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最終章 マウリ様との結婚

2.マウリ様とミルヴァ様の進路確定

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 マウリ様とミルヴァ様は今年度で高等学校を卒業して、研究課程に通うようになる。研究課程に通う手続きもしなければいけないのだ。朝食の席でそれをマウリ様とミルヴァ様はわたくしに頼んで来た。

「アイラ様、進路をエロラ先生とエリーサ様とオスカリ先生と話すんだ。一緒に高等学校に来てくれる?」
「わたくし、お話しした後には、ラント領の研究課程に行かないといけないのよ。ついて来てくださる?」

 ヘルレヴィ領の高等学校のサンルームとラント領の高等学校と研究課程の魔法学の教室とは繋がっていたが、ミルヴァ様が一人だけでラント領の研究課程に進路を提出しに行くのが心細いのは理解できる。

「わたくしでよければ参りますよ」
「ありがとう、アイラ様」
「よろしくお願いします、アイラ様」

 話が纏まろうとしたところで、カールロ様とスティーナ様のため息が聞こえた。

「俺はマウリとミルヴァの父なのに、どうしてアイラ様の方を頼るんだろう?」
「わたくしもマウリとミルヴァの母のはずなのですが、アイラ様を頼っていますね」
「マウリはアイラ様のことが好きだから分かるけど、なんでミルヴァまで!」
「わたくしたち、頼られていないのですね」

 苦笑しながらの言葉だったが、それに対してマウリ様もミルヴァ様もそうではないのだと言い返す。

「父上と母上は忙しいと思ってるから。私は、自分でできることは自分でしたいんだ。アイラ様がいてくれるとすごく心強いだけで」
「わたくしも、父上と母上の手を煩わせることではないと思っているわ。アイラ様が一緒だとラント領ではものすごく心強いけど」
「やっぱりアイラ様がいいんだね」
「アイラ様、マウリとミルヴァをよろしくお願いしますね」

 苦い笑いを浮かべながらもカールロ様とスティーナ様はマウリ様とミルヴァ様のことをわたくしに任せてくれた。
 移転の魔法で飛んだサンルームにはエロラ先生とエリーサ様とオスカリ先生がいて、少し遅れてフローラ様とターヴィ様も登校してくる。マウリ様とミルヴァ様は早速エロラ先生とエリーサ様とオスカリ先生に話しを始めていた。

「私は研究課程で、政治学や歴史学の他に、ダイコンさんの研究をしたいと思っているんだ。ダイコンさんは、他のマンドラゴラとは明らかに違うでしょう?」
「わたくしも研究課程でニンジンさんの研究をしたいのよ。政治学や歴史学は当然勉強するけれど」
「ダイコンさんの研究は、研究課程の先生たちではできないと思う。エロラ先生とエリーサ様とオスカリ先生の手助けが必要なんだ」
「わたくしも、研究課程はラント領の方に進もうと思っているけれど、ニンジンさんの研究にはこのサンルームに来たい」

 マウリ様とミルヴァ様の説明をよく聞いて、エロラ先生とエリーサ様とオスカリ先生が顔を見合わせる。

「マンドラゴラの研究か。しかも、ドラゴンと一緒に育った特殊な能力を持っているマンドラゴラ」
「わたくしも興味ありますわ。ぜひ研究してみたいと思っています」
「マンドラゴラだけでいいのかな? キノコブタや南瓜頭犬やスイカ猫は?」

 オスカリ先生の問いかけにマウリ様とミルヴァ様が「あ!」と声を上げた。

「キノコブタも、南瓜頭犬も、スイカ猫も研究したい!」
「ニンジンさんを中心に色んな魔法植物を研究したいわ」

 マウリ様とミルヴァ様の返答に、エロラ先生とエリーサ様とオスカリ先生が頷く。

「協力しよう!」
「ラント領の研究課程に出す書類を見せてください。記入しますわ」
「メルヴィ・エロラと、エリーサ・サイロと、私、オスカリ・ハールスが指導すると書こう」

 マウリ様とミルヴァ様の進路はこれで決定した。他の項目も全部埋めて、マウリ様は高等学校と隣接している研究課程の校舎に書類を出しに行く。わたくしは調合室を通って、ミルヴァ様とラント領の研究課程に行っていた。
 教務課に行くと、ミルヴァ様が書類を提出する。不備がないことを確認して、教務課の職員さんはそれを受け取ってくれた。

「これで、わたくしも来年からラント領の研究課程に進めるのね」
「ミルヴァ様が離れて暮らすようになるのは寂しいですが、いつでも会えますよね」
「アイラ様が会いに来て下さったら、いつでも会えるわ。わたくしが飛んで行ってもいいのだし」

