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第一章 優しい家族に拾われて
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ユリシアちゃんと二人で残されて気まずい空気が流れる……かと思いきや。
「アインは好きなこととかある?」
「……よくわからない。ユリシアは?」
「シアはお話しするのが好きなの。お父さんとお母さんがね、いつもシアにいろんなお話ししてくれるのよ」
「そうなんだ」
ユリシアちゃんが絶えず話しかけてくれるお陰で、どうにか会話が途絶えずに済んでいる。前世でも友人が多かったわけではないとはいえ、ここまでコミュニケーション能力がなかったわけではなかったはずなんだけど。
これは、アインとしての僕が人慣れしていないからなのだろうか。
「アインは?アインのお父さんとお母さんは?」
ドクンと心臓が大きく跳ねた音が聞こえた気がした。
聞かれるとは思っていた。この子はまだ子どもで、ルシウスも森にいた僕を連れてきただけだと言っている。
「僕のお母さんも……いろいろお話ししてくれたよ。お父さんはいろいろプレゼントしてくれた」
お昼は世話係と一緒にいることが多かったけど、夜は三人で一緒にご飯を食べたり本を読み聞かせてくれたりした。
仕事先でのお土産だと言って、いろいろとプレゼントしてくれて、子守唄も歌ってくれて、僕はいつも笑っていてーー
それは、ある日突然終わってしまった。
「……アイン?どうしたの?」
「……なんでもない」
僕はユリシアちゃんに背を向ける。本当に、なんでもない。俺はアインの両親に思い入れなんてないじゃないか。だから、大丈夫。アインの心に少し引っ張られる感じがするだけで。
「なんでもないよ」
ユリシアちゃんはきょとんとしている。親に愛されるのが当然と思っているこの子に、現実を教える必要なんてない。世の中には知らないほうがいいことだってあるのだから。
今の僕は、ちゃんと笑えているだろうか。ユリシアちゃんに悟られないようにしないと。
「シア、アインくん」
ギイ、とドアが開いて、アニエスがこちらを覗き込んでいる。
いつの間にか薬屋から帰ってきていたらしい。
「お母さん!」
シアは嬉しそうに笑う。ちょうど変な空気になってきていたところだからちょうどよかった。
「シア、お母さんはアインくんとちょっとお話しがあるから、お話しは後でもいい?」
「うん、いいよ」
アニエスは、聞き分けのいい返事をするユリシアちゃんの頭を撫でて、僕の手を掴む。
「それじゃあ、アインくん。ちょっとお話ししましょ」
「うん……」
話ならここでもいいんじゃと思ったけど、ユリシアちゃんに聞かれるとまずいことなのかもしれない。
僕はアニエスに従って部屋を出た。
部屋を出たら、まっすぐに廊下の奥に案内される。ルシウスに空き部屋だと教えられた場所だ。
空き部屋には、ベッドが置かれていて、椅子や机もある。妙に生活感があって、まるで誰かが住んでいたみたいだった。
「ここ、誰の部屋?」
「ルークの部屋だったの。私たちの息子で、シアのお兄さんの」
「いないの?」
「死んじゃったのよ、病気で。シアがまだ一歳の頃だったわ」
それなら、ユリシアちゃんは覚えていない可能性が高そうだ。ユリシアちゃんと話しているとき、兄という言葉は一度も出てこなかったし。
「どうして、それを僕に話すの?」
僕は部外者のはずだ。気まぐれで拾っただけの子どもに、死んだ息子のことを話してどうするというのだろう。
そもそも、アニエスは僕がこの話をユリシアちゃんにしてしまう可能性を考えてないんだろうか。
「提案したいことがあったから。それに、あなたならシアに話したりしないでしょう?」
「……提案ってなに?」
「あなた、私たちの息子にならない?」
アニエスの言葉に、特に驚きはなかった。心のどこかで、そんな予感を感じ取っていたからかもしれない。
「どうして?アニエスたちにいいことないよ?」
子どもが一人増えるということは、食いぶちが増えるのだから、決して恵まれているわけではなさそうなこの家では大変なことだ。
さらに、ユリシアちゃんは病気で薬代もかかっているだろう。森で会っただけの子どもを育てる余裕があるとは思えない。
「あなたがいればシアの話し相手ができるもの。私たちはお仕事で外に出かけることも多いから、シアには寂しい思いをさせてしまっているもの」
「ユリシアのため?」
「一番はアインくんのためよ。でも、アインくんはそう言っても納得しないでしょ。だからシアのためだと思って、シアのお兄ちゃんになってほしいの」
まだ出会ってそんなに時間はたっていないのに、どうしてそんなに僕のことをわかっているんだろう?
確かに、僕は僕のためというよりも、誰かのためにって言われるほうがいくらか理解できるし納得できる。それをアニエスに見抜かれてしまっている。
「シアには何て言うの?」
「あなたの親が迎えに来るまで預かるって言っておくわ。事情を話したくはないんでしょう?」
「……うん」
どこまで知ってるんだこの人は。さっき帰ってきたばかりじゃないの?
