小さなお姫様と小さな兎

砂臥 環

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祝福の魔法①

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対価を差し出したギルベルタをどうするか。

真に四人が話し合うべきはそれ。

なんせ12になった途端18の姿になってしまい、そこから歳を取るのだ。
学園に入る14の年には既に肉体は20。
多くの貴族子女がデビュタントとなる16の年には22。
20でも22でも美しくはあるだろうが、同年代の少女達とは明らかに違う。
もう普通の生活は送れないだろう。

特に問題は、レオンハルトとの婚約をどうするのか。

元々最初にギルベルタが選ばれた理由のひとつには、当然ながらレオンハルトと同年代であることも含まれている。
ひとつ上くらい大した問題ではないが、二年後には実質的に7つ上。
レオンハルトが学園を卒業する18の年、ギルベルタの肉体は25……この国の貴族子女の婚姻年齢の平均を考えると、言い方は悪いが若干とうがたっている。

しかしそれは、レオンハルトの生命を救った結果だ。
そしてこの婚約が決まった一番の理由は、レオンハルトのギルベルタへの気持ちである。

あまりにもデリケートでありどうなるのかの予測が難しい案件。
本人達の意向を汲むにせよ、幼い初恋がどう変化するかなどわからない。婚約を継続するにせよ、今後の更なる変更も視野に入れながら動かなければならないだろう。

勿論、一時間の話し合いでは全く足りない。
話し合いは魔女に返事をした後、今度はギルベルタも交え、別に行うと決めた。

一時間経つより少しだけ早く、四人は魔女達のいる応接間へ向かう。僅かな時間の遅れでも、おそらく彼女は許さない。

カサンドラを見るなり勢い良く席を立ったシャルロッテは、そのまま消えた。
魔女によって、マイヒェルベック家の護衛や侍女達の待つ場所に戻されたらしい。

大人達が結論を伝えるや否や、すぐに魔女はギルベルタに了承を得た上で、彼女の六年間を貰うという。
魔女がギルベルタの額に手をかざすと美しい光が放たれ、彼女を包んだかに見えた。
だがそれは、少し違う。
それはギルベルタ自身から発されているのだ。

光は深く、時に淡く、様々に色を変えながらキラキラと煌めいていて、見る者の胸を切なく締め付ける。

王妃とカサンドラが涙を零すも、それをなにかで拭うことや俯くことを魔女は許さなかった。

「決して逸らさず目に焼き付けなさい。 これこそが貴方達の決断が奪ったモノなのだから」

短いような長いような時間を経て、光が消える。
まだ誰も実感することはできないが、これで二年後にギルベルタは18の姿になる。

魔女に対価を捧げることを了承した際の、ギルベルタの返事は淀みなく、理知的な瞳には強い意思が感じられた。
魔女へ六年間を捧げ終えた今も「これでレオ様は助かりますか?」と尋ね、「約束は違えないわ」という返事に安堵すらしているのだ。

それが救いでもある一方、罪悪感は増していた。

「──そうそう、この子なんだけど」

大人達が肩を落とす中。

突如、魔女は皆が全く予測していなかったことを言い出したのだ。



それは兎の少年、フロリアンについて。

曰く、彼は『うるう年の祝福』を受けている──とのこと。



「どういうことでしょうか」
「この子は閏年の閏日に生を受け、その祝福を受けた。 それが『閏年の祝福』という、彼の意思で発動する魔法。 自分に使うこともできるけど、誰かにその魔法を使うことができる」
「そ、その内容とは……?」

祝福の名称から、なんとなくどんな魔法なのか想像することができ、動揺せずにはいられない。
そして、内容はその想像通り。


『四年に一度しか歳を取らない』──つまり四年かけて一年分しか成長しない、というモノ。


「フロリアン」
「はい」

魔女に促され、フロリアンは前に出る。

「僕はギルベルタお嬢様に生命を救って頂き、今度は僕の全てを賭けて仕えると決めております。 お嬢様がお望みとあれば、魔法を使うことに否やはございません」

彼が決意を述べると、魔女はわかりやすく作用を補足した。

「今から一回使えば、年齢が14と数ヶ月になってから18の姿になる。 二回使えば18の誕生日に元に戻る・・・・ことになるでしょうね」

いずれにせよ、ギルベルタは12~18の時間を捧げてしまったのだ。
唐突に18になること自体は変わらない。

ただし、それは肉体のみ。

『元に戻る』と魔女が言った通り、二回使えば八年間。八年間で二年分の歳を取り、その後は実年齢と肉体の辻褄が合う・・・・・

呆然としつつもそれぞれが止めどなく考えを巡らせている中、魔女はギルベルタの額に口付けして「誕生日おめでとう」とだけ言うと、煙のように消えた。

残された一同は、次に会う日にちだけ決めて一旦解散となった。
本当はこのまま話す筈だったが、魔女の一言で思い出したのだ。

今日が、ギルベルタの誕生日であることを。


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