雪豹くんは魔王さまに溺愛される

asagi

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続々.雪豹くんと新しい家族

3-34.悪い癖

 一呼吸置いて。

「ロウエンさん、マルモをいじめたら嫌だよ」
「そのようなつもりはないのですが」

 心底不思議そうな顔で返された。
 ロウエンは素でいじめっ子だったらしい。スノウが知らなかった姿だ。

「……ロウエン様は、吸血鬼族ですからね」
「あ、そういう性質なの、吸血鬼族って」

 マルモの諦念溢れる声音に、スノウはパチリと目を瞬かせる。
 いじめっ子タイプが吸血鬼族のさがだったとは。難儀な特性である。

「ええ。吸血鬼族には弱みを見せるな、とよく言われていますよ」

 からかわれたことで、マルモの動揺は幾分おさまったらしい。いまだ小声ながら、滑らかに会話が続く。

 それにしても、『吸血鬼族には弱みを見せるな』とはすごい言葉だ。それだけ警戒されているということか。

 魔族の中でも最上位に近い吸血鬼族が、そのように恐れられているのはなんだかしょっぱい気分になる。だって、気になる子をからかうのが性って――。

「ロウエンさん、可愛いねぇ」
「は?」
「……え?」
「アーク様に怒られますよー」

 真顔になるロウエンと戸惑うマルモはともかく、ルイスは黙っていなさい。ついでにアークへの報告もやめてほしい。

 スノウがロウエンを可愛いなんて言ったと聞いたら、アークはロウエンに怒るだろう。スノウはお仕置きされるかもしれない。アーク自身が「可愛い」なんて言われたくなかっったとしても、スノウが誰かを褒めるのは気に食わないだろうから。

「さてさて、みんなでお花見するよー」
「話、逸らしましたね?」
「マルモ、緊張和らいだね。体調も大丈夫みたいだし、お花見断らないよね?」

 にこりと笑う。マルモはそろっと目を逸らした。
 スノウは初めからマルモを逃がす気はなかったのだから、ぜひとも諦めてほしい。マルモって諦めるのが得意そうだから、問題ないはず。

 マルモの諦めグセにちょっぴり怒りが湧いていたのを、スノウは自覚した。
 ロウエンと仲良くなって、そのへんを矯正されるがいい。

「私も誘っていただけるのですか」
「……ウン、トウゼンダヨー」

 返す言葉が、つい棒読みになる。
 ロウエンがお花見に参加することは、最初から決まっていた。そのことをロウエンは知っていたはずだ。
 それなのに、スノウに問いかける表情には驚きが浮かんでいる。偽りだと分かっているのにそう思えない。相当な役者だ。

 ちょっと白い目を向けてしまうのは許してほしい。ここ最近の不安定さが嘘のようで、ロウエンにサポートが必要なのか、はなはだ疑問に思えてきた。

「はい、準備できました。皆さま、お座りください」

 あらかじめ用意しておいたテーブルと椅子。そこにはルイスが用意した軽食やスイーツ、お茶が並んでいた。とても温かくて美味しそう。

「マルモ、こっち」
「わっ……スノウ様、あまりに恐れ多いです……!」
「大丈夫大丈夫。ロウエンさん、意地悪みたいだけど、怖くないからー」
「スノウ様にはそうなのかもしれませんが……!」

 弱々しく抵抗するマルモを席に座らせ、スノウはその隣を陣取る。向かい側にはロウエンが腰を下ろした。ルイスは給仕役だから座らない。

「あ、ロウエン様、昨日のお詫びに、甘くないスイーツもご用意したので、ぜひご賞味ください」
「……お詫び?」
「ええ。後から、陛下に叱られました」

 てへ、と笑うルイスを、ロウエンが少し冷たい目で流し見た。ため息ひとつで文句は飲み込んだみたいだ。

「……気にする必要はない。私も苛立っていたから、少し言葉がきつくなった」
「そうですねぇ。眼差しに『スライムごときが!』って感じが滲んでました」
「スライム族を差別しているわけではないよ。区別はしているが」

 否定しないのか。
 ロウエンが少し侮蔑的にルイスを睨んだのは、スノウも気づいていた。だからこそ、ちょっと傲慢な感じに受け取ったのだ。

「いったいなにが……?」

 こそっと尋ねてくるマルモに、なんと返すべきが迷う。ルイスもこんな場面で言うことじゃないだろうに。たまに空気を読めないときがあるから困る。

「……ルイスが昨日ロウエンさんをからかって、怒られちゃったの」
「宰相様を、からかう……!?」

 マルモはドン引きした顔をしていた。ロウエンはマルモにとって恐ろしい存在のようだ。

(うーん……もしかして、運命の番だってことに、気づけてない? フェロモンを嗅ぎ取れないのかな。ロウエンさんに梅のアロマオイル掛けておけば良かった……)

 たぶん、本能的に惹かれている部分はあるのだと思う。会った瞬間に顔を赤くして動揺していたのはそのせい。
 でも、フェロモンは嗅ぎ取れない。だから、運命の番なのだと気づけない。

 人工の香りならば誤認できるのに、本当の香りに反応できないとは、フェロモン異常症とはなんと厄介な病なのだろうか。

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