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【幕間】色づいた季節は枯れない
チェスを買わせたひとのこと
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『昔のおもちゃを子供に使わせたいから、今度、引き取りに行くよ。』
ある日、ダニーは息子からの手紙によって、今までほとんど入ったことの無かった納屋を探索していた。
引き取りに来る息子たちにやらせてもいいが、せっかく来るなら、普段会えない分、探す時間よりもゆっくり話をして過ごしたい。
そう思って、どこにあるかわからない目当てのものを探し始めたが、慣れないことは嫌いなダニーも、次々と出てくる懐かしいものに思わず顔が綻んだ。昔買って無くしたと思っていた本や掘り出し物のお酒などに、気付けば次は何が出てくるんだろうと、腰の痛みも忘れてワクワクしていた。
「おや」
次に、物置から出てきたのは古びたチェス盤だった。
ダニーは発掘の手を止めて、これを一緒に買った人のことを思い出した。
彼女は、とにかくよく笑う人だった。
親たちに決められた結婚で、こんなつまらない男の妻にしてしまって申し訳ないと思ったが、意外と自己主張の強かった彼女は、いつでも少女のような笑顔で、楽しそうにダニーを振り回した。
『あなた、海に行きたいわ』
そう言われて、日差しに顔を顰めながら海街を歩いた時は、よくこんなところに住む奴がいるもんだと思った。だが、その後、やっと辿り着いた砂浜の景色を見た時に、ダニーは、漂流した彼が見た海が、こんなにも壮大で煌めく青色だったことを初めて知った。
『あなた、この香りが素敵なのよ』
ある時は、彼女がすぐに道端の花を覗き込むので、一向に目的地にたどり着かず、もどかしく思ったこともあった。しかし、顰めっ面のダニーにも、彼女が一つづ名前と香りを教えてくれたおかげで、大好きな脚本に書かれた女性が、あの草を愛する人に贈ろうとしていた時の気持ちがわかった。
何かと、時には無理やりな理由もつけて、ダニーを連れ出して、寄り道を繰り返しながら、彼女はこの世界の綺麗なものをたくさん見せてくれた。
初めは戸惑ったものだったが、彼女と人生を重ねるうちに、紙とインクだけだったダニーの世界は一つづ鮮やかに広がっていく気さえした。
彼女が亡くなった世界で、僕が生きていられたのは、彼女がこの世界の美しさを、物語の世界に色を、僕にくれていたからだ。
ダニーは、チェス盤のコマを装飾を確認しながら、随分昔に亡くした妻に対して抱いていた、感謝と尊敬とそれ以上の感情をあらためて思い出した
「初めて見た海に興奮して、衝動買いをしてしまったとあの時は思ったが、相変わらず、綺麗なデザインだな。」
そう言えば、あの砂浜で、彼女はまだ世界にはみてみたいものが両手で数え切れないほどあると言っていたか。
きっと彼女が見たい景色の半分も見せられていない。
ダニーは自分が面倒くさがらなければ、残りの半分の半分くらいは見せられていたかもなと反省した。
自分はすぐに家に帰りたがるし、相性最悪の夫だったと我ながら思うが、それでも最期まで笑顔を絶やさなかった彼女は、僕と連れ添ったことを後悔してはいなかっただろうか。
ダニーは駒を戻して、チェス盤の埃を丁寧に払う。
まだ使うのには問題がなさそうだが、自分が使うには小さすぎる。
でもこのチェス盤に埃は似合わない、誰かに使い続けて欲しいとダニーは思った。
「おもちゃが見つかったら、散歩でもしながら考えようか」
そう呟いたダニーの頭にふと、外に出ないとダメだと口うるさく言う、小生意気な小僧の顔が思い浮かんだ。
ある日、ダニーは息子からの手紙によって、今までほとんど入ったことの無かった納屋を探索していた。
引き取りに来る息子たちにやらせてもいいが、せっかく来るなら、普段会えない分、探す時間よりもゆっくり話をして過ごしたい。
そう思って、どこにあるかわからない目当てのものを探し始めたが、慣れないことは嫌いなダニーも、次々と出てくる懐かしいものに思わず顔が綻んだ。昔買って無くしたと思っていた本や掘り出し物のお酒などに、気付けば次は何が出てくるんだろうと、腰の痛みも忘れてワクワクしていた。
「おや」
次に、物置から出てきたのは古びたチェス盤だった。
ダニーは発掘の手を止めて、これを一緒に買った人のことを思い出した。
彼女は、とにかくよく笑う人だった。
親たちに決められた結婚で、こんなつまらない男の妻にしてしまって申し訳ないと思ったが、意外と自己主張の強かった彼女は、いつでも少女のような笑顔で、楽しそうにダニーを振り回した。
『あなた、海に行きたいわ』
そう言われて、日差しに顔を顰めながら海街を歩いた時は、よくこんなところに住む奴がいるもんだと思った。だが、その後、やっと辿り着いた砂浜の景色を見た時に、ダニーは、漂流した彼が見た海が、こんなにも壮大で煌めく青色だったことを初めて知った。
『あなた、この香りが素敵なのよ』
ある時は、彼女がすぐに道端の花を覗き込むので、一向に目的地にたどり着かず、もどかしく思ったこともあった。しかし、顰めっ面のダニーにも、彼女が一つづ名前と香りを教えてくれたおかげで、大好きな脚本に書かれた女性が、あの草を愛する人に贈ろうとしていた時の気持ちがわかった。
何かと、時には無理やりな理由もつけて、ダニーを連れ出して、寄り道を繰り返しながら、彼女はこの世界の綺麗なものをたくさん見せてくれた。
初めは戸惑ったものだったが、彼女と人生を重ねるうちに、紙とインクだけだったダニーの世界は一つづ鮮やかに広がっていく気さえした。
彼女が亡くなった世界で、僕が生きていられたのは、彼女がこの世界の美しさを、物語の世界に色を、僕にくれていたからだ。
ダニーは、チェス盤のコマを装飾を確認しながら、随分昔に亡くした妻に対して抱いていた、感謝と尊敬とそれ以上の感情をあらためて思い出した
「初めて見た海に興奮して、衝動買いをしてしまったとあの時は思ったが、相変わらず、綺麗なデザインだな。」
そう言えば、あの砂浜で、彼女はまだ世界にはみてみたいものが両手で数え切れないほどあると言っていたか。
きっと彼女が見たい景色の半分も見せられていない。
ダニーは自分が面倒くさがらなければ、残りの半分の半分くらいは見せられていたかもなと反省した。
自分はすぐに家に帰りたがるし、相性最悪の夫だったと我ながら思うが、それでも最期まで笑顔を絶やさなかった彼女は、僕と連れ添ったことを後悔してはいなかっただろうか。
ダニーは駒を戻して、チェス盤の埃を丁寧に払う。
まだ使うのには問題がなさそうだが、自分が使うには小さすぎる。
でもこのチェス盤に埃は似合わない、誰かに使い続けて欲しいとダニーは思った。
「おもちゃが見つかったら、散歩でもしながら考えようか」
そう呟いたダニーの頭にふと、外に出ないとダメだと口うるさく言う、小生意気な小僧の顔が思い浮かんだ。
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