小さなお姫様と小さな兎

砂臥 環

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祝福の魔法②

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フロリアンの祝福の魔法。

それがわかったのはつい先程のことだった。フロリアンが花に魔法をかけたことで、発覚したのだ。

レオンハルトから貰った花を返す必要がないとわかったギルベルタが、『なるべく美しいままもたせたい』と望んだことによる。

それを聞いて、王妃は泣き崩れた。
ギルベルタがこんなにも深く息子に情を傾けてくれていたなんて、思いもよらなかったから。

その娘の輝かしい時を、自分達が奪ってしまったのだ。




結果、フロリアンはギルベルタに一先ず一度、魔法をかけた。
二度目をかけるかは、今後の話し合いを経た、ギルベルタの意思による。

フロリアンは自身の祝福による魔法を理解していたが、使うことは勿論、口にすることも両親に禁じられていた。

それは『とても危険な力だ』と。
美しく長生きしたいと願う者は多いに違いないのだから。

そして祝福とはいえ、魔法。
使用するのは自身の魔力であり、無制限にどんな時でも使えるわけでもない。
拐かされたのはただ運が悪かっただけにせよ、もし祝福の魔法が目当てだった場合、監禁されて酷使されていたに違いないのだ。死なないように餌を与え、家畜のように世話をされながら。或いは別の役割も兼任させられていたかもしれない。

それを理解しながら、わざわざギルベルタの『花をもたせたい』という小さな願いの為に魔法を使ったフロリアン。

この祝福の魔法は『血の契約を結んだ自分の主のみに使える』──彼はそう言った。

ならば花にはどうしてかけられたのか、と問うたならば『花を四倍長くもたせる位のことはできる』とのこと。
確かに手折られた花の寿命などたかが知れているが、疑問は残る。
血の契約には、強制力は少ない筈なのだから。

魔法についての発言が嘘か真かは不明だが、少なくともフロリアンにはギルベルタ以外に使う意思はないようだ。

そしてなにより魔女が、彼の発言を真実と認めている。

意外にも子供に優しい魔女だ。
彼の言葉がもし嘘だったにせよ、彼女がそう言うなら真実にした・・・・・のだろう。




公爵家へと戻ったギルベルタに、ギュンターは想定される王家からの提示を述べた後で、『お前の一番いいように』と希望を尋ねた。

ギルベルタには選択の権利があるが、まずはレオンハルトとの婚約の是非から。
婚約を継続する気ならば、どうしても王家からの提示にある程度従うことになる。
おそらく18になるまで匿うことになるからだ。その場合、公爵家より王宮の方が適している。

婚約を継続する意思がないならば、身分と名前を隠し、各地を回るのがいいだろう……ギュンターはそう告げる。
八年というそれなりに長い期間だが、そのための費用は惜しまない。王家も、公爵家も。

一家は基本的に、王都のタウンハウスにいる。カサンドラを伴って夜会に出ることは少なくとも、ギュンター自身はそうではなく王宮への出入りも多い。

領の管理は数人の親族に分けて任せ、マナハウスの管理は古くから仕えてくれている執事が担っている。四半期に一度のペースで管財人と共に手入れを行うのに領地に戻ってはいるが、公爵領のマナハウスにギルベルタだけ居を移すのには不安があり、不向きである。
かといって、タウンハウスが安全なわけでもないのだ。

懸念材料を挙げればキリがないが、なにより一番の不安は、シャルロッテ。
まだ幼いあの子が、秘密を守れるとはギュンターには思えなかった。


年相応には賢しいと思っていた、ひとつ上のレオンハルトが自分の欲求の為、約束を違えたのだから、尚更。




それなりに時間がかかったものの、レオンハルトは無事に回復を遂げた。
そして彼の意思で、婚姻は継続することになった。

──ギルベルタがギュンターに答えたのはすぐ。

「レオ様のご希望に添います」

そこに、悩んだ様子は一切見られなかった。

そしてギュンターが想定していた通り、ギルベルタは王宮に匿われることになった。表向きは、身体が弱いギルベルタの療養と、王子妃教育の為として。

それは王宮の外れにある塔。
他にも候補は提示され、もっと広く美しい場所はあった。
だがギルベルタがここを希望したのだ。




ギルベルタは婚約について先の一言以上を口には出さなかったが、その他のことについては積極的に希望を述べた。

結婚してからも、ビアンカを侍女としてつけて欲しい。
フロリアンを護衛か侍従として傍に置いて欲しい。
定期的に、義母カサンドラに会えるようにして欲しい。

それらはいずれも無理のない内容であり、可愛らしいものだった。

「このことを知る人は少ない方がいいのでしょう? 物も特に要りません。 だからこの塔がいいの。 王妃様の離宮が近いから、お義母様が来やすいもの……駄目かしら?」

ギルベルタはやはり年齢以上の賢しさでよく弁えていた。

しかしその裏にあるのは幼気な願い事。
不安げに言われてしまえば、叶えないわけがない。

そもそもギルベルタの言う通り『このことを知る人は少ない方がいい』。
ギルベルタ個人に対する忠誠の高いビアンカもフロリアンも、当然近くにつけるつもりだったし、カサンドラだって無理を通してでも週一では会いに行く気だったのだ。

なんならもっと我儘を言ったって許されただろうに……と誰もが思う中、ギルベルタはひっそりと居を移した。

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