「ルシウスは?」
「あの人もいいって言ってくれてるわ」
「……わかった。ユリシアの兄になる」
まだアニエスとルシウスの息子になるというのは難しい。
多分、心のどこかで両親を思う気持ちがあるからだろう。愛された記憶が残っている以上、未練がある。
せめて、どうして僕に対する扱いが変わったのかわかるまでは、この人たちの息子にはなれない。
「わかったわ。それじゃあ、シアの兄としてよろしくね」
「うん、よろしく」
こうして、僕はユリシアちゃんの兄としてこの家に住むことになったのだった。
「アインは好きなこととかある?」
「……よくわからない。ユリシアは?」
「シアはお話しするのが好きなの。お父さんとお母さんがね、いつもシアにいろんなお話ししてくれるのよ」
「そうなんだ」
ユリシアちゃんが絶えず話しかけてくれるお陰で、どうにか会話が途絶えずに済んでいる。前世でも友人が多かったわけではないとはいえ、ここまでコミュニケーション能力がなかったわけではなかったはずなんだけど。
これは、アインとしての僕が人慣れしていないからなのだろうか。
「アインは?アインのお父さんとお母さんは?」
ドクンと心臓が大きく跳ねた音が聞こえた気がした。
聞かれるとは思っていた。この子はまだ子どもで、ルシウスも森にいた僕を連れてきただけだと言っている。
「僕のお母さんも……いろいろお話ししてくれたよ。お父さんはいろいろプレゼントしてくれた」
お昼は世話係と一緒にいることが多かったけど、夜は三人で一緒にご飯を食べたり本を読み聞かせてくれたりした。
仕事先でのお土産だと言って、いろいろとプレゼントしてくれて、子守唄も歌ってくれて、僕はいつも笑っていてーー
それは、ある日突然終わってしまった。
「……アイン?どうしたの?」
「……なんでもない」
僕はユリシアちゃんに背を向ける。本当に、なんでもない。俺はアインの両親に思い入れなんてないじゃないか。だから、大丈夫。アインの心に少し引っ張られる感じがするだけで。
「なんでもないよ」
ユリシアちゃんはきょとんとしている。親に愛されるのが当然と思っているこの子に、現実を教える必要なんてない。世の中には知らないほうがいいことだってあるのだから。
今の僕は、ちゃんと笑えているだろうか。ユリシアちゃんに悟られないようにしないと。
「シア、アインくん」
ギイ、とドアが開いて、アニエスがこちらを覗き込んでいる。
いつの間にか薬屋から帰ってきていたらしい。
「お母さん!」
シアは嬉しそうに笑う。ちょうど変な空気になってきていたところだからちょうどよかった。
「シア、お母さんはアインくんとちょっとお話しがあるから、お話しは後でもいい?」
「うん、いいよ」
アニエスは、聞き分けのいい返事をするユリシアちゃんの頭を撫でて、僕の手を掴む。
「それじゃあ、アインくん。ちょっとお話ししましょ」
「うん……」
話ならここでもいいんじゃと思ったけど、ユリシアちゃんに聞かれるとまずいことなのかもしれない。
僕はアニエスに従って部屋を出た。
部屋を出たら、まっすぐに廊下の奥に案内される。ルシウスに空き部屋だと教えられた場所だ。
空き部屋には、ベッドが置かれていて、椅子や机もある。妙に生活感があって、まるで誰かが住んでいたみたいだった。
「ここ、誰の部屋?」
「ルークの部屋だったの。私たちの息子で、シアのお兄さんの」
「いないの?」
「死んじゃったのよ、病気で。シアがまだ一歳の頃だったわ」
それなら、ユリシアちゃんは覚えていない可能性が高そうだ。ユリシアちゃんと話しているとき、兄という言葉は一度も出てこなかったし。
「どうして、それを僕に話すの?」
僕は部外者のはずだ。気まぐれで拾っただけの子どもに、死んだ息子のことを話してどうするというのだろう。
そもそも、アニエスは僕がこの話をユリシアちゃんにしてしまう可能性を考えてないんだろうか。
「提案したいことがあったから。それに、あなたならシアに話したりしないでしょう?」
「……提案ってなに?」
「あなた、私たちの息子にならない?」
アニエスの言葉に、特に驚きはなかった。心のどこかで、そんな予感を感じ取っていたからかもしれない。
「どうして?アニエスたちにいいことないよ?」
子どもが一人増えるということは、食いぶちが増えるのだから、決して恵まれているわけではなさそうなこの家では大変なことだ。
さらに、ユリシアちゃんは病気で薬代もかかっているだろう。森で会っただけの子どもを育てる余裕があるとは思えない。
「あなたがいればシアの話し相手ができるもの。私たちはお仕事で外に出かけることも多いから、シアには寂しい思いをさせてしまっているもの」
「ユリシアのため?」
「一番はアインくんのためよ。でも、アインくんはそう言っても納得しないでしょ。だからシアのためだと思って、シアのお兄ちゃんになってほしいの」
まだ出会ってそんなに時間はたっていないのに、どうしてそんなに僕のことをわかっているんだろう?
確かに、僕は僕のためというよりも、誰かのためにって言われるほうがいくらか理解できるし納得できる。それをアニエスに見抜かれてしまっている。
「シアには何て言うの?」
「あなたの親が迎えに来るまで預かるって言っておくわ。事情を話したくはないんでしょう?」
「……うん」
どこまで知ってるんだこの人は。さっき帰ってきたばかりじゃないの?
「ルシウスは?」
「あの人もいいって言ってくれてるわ」
「……わかった。ユリシアの兄になる」
まだアニエスとルシウスの息子になるというのは難しい。
多分、心のどこかで両親を思う気持ちがあるからだろう。愛された記憶が残っている以上、未練がある。
せめて、どうして僕に対する扱いが変わったのかわかるまでは、この人たちの息子にはなれない。
「わかったわ。それじゃあ、シアの兄としてよろしくね」
「うん、よろしく」
こうして、僕はユリシアちゃんの兄としてこの家に住むことになったのだった。
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