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やつれた二人
3.
しおりを挟む「懐かしいなー。二人で合格発表を見に行ったよね!」
舞葉が祭りの開かれている神社の境内を一望しながら言う。
「私が合格祈願の為にこの神社に通ったから、景太君は入学できたのかな?」
「僕がちゃんと勉強したから合格出来たんだよ…。でも…」
僕も舞葉と同じ様に、周りを見回した。
「子供の頃からずっと、僕達を見守ってくれてた神社だからね。もしかしたら、神様の手助けもあったのかも…」
しみじみと言って感慨にふける僕の顔を、舞葉は横から覗き込んでくる。
「合格が分かった後に、私の家でパーティーしたの覚えてる?」
「あー…。覚えてるよ」
僕はその時のことを思い出して、苦い顔をした。
「お父さんたら、お酒の飲み過ぎで酔い潰れちゃって。あんな風になってるのを見たの初めてだったなー」
「あはは…、でも嬉しかったよ。それだけ僕が合格したことを、喜んでくれてたみたいだったから」
まるで自分の家族を祝うかの様に、あの時は盛大にもてなしてもらった。
お酒の入った状態で、舞葉の父が僕に言ったことを思い出す。
そしてそのときの言葉を、僕は口に出して呟く。
「ここがゴールでは無いよ。君が医者になるための道は、ここから始まるんだから…か」
今でも僕の中に刻み込まれている言葉だ。
その道を一歩一歩進んで来た僕は、来年には大学を卒業する。
それもまたゴールでは無い。
これから先に終着点は無いのだ。
僕は拳を握りしめて、その思いを噛み締める。
その様子をみた舞葉は、黙って僕を見つめる。
彼女は何も言わず、ただ静かに僕の事を見守っているのだった。
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