馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr

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馬鹿犬、駄犬、どっちも褒められてない

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 どうして師匠と体を重ねるようになったのか、その辺りはあんまり理解できていない。もちろんヤらせてもらえるのは願ってもないことだし、師匠が娼館で使う金も節約できる。何より精通した時も師匠の夢を見ていたし、たぶん俺は師匠以外ではまともに勃たない。

 ただ、最初は確か、師匠をオカズに自慰をしていたところを、うっかり本人に見られたのがきっかけだ。
 その日も魔物を退治した後、師匠は宿にも戻らずに娼館に行った。師匠が他のやつとコトに及ぶのは気に入らないけど、男だから溜まるのもわかるし、俺自身が師匠じゃないと抜けないなんて告げられるわけもない。男同士でナニをどうするのかは調べても、本人にそれを話す勇気はなかった。俺にとって師匠は、救い主で、生き方を教えてくれた人で、冒しがたい存在だった。せめて妄想の中でアレコレして、虚しく滾らせて射精するのが関の山だ。
 だから師匠が娼館に行っている間に、俺自身も出しておく必要があった。

「っ、し、しょぉ……!」
「おう、何だ」

 かけられた声に硬直しても、高まったものは止められない。モノを擦っていた手に欲望を吐き出してから、呆然として声の方を仰ぎ見る。

 直前まで脳裏で艶めかしい姿をしていた人が、扉を背にして立っていた。

「なん、で……」
「締まりが良くなくてな。一発だけヤって帰ってきた」

 物足りねぇけど買い直すのも興ざめだから、と師匠は欠伸をして腹まで掻いていた。言い逃れできないにおいが漂い、看過できない状態であるこちらを気にも留めず、窓を開けて椅子を引っ張り、長い足を組んで煙草を吸い始める。娼館から帰ってきた時のいつもの流れだ。何の淀みもない。

「酒買ってきたか」
「ま、だ……」
「おつかいも出来ねぇのかうちの駄犬は」

 色の欠片もない顔で、ため息のように紫煙が吐き出された。
 待て、呆然としている場合ではない。慌てて用意しておいた布で手を拭いて、寛げていた服を整える。見られた焦燥と言い付けられた買い物を果たさねばという思いが、手元を狂わせてなかなか進まない。早くこの場を立ち去りたいのに。

「おい馬鹿犬」

 けれど我関せずで煙を燻らせていた師匠に呼び掛けられて、中途半端な状態でそちらを向いた。身支度より何より、あの声に呼ばれれば俺は従順に従ってしまう。

「なっ、んですか、師匠……」
「お前何回抜いた」
「は?」
「俺は物足りねぇ、お前は欲求不満、ちょうどいい」
「……ハァ?」

 素人を馴らすのは時間が掛かるからという理由で、いつのまにか俺が師匠を抱くことになっていて。初めて妄想ではなくナカに迎え入れられた時には、それだけでイくかと思った。
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