アナタとワタシ、それから彼と。

みさか つみ

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アナタとワタシのギブアンドテイク 前編

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 あの男に言われた通り、あの贈り物を受け取った翌日からは、紺色のスーツとブローチを付けた。言われるがままに行動するのは、癪だが、これで男の気が済むならそれに越したことはない。
 
 出社すると、私の新しいスーツ姿に目ざとい後輩たちが口々に話しかけてくる。

 「そのスーツ、初めてですよね。シックで、すごく大人っぽいです」

 「ブランドものですよね。そのブローチも。彼氏さんですか?」

 「いいなぁ、私も貢いでくれる彼氏欲しいな」

 朝からきゃっきゃと楽しそうに同僚たちが勝手に盛り上がる。残念ながら彼氏ではないし、貢いでくれたわけでもない。ストーカーのような男が、脅迫状と共に送り付けてきた何とも縁起の悪い品だ。私の仕事着にこれを着せようとするなど、精神的に追い詰めたいと思っているに違いない。ブランドには罪はないが、やはり憎らしい目で見てしまうのは、許してほしい。このスーツやブローチがブランドものであることは、この後輩たちに言われて知ったのだが。

 「ねぇ、聞いたわよ。あんた、そのスーツ彼氏に貢いでもらったんだってね?」

 楽しいはずのランチタイム。社員食堂で一緒に食事をとっていた別の部署である同僚のナナミにそう言われ、ぎょっとする。彼氏ではなく、ストーカーであると言いたいところだが、押し黙る。噂と言うものは、常に尾びれ背びれがつくものとは重々承知していたが、まさか私自身がその被害者になるとは思ってもみなかった。

 「誰から聞いたか知らないけど、これは、貢いでもらったわけじゃないし、私には、彼氏はいません」

 「いいかげん作ろ?合コン、今度誘うからさぁ。過去の男追うのやめなよ。もう相手もとっくに次の人見つけてるって」

 「わかってるんだけど」

 できない。それが正直なところ。
 彼と別れてから出会いの機会がなかったわけではない。何度も誘われ、時には数合わせの場合もあったが、合コンには参加した。楽しんで、と言えば誤解が生まれるかもしれないが、実際、友人との食事会程度で楽しかったのは、事実だ。しかし、どうしても彼と比べてしまい、交際を断り続けた。私の最愛の彼、須賀沢夏景を想い。

 「重い女ね。でも、まぁ、そのうち彼氏くらいできるわよ。雫可愛いもん。大人っぽい服着たら、ちょっと背伸びしてる感じするけど、それがまたいいのよね」

 褒められているのかどうか怪しいコメントに複雑な心境だ。

 「ありがとう?じゃあ、休憩時間も終わるし、そろそろ行こ。飲み行くとき、誘ってよね」

 「もちろんよ、任せて」

 そう言い、お互いに自分の持ち場に戻ってゆく。彼女が私の後姿を見て、「あのスーツ、結局誰からもらったのかしら」と呟いたことを私は知らない。
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