 そういえば、とミルヴァ様がわたくしに話してくれる。

「クリス様とデートをしたときに教えてもらったの。フェンリルとしての自覚を持ってから、クリス様も少し変わったみたいで、背中に羽が生えて来たんですって!」
「フェンリルだから飛べるのでしょうか?」
「きっと飛べるのだと思うわ。成人してから羽が生えるタイプだったのじゃないかしら。羽が生え揃ったら一緒に飛ぶ約束をしているの」

 クリスティアンもただの狼ではなくてフェンリルだったと言っていたが、羽が生えて来るとは思わなかった。父上にも母上にもそんなものはなかった気がするので、フェンリルとして自覚をもって覚醒しなければ生えないのかもしれない。
 クリスティアンは公爵家の息子であるのにただの狼であることに劣等感を抱いていたようだから、フェンリルとして覚醒したということはわたくしにとっても嬉しい出来事だった。

「わたくし、考えるの。クリス様と結婚したら、赤ちゃんはフェンリルか、ドラゴンか、それとも全く違う獣か。いいえ、獣の本性を持っていなくてもいい。わたくしはアイラ様のことを尊敬しているし、アイラ様が魔法を使えなくても、きっと立派に辺境伯領とラント領とヘルレヴィ領を繋いでいたと思っているの」

 ミルヴァ様とこんな風にしっかりと喋るのは初めてかもしれない。ミルヴァ様はこんなことを考えていたのかと驚かされる。わたくしを尊敬していて、魔法の力がなくても辺境伯領とラント領とヘルレヴィ領を繋いでいけると信じてくれている。

「それは、わたくしがラント家の娘で、ヘルレヴィ家の次期後継者の婚約者だからです」
「そうなのよ! その地位を存分に使えている。そのことがアイラ様はすごいの!」

 わたくしの実力ではないと言おうとしたら、ミルヴァ様から否定されてしまう。生まれたときから持っている地位を使えるのも実力の内なのだとミルヴァ様は言っている。

「なんだか気恥ずかしいですね」
「アイラ様はもっと胸を張っていいのよ!」
「胸を張って……そうですね。そうします」

 わたくしはもっと自分に誇りを持たなければいけない。
 そのことをミルヴァ様に教えられた気分だった。
 ヘルレヴィ領の高等学校のサンルームに戻ると、マウリ様も戻って来ていた。エロラ先生とエリーサ様とオスカリ先生が、マウリ様とフローラ様とターヴィ様に魔法学を教えている。学問として理解することができれば、ヘルレヴィ領でも魔法を使うひとたちの理解がしやすくなる。真面目に授業を受けるマウリ様の隣りで大根マンドラゴラのダイコンさんもソファに座って神妙な顔で授業を聞いていた。

「アイラ様、わたくしも勉強して来るわ。ありがとうございました」
「どういたしまして、ミルヴァ様」

 お礼を言われてわたくしはヘルレヴィ家に帰る準備をする。ヘルレヴィ家に戻るとサラ様とティーア様が、エミリア様とライネ様とダーヴィド様と一緒にサロモン先生の授業を受けていた。

「この国の国民のほとんどは獣の本性を持っていると言われています。その中でも特に希少なのは、ドラゴンやグリフォンやペガサスやフェンリルなどの幻獣です。ヘルレヴィ家はドラゴンの家系、シルヴェン家はグリフォンの家系、王家はペガサスの家系、ラント家はフェンリルの家系と言われています」
「わたくし、ドラゴンよ!」
「わたくし、グリフォン!」
「ティーちゃん、きしょーだわ!」
「さーちゃんもきしょーだわ」
「きしょーってなに?」
「わからない」

 授業を聞きながら話すサラ様とティーア様にサロモン先生が説明する。

「希少とは、とても珍しくて数が少ないということです」
「わたくし、とてもめずらしくてかずがすくないのよ! どういうこと?」
「えーっと、どういうことかしら?」
「サラ様とティーアは強い力を持った幻獣で、その本性を持つものはとても少なくて特別ということですね」
「わたくし、とくべつ?」
「わたくしも、とくべつ?」
「そうですね。ですが、獣の本性だけが全てではありませんからね。本当に特別な存在になれるかは、これから先の人生でどれだけ学び、豊かに暮らせるかが重要です」

 小さな生徒のサラ様とティーア様にも分かるようにサロモン先生は授業をしてくれている。この日からサラ様とティーア様もサロモン先生の授業に参加するようになった。色んなことに興味が出て来る年齢なのだろう。二人とも真剣な眼差しでサロモン先生の話を聞いていた。
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