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第一章「青の髪紐」
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グランボワ王国。約1億人ほどが暮らす小さな国。病弱な王に代わって女王が統治しているそうだ。
街に出れば子どもの明るい声が響き、様々な交易品が市場を彩っている。一方で開拓されていない森林も多く、自然あふれるこの国をジャンは気に入っていた。
将来はお気に入りの湖畔に小さな家を建ててひっそりと暮らすのが夢だ。目下の目標は王宮騎士になることだが。
ジャンはお熱い二人と別れてから、家には帰らず街外れの森に入っていった。しばらく歩くと澄んだ深い青の湖が見えてくる。
昔はこの湖にたどり着くために道を何度も迷い父にかなり心配をかけたが、今は目をつぶってでもたどり着ける。なにか考えたいことがあるときはここに来るのだ。
ジャンは不思議と、あの二人を見ると無性にここに来たくなるのだった。
背の高い木々に囲まれた小さな湖。風も届かないこの場所では、湖の水面同様自分の気持ちも凪いだ。誰もいない、透明に澄んだ湖。
湖のほとりにしゃがんで水面の自分と見つめ合った。
「ふふ、ひでー顔」
こちらを見つめてくるジャンをジャバジャバと指でかき混ぜた。
――――――――――――――――
「あのっ!エルネスト様!」
小さくなっていくジャンをぽけーっと見つめるエルネストの視線を奪うように話しかけるリビア。
思ったよりも大きな声が出たせいか、驚いたエルネストが零れ落ちそうなサファイアをギュンとリビアに向けた。
「あっ、ごめ、ドレスだよね。僕の目の色にしてくれたんだ。青、すごく似合うと思う」
「あ、ありがとうございます。色んな青色を見てエルネスト様の瞳に近い色を探したんですよ」
「ふふ、当日答え合わせだね」
そういって穏やかに笑うエルネストに、リビアは心がキューンと締め付けられる。
先ほどジャンに見せていたやんちゃな男の子っぽさも可愛くて好きだけど、リビアだけが見ることのできる背伸びした男の子の顔はもっと好き。
だがリビアはこの話のためだけにわざわざ訓練場に来たわけではない。リビアはこの日とある決意を胸にエルネストの元へやって来たのだ。
そう、デートの誘いである。
本来こういったことは男性側から提案されるものだが、婚約から一か月、リビアの期待とは裏腹にエルネストは関係を深めるのにかなり慎重だった。
どれくらい慎重かというと、初めての手紙には甘いものが好きだとか赤色が好きだとかいう話が書いてあり、2通目の手紙には剣術でジャンに負けた話、3通目には招待されたパーティーの衣装の話である。まだデートすらしていないのに。
毎度毎度手紙の裏面まで必死になって「追伸」を探し、なんならメイドにも探してもらったが、リビアはどこにも見つけることができなかった。
親の決めた婚約ではあったが、リビアはエルネストの顔の造形に似合わない初心さや、何度負けてもジャンに挑むど根性な男の子らしさ、リビアに対して紳士らしく振舞おうとする誠実な姿に恋に落ちた。
そしてエルネストの様子を見て、意識しているのは自分だけではないはずという自信もあった。
なのにどうしてデートに誘ってくれないのか。
憧れていたお庭デートやカフェデートイベントを周りの淑女たちが婚約者相手に着々とこなしていく様子を、いつも羨ましそうに眺めることしかできない。
リビアは分からないことを考え続けるのが嫌いだった。だから思い切ってデートに誘うことにしたのだ。
「ちゃんとしたパーティー初めてだし緊張するなぁ」
「・・・そうですね・・・」
「あ、リビアは経験あるんだっけ。俺が変なことしてたら遠慮なく教えてね」
「ッスーー」
周りに人はいないのに、こっそり耳うちするように恥ずかしそうに伝えてくるエルネストに、リビアはしっかり庇護欲を刺激される。
リビアが勇気を出してデートの誘いをしようとしていることなんて、思いもしないのだろう。
口をまごまごさせるだけで何も言わないリビアの顔を、エルネストが銀髪を揺らして心配そうに覗き込む。そのしぐさにまたキューンと胸が締め付けられたじろぐが、女リビア、ここで止まるわけにはいかないと大きく息を吸い込んだ。
「エルネスト様!」
「ん?」
「わ!!私と!・・・・・・デート、しま・・・せんか・・・・・・?」
リビアが真っ赤にした顔をおそるおそるエルに向けると、えっ、えっ、とか言いながらみるみる赤くなるエルの姿が。
「ご、ごめん。俺から誘うべきだったよね。その・・・リビア何が好きか分かんなくて、どこに誘ったらいいか分かんなくて・・・」
「そんな!私はエルネスト様と一緒ならどこだって楽しみです!」
「ナッ!!」
リビアの前ではカッコつけて「僕」と言っているエルネストが動揺して「俺」と言った。それだけでリビアの心は小躍りしている。
さらにデートに誘わなかった理由も分かり、やっぱり可愛い人だとリビアは思った。
「・・・もしリビアが良ければ、今から街に出ない?」
