アナタとワタシ、それから彼と。

みさか つみ

文字の大きさ
5 / 7

アナタとワタシのギブアンドテイク 前編

 あの男に言われた通り、あの贈り物を受け取った翌日からは、紺色のスーツとブローチを付けた。言われるがままに行動するのは、癪だが、これで男の気が済むならそれに越したことはない。
 
 出社すると、私の新しいスーツ姿に目ざとい後輩たちが口々に話しかけてくる。

 「そのスーツ、初めてですよね。シックで、すごく大人っぽいです」

 「ブランドものですよね。そのブローチも。彼氏さんですか?」

 「いいなぁ、私も貢いでくれる彼氏欲しいな」

 朝からきゃっきゃと楽しそうに同僚たちが勝手に盛り上がる。残念ながら彼氏ではないし、貢いでくれたわけでもない。ストーカーのような男が、脅迫状と共に送り付けてきた何とも縁起の悪い品だ。私の仕事着にこれを着せようとするなど、精神的に追い詰めたいと思っているに違いない。ブランドには罪はないが、やはり憎らしい目で見てしまうのは、許してほしい。このスーツやブローチがブランドものであることは、この後輩たちに言われて知ったのだが。

 「ねぇ、聞いたわよ。あんた、そのスーツ彼氏に貢いでもらったんだってね?」

 楽しいはずのランチタイム。社員食堂で一緒に食事をとっていた別の部署である同僚のナナミにそう言われ、ぎょっとする。彼氏ではなく、ストーカーであると言いたいところだが、押し黙る。噂と言うものは、常に尾びれ背びれがつくものとは重々承知していたが、まさか私自身がその被害者になるとは思ってもみなかった。

 「誰から聞いたか知らないけど、これは、貢いでもらったわけじゃないし、私には、彼氏はいません」

 「いいかげん作ろ?合コン、今度誘うからさぁ。過去の男追うのやめなよ。もう相手もとっくに次の人見つけてるって」

 「わかってるんだけど」

 できない。それが正直なところ。
 彼と別れてから出会いの機会がなかったわけではない。何度も誘われ、時には数合わせの場合もあったが、合コンには参加した。楽しんで、と言えば誤解が生まれるかもしれないが、実際、友人との食事会程度で楽しかったのは、事実だ。しかし、どうしても彼と比べてしまい、交際を断り続けた。私の最愛の彼、須賀沢夏景を想い。

 「重い女ね。でも、まぁ、そのうち彼氏くらいできるわよ。雫可愛いもん。大人っぽい服着たら、ちょっと背伸びしてる感じするけど、それがまたいいのよね」

 褒められているのかどうか怪しいコメントに複雑な心境だ。

 「ありがとう?じゃあ、休憩時間も終わるし、そろそろ行こ。飲み行くとき、誘ってよね」

 「もちろんよ、任せて」

 そう言い、お互いに自分の持ち場に戻ってゆく。彼女が私の後姿を見て、「あのスーツ、結局誰からもらったのかしら」と呟いたことを私は知らない。
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

お義父さん、好き。

うみ
恋愛
お義父さんの子を孕みたい……。義理の父を好きになって、愛してしまった。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。