転生チートは家族のために ユニークスキル『複合』で、快適な異世界生活を送りたい!

りーさん

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第三章 探る者たち

50. 動き出す

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 僕が動くと決めたはいいものの、なかなか機会は訪れない。
 あの不審人物が訪ねてきてからは、母さんの警戒心は増して僕たちを一人にさせないようになってきたし、父さんにも話がいっているのか、僕が水を飲むために食堂のキッチンに向かおうとするだけでついてくる。

 僕が心配な気持ちはわかる。今から僕がやろうとしているのは、命に関わる可能性もある危険なことだ。僕が家族と同じ立場だったら、体を張ってでも止めるだろう。
 だけど、家族のためとか置いておいても、今回は僕が動かないといけないような気がする。

 領主さまみたいな『大英断』のスキルは持ってなかったと思うんだけどな。

 ともかくとして、どうにか一人の時間を作らなければ。そして、バレないように外に出なければならない。
 子どもの僕が取れる方法はもう一つしかない。説教六時間コースの覚悟はできた。

 ベッドから起き上がり、ゆっくりと部屋のドアを開ける。普段は明るい廊下は先が見えないほど暗く、歩く足取りが慎重になる。
 僕は、夜に家を抜け出すことにした。昼間は見張られているから、夜しか時間がない。お昼はたっぷり寝ておいたので、夜も問題なく行動できる。

「『ワール レドム』」

 僕は小声でコードを唱え、魔法でろうそく程度の小さな火を生み出す。明かり代わりだ。

 もし両親に気づかれても水を飲みたかったとでも言ってごまかせばいいと思って、成功するまで何度もトライするつもりだったけど、バレることなく一階の廊下に来ることができた。
 本当に気づかれていないか不安だったけど、裏口のドアを開けても止めに来ない限り、気づかれていないのは確かだ。

「うー……寒い」

 雪が降る気候であり、今は太陽の沈んでいる夜。寒くないわけがない。寒さ対策に服は着込んだけど、それでも寒い。着込んだせいで動きにくいし。
 もうちょっと火を強くすれば少しは暖かいだろうか。だけど、『魔力強化』が暴走する可能性がある以上は、不用意に火を強めることはできない。
 特に、この辺りは木造の建物もそれなりにあるので、火を強めると引火する恐れもある。慎重すぎるくらいがちょうどいい。

 さて、外に出たことだし、早速向かいますか。レオンは確か、貧民街の建物にいたはず。なら、まずは貧民街に向かえばいい。

「確か……こっちだったはず」

 記憶を頼りに、僕は貧民街に向かった。

◇◇◇

 もうじき冬ごもりが始まる時期であり、街灯もないような街には、誰も歩いていなかったけど、貧民街に来ると、寒さをしのぐ家もないのか、布にくるまって寝ている人や、ぐったりとしながら座り込んでいる人などがいる。
 生きていると信じたいけど……中には死んでいる人もいるだろう。これがこの街の実態であり現実だ。針子の母さんがいて食堂を経営できている僕たちは平民の中でもかなり恵まれている立場といえる。

(追い剥ぎはないと思うけど……)

 寒さ対策に家にあった古い布を纏っているので、僕はお金持ちの子どもには見えていないと思う。
 それでも一応は警戒しておかないと。ここには今日を乗りきるので精一杯の人たちばかりだから、少しでも恵まれていそうだと思えば狙われるし、レオンを誘拐した者たちも潜んでいるかもしれないのだから。

 その時だった。

 ザッ……と地面を踏みしめるような音がする。地面は、雪が降っているために少し積もっている状態だけど、足音が消えるほどではない。むしろ霜ができているので、それを踏みしめるパキパキとした音がはっきりと聞こえる。
 その足音の人物は、僕の後ろにいるようだ。誰かがついてきているのだろうかと、僕は視線だけを後ろに向けるも、そこには誰もいない。

 僕が歩みを止めると、足音は消える。僕が歩くと足音は再び聞こえ出す。僕をつけているのは確実だ。
 僕を誘拐するつもりならば、あんなわかりやすく後をつけてくることはないし、とっくに連れ去ろうとしているだろう。僕はただの平民の子どもだと思っているだろうから。

 それなら、僕を傷つけるつもりはないのだろうか。それとも、タイミングを伺っているだけなのか。
 どちらにしても、逃げる準備だけはしておこう。

 ……そう思いつつも、何事もなくレオンが捕らわれていた建物に着いてしまった。暗くてわかりにくいけど、外観はあの時と同じように見えるから、多分ここだと思う。

 中に入りたいところだけど、僕のことを尾行している存在がいては、袋小路になる建物内には迂闊に入りにくい。
 ここまで何もなかったし……あえて僕のほうから接触してみるか。

「ねぇ、さっきから僕の後ろをついてきてるのは誰?」

 なるべく大きく後ろに声をかけるけど、出てくる気配はない。でも、僕がじっと見ていると観念したのか人影が姿を表す。
 予想通り……といっていいかわからないけど、その人物はフードを被っている。暗くてはっきりとはわからないけど、そのフードの色は暗いように思える。

「……お前は、なんなんだ」

 低い男の声で尋ねてくる。この声は、家に訪ねてきた人物とは別の声だ。

「おじさんこそなに?どうして僕の後ろをついてくるの」
「お前が貧民街をうろついているからだ。お前はこの地区の住民ではないだろう?」

 その言葉に、疑いなどは感じられず、確信しているようだった。貧民街の外から来るところを見られでもしただろうか。

「貧民街には出入りしたらダメなの?」
「こんな夜中に子どもが一人で貧民街にいるのがおかしいと言っている。なぜここに来た。昼に来なかったのはなぜだ」
「おじさんこそどうしてここにいるの?おじさんも貧民街に住んでないよね?」

 黒いフードの集団の仲間であろうとそうでなかろうと、彼が街の外の人間なのは確かだ。針子の母さんの仕事を側で見てきて、リーリアさまの話し相手として屋敷に呼ばれていた僕ならわかる。彼が纏っているフードはそれなりに上等なものだ。
 そんなものは貧民街の住民が手に入れられるはずがないし、そもそも貧民街は行方不明になっていた人々が見つかった場所であるため、街の人間は近づこうとしない。

 そんな場所にわざわざ出向いていることがおかしい。僕をつけていた理由もわからないし。僕と普通に会話しているから、誘拐が目的というわけではなさそうだけど。

「我々は調査をしに来た」

 僕の目の前にいる男とは違う、別の男の声が聞こえる。そのとき、人影のようなものがこちらに向かってくるのが見えた。
 この声には聞き覚えがあった。あの日、僕たちの家を訪ねてきた、あの人。

「その声は、あの時の子どもだな」

 男がそう呟いたときには、すでに僕の目の前にまで来ていて、その顔がはっきりと見えた。美しく整った人形のような顔立ち。コバルトブルーの瞳は、僕を冷たく見下ろしていた。

「今度は君の番だ。ここに、何をしに来た」
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