こんなカッコで申し訳ないんだけど、と自分の服の汚れを気にしだすエルネストに、リビアは満面の笑みを浮かべて言った。
「もちろん!」
街に出れば子どもの明るい声が響き、様々な交易品が市場を彩っている。一方で開拓されていない森林も多く、自然あふれるこの国をジャンは気に入っていた。
将来はお気に入りの湖畔に小さな家を建ててひっそりと暮らすのが夢だ。目下の目標は王宮騎士になることだが。
ジャンはお熱い二人と別れてから、家には帰らず街外れの森に入っていった。しばらく歩くと澄んだ深い青の湖が見えてくる。
昔はこの湖にたどり着くために道を何度も迷い父にかなり心配をかけたが、今は目をつぶってでもたどり着ける。なにか考えたいことがあるときはここに来るのだ。
ジャンは不思議と、あの二人を見ると無性にここに来たくなるのだった。
背の高い木々に囲まれた小さな湖。風も届かないこの場所では、湖の水面同様自分の気持ちも凪いだ。誰もいない、透明に澄んだ湖。
湖のほとりにしゃがんで水面の自分と見つめ合った。
「ふふ、ひでー顔」
こちらを見つめてくるジャンをジャバジャバと指でかき混ぜた。
――――――――――――――――
「あのっ!エルネスト様!」
小さくなっていくジャンをぽけーっと見つめるエルネストの視線を奪うように話しかけるリビア。
思ったよりも大きな声が出たせいか、驚いたエルネストが零れ落ちそうなサファイアをギュンとリビアに向けた。
「あっ、ごめ、ドレスだよね。僕の目の色にしてくれたんだ。青、すごく似合うと思う」
「あ、ありがとうございます。色んな青色を見てエルネスト様の瞳に近い色を探したんですよ」
「ふふ、当日答え合わせだね」
そういって穏やかに笑うエルネストに、リビアは心がキューンと締め付けられる。
先ほどジャンに見せていたやんちゃな男の子っぽさも可愛くて好きだけど、リビアだけが見ることのできる背伸びした男の子の顔はもっと好き。
だがリビアはこの話のためだけにわざわざ訓練場に来たわけではない。リビアはこの日とある決意を胸にエルネストの元へやって来たのだ。
そう、デートの誘いである。
本来こういったことは男性側から提案されるものだが、婚約から一か月、リビアの期待とは裏腹にエルネストは関係を深めるのにかなり慎重だった。
どれくらい慎重かというと、初めての手紙には甘いものが好きだとか赤色が好きだとかいう話が書いてあり、2通目の手紙には剣術でジャンに負けた話、3通目には招待されたパーティーの衣装の話である。まだデートすらしていないのに。
毎度毎度手紙の裏面まで必死になって「追伸」を探し、なんならメイドにも探してもらったが、リビアはどこにも見つけることができなかった。
親の決めた婚約ではあったが、リビアはエルネストの顔の造形に似合わない初心さや、何度負けてもジャンに挑むど根性な男の子らしさ、リビアに対して紳士らしく振舞おうとする誠実な姿に恋に落ちた。
そしてエルネストの様子を見て、意識しているのは自分だけではないはずという自信もあった。
なのにどうしてデートに誘ってくれないのか。
憧れていたお庭デートやカフェデートイベントを周りの淑女たちが婚約者相手に着々とこなしていく様子を、いつも羨ましそうに眺めることしかできない。
リビアは分からないことを考え続けるのが嫌いだった。だから思い切ってデートに誘うことにしたのだ。
「ちゃんとしたパーティー初めてだし緊張するなぁ」
「・・・そうですね・・・」
「あ、リビアは経験あるんだっけ。俺が変なことしてたら遠慮なく教えてね」
「ッスーー」
周りに人はいないのに、こっそり耳うちするように恥ずかしそうに伝えてくるエルネストに、リビアはしっかり庇護欲を刺激される。
リビアが勇気を出してデートの誘いをしようとしていることなんて、思いもしないのだろう。
口をまごまごさせるだけで何も言わないリビアの顔を、エルネストが銀髪を揺らして心配そうに覗き込む。そのしぐさにまたキューンと胸が締め付けられたじろぐが、女リビア、ここで止まるわけにはいかないと大きく息を吸い込んだ。
「エルネスト様!」
「ん?」
「わ!!私と!・・・・・・デート、しま・・・せんか・・・・・・?」
リビアが真っ赤にした顔をおそるおそるエルに向けると、えっ、えっ、とか言いながらみるみる赤くなるエルの姿が。
「ご、ごめん。俺から誘うべきだったよね。その・・・リビア何が好きか分かんなくて、どこに誘ったらいいか分かんなくて・・・」
「そんな!私はエルネスト様と一緒ならどこだって楽しみです!」
「ナッ!!」
リビアの前ではカッコつけて「僕」と言っているエルネストが動揺して「俺」と言った。それだけでリビアの心は小躍りしている。
さらにデートに誘わなかった理由も分かり、やっぱり可愛い人だとリビアは思った。
「・・・もしリビアが良ければ、今から街に出ない?」
こんなカッコで申し訳ないんだけど、と自分の服の汚れを気にしだすエルネストに、リビアは満面の笑みを浮かべて言った。
「もちろん!」
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