フラストレーションが溜まるのよね……!」
「なんでよ?」
「だって、騎士団長の息子は俺様で、神官はナルシストよ!?何度シナリオライターを呪い殺しそうになったか……!」

 あぁ……!見てる分には面白くても、現実で関わると胃に穴が開くやつだ。私も、俺様とナルシストは嫌いなんだよな~。
 ソフィアこと明莉がここまで腹を立てるということは、相当の凍りつくようなナルシスト発言や、イラッとする俺様発言のせいで、明莉の望む恋愛ができなかったのだろう。
 そんなのと現実で関わるかもしれないなんて、確かにそれはフラストレーションが溜まる。ヒロインは、こんなのとも恋愛をしなければならないのかと思うと、ちょっとだけ同情するわ。

「なら、そいつらは無視一択……と、言いたいけど、ナルシストはともかく、俺様は難しいかもね」
「ええ、攻略対象の中で、一番ぐいぐい来るキャラだからね。カインでうんうん唸ってるあなたには無理だわ」
「知ってたのね」

 話した覚えはないが、カインと一緒にいるところなどを見られていたのだろうな。

「いっそのこと、恋愛をしてみれば?」

 楽しそうにソフィアがからかってくる。こういうところも、前世と同じだ。

「私に恋愛ができると思うの?」
「……いや、無理ね。鈍感なあんたには、自分の恋にも気づかなさそうだわ」
「私って、そんなに鈍いかしら?」
「…………」

 私が首をかしげると、ソフィアが冷たい目で見てくる。そして、深くため息をついた。わざとらしく。これは、お前は何を言っているんだという目だろう。
 うん、鈍いのね。ごめんなさい。

「わかったから、その目はやめてくれる?」
「ええ。それで、話を戻すとして、俺様は厄介よ。一応、年上キャラなんだけど……」
「じゃあ少なくとも、私たちが三年になったらいなくなるのね!」

 そう思うと、ちょっとは頑張れるかもしれない。ここの学園は、三年間だけだ。いや、専門課程の学校……日本でいう大学に当たる場所もあるにはあるのだけど、そこに通うのはよほどの物好きだけだ。
 私は、通う気は毛頭ない。

「あなたが断罪されなかったら……ね」

 あ、その問題が残ってたか。……いや、そっちのほうが早く逃げられるんじゃないか?断罪されて、平民にでもなってしまおうか。前世の記憶があるから、家事もできるにはできるし、魔法が使えるのは、貴族がほとんどだから、仕事には困らないだろうし。
 まぁ、その前に、婚約問題や、その他もろもろを片づけてからだろうな。特に、『青の月』
 それに私が堂々と狙われていないのは、白梟が大きいだろうから。白梟がいなかったら、今の倍は狙われていたに違いない。
 平民になってしまったら、白梟は返却しなくてはならないだろう。物扱いのようになってしまうが、元々は公爵家が持っていたので、私が平民となり、公爵家から除外されてしまったら、持っているのはまずいと思う。
 公爵家から廃嫡された人間が影を従える。そんな前例を作ってしまったら、後の争いの種になりかねない。それは、いくらなんでも後味が悪すぎる。それは嫌だ。
 だからといって、急いて返してしまうと、それを聞いた青の月がここぞとばかりに仕掛けてくる可能性もある。そうなると、死亡コース一直線だ。

「あぁ……めんどくさい。断罪になったら、殺される。ならなかったら胃に穴が開く可能性。死ぬか殺されるか選べと言われているようなものじゃない……」
「あなたがゲーム通りに動いていたら、少なくとも変な組織に目はつけられなかったんじゃない?」

 その通りだ。そもそも、私に前世の記憶がなければ、変に狙われなかったのかもしれない。今でも、後悔していないと言えば嘘になるくらいには、悩んでいる。
 前世の記憶がなければ、悪役令嬢のリリアンとして生きていたかもしれない。そして、悪役として断罪されるか、愛されない公爵夫人としての人生を送るか。その二択だっただろう。
 前世の記憶があったとしても、ゲームのリリアンとまったく同じ行動をすれば、こんな面倒事はなかったかもしれない。モニカちゃんも、そんなの知らねぇと振り切ってしまえばよかったかも。
 演技でも、カインにベタベタするお馬鹿な公爵令嬢としていれば。
 ヒロインも、向こうに合わせていじめていれば。
 でも、そうなると、今の私の心はどうなっていただろうか。モニカちゃんと関わっていなければ、学園には魔物が溢れて、多数の負傷者……場合によっては、死者も出たかもしれない。
 スタンピードもしかり。私が対処していなくても、なんとかなったかもしれないけど、犠牲者は出たかもしれない。
 そうなっても、所詮はゲームと片づけられたのかと問われれば、無理だと答えるだろう。

「私には、ゲーム通りには動けないわよ。人形じゃないもの」
「まぁ、そうね。私だって、ゲームにすら登場しないモブ以下ですもの。でも、今は乙女ゲームの主要キャラにすっかり関わっているわ」
「主要キャラといえば……あのヒロインはどうするのかしらね」
「態度を改めなければ、バッドエンド一直線だと思うわよ?何か、気になることでもあるの?」

 それを聞かれて、私は口ごもる。話してもいいのかわからないから。
 ソフィアにこのことを話したら、どこで知ったのかという尋問が始まるに違いない。そうなったら、ソフィアに口で勝てる自信はないので、すべて正直に話すしかなくなってしまう。

「……話したくないならいいわよ。無理に暴きたいとは思わないわ」
「あら、珍しいのね。いつものあんたなら、私に隠し事なんて生意気ねとかいうのに」
「どこのわがままお嬢様よ。そんなことは言わないわ。でも、そんな風に言うなら、聞かれたら話すつもりだったのかしら?」

 ソフィアはニヤニヤしながら聞いてくる。これは、ここまで読まれていた可能性があるな。
 やっぱり、生まれ変わってもこの友人には敵わないかもしれない。

「ヒロインのお母さんが、私たちと同類かもしれないといえばわかるかしら?」
「……なるほどね。それじゃあ、彼女もある意味では被害者なのか」
「確定したわけではないけどね」
「……それじゃあ、この件は保留ってことで!アップルパイとタルトタタン作ってあげるから待ってなさい」

 ソフィアにしては珍しく強引に話を切り上げて、そそくさと部屋を出ていってしまう。これは……私に気を遣ってくれたのかもしれない。
 スパルタなところもあるし、毒舌なところもあるけど、やっぱりいい友人を持ったなと思うこの頃だった。
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