連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。

KZ

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始まりのバレンタイン

雪のバレンタイン ⑤

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 再び降り出した雪が積もっていく。俺の身体の上に。しかし、それほど寒くはない。身体はね。
 心は、冷たーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーく、なってるけどね。キンキンに冷えきってるよ。

 どうやらこのプロデューサーとしての服は、物理的な寒さも軽減しているらしい。物理的な。
 まあ、二クスの火炎も吹雪も防いだわけだし……いや、あれは幻だからカウントしていいのか……──というか、あの野郎! あのイケメン!

 俺は今、あのイケメンを見たら確実に殺してしまう。控えめに言っても、絶対にぶっころしてしまう。
 だからこうして雪降る中で、キンキンに冷えきってる心の底から上がってくる殺意を冷ましているのだ。

 しかし、殺意は冷めず。心は冷たく。もう何もしたくないので、雪だけが身体に積もっていく。
 いっそのこと、このままリアル雪だるまになってしまおうか。そう思ったりもしている。

 それなら、あのクソイケメンのせいだと一筆書いておかないといけない。
 冷たい雪だるマンになってしまった俺を見て、死ぬほど後悔してほしいから。むしろ死んでほしいから。

 だが、書くとは言っても紙もペンもない。
 雪に書いたところで、ダイイングメッセージは自動消滅してしまうし。1回戻って……なんてするくらいなら、帰って寝よう。

 そうすれば、いくらかは殺意も冷めるかもしれない。そして真夜中に目覚めて、チョコレートを山ほど貰ったイケメンに嫌味を言いに行こう。あるいは呪おう!

 ……ヤツがイケメンなのは最初から分かっていた。だが、最初からチョコレートを貰えるほどだとは!
 この戦闘力の差は何? どうなってんの!?

「ただただヘコむわ。お姫様の気持ちが分かる。きえたい。もう生きていけない……」

 思っただけのつもりだったのに、口に出てしまった。そんな独り言は白い息と共に消えていく。

 ……なんか前にも同じこと言った気がする。
 これはあれだね。そろそろ、いろんな意味で終わりなんだね。そう思ったら泣けてきた。

「ううっ、イケメンのクソ野郎。何が、バレンタイン最初の年からチョコレートは貰えないだ。自分は貰ってんじゃん! 山のように! ううっ……」

 ニクスのやつは分かっていたんだ。『黙っていても、オレはチョコレート貰えんじゃね?』と。そうに違いない。
 それを俺に見せびらかすつもりだったんだ。あのクズ。

 ほんっとイケメンは特だよなーーっ!

 イケメンは特だよなーーっ!

 特だよなーーっ。

 だよなーーっ。

 な……。

「……」

 不意に雪を踏むような足音が聞こえた。
 俺は身も心も凍りつき、降る雪のように白く冷たくなっている。その俺の近くにザクザクと音は近づいてくる。

 とうとう幻聴まで聞こえてきた。
 いよいよ……お迎えが来たようだ。なんて、屋根のあるところに、這って移動したから死んだりはしないけどな!

 ただ、寒い。物理的にもそろそろ寒い……。

 服は濡れ、体温を奪われている。寒さを防いでいても、これだけ濡れたらダメらしい。フードも意味ない。
 それでも帰らないのは意地だ。ぜんぜん意味はない。無意味な意地だ。

「まったく、どこにいるのかと思ったら。あんたは何で泣いてるのよ」

「それを知りたいのか。本当に?」

 息は切れていないが、髪もドレスもおそらく雪で濡らしたお姫様が現れた。
 その様子から察するに、たぶん俺を探していたんだろう。

「いい、興味ないし」

「──聞けよ! ……ニクスがチョコ貰ってた。城の女の子たちから……。あの野郎。自分は貰えると知っていて、俺にチョコレートを振る舞う会にしてはどうかって、言いやがったんだ! そうに違いない!」

「それ、あたしのせいだわ。ごめん。女の子からチョコレートを好きな人に贈るって教えたの」

「お前、なんてことを──」

 お姫様が教えなければ、イケメンといえどチョコレートは貰えなかったのか?
 いや、ヤツを甘く見てはいけない。チョコレートだけに! どんな状況でも二クスはチョコレートを貰っていた!

「ねぇ、そのお姫様とか、お前とかやめない?」

 唐突にお姫様はそんなことを言う。
 そりゃあ俺だって、それを思わなかったわけでも、考えなかったわけでもない。しかし……。

「だって、名前知らないし……」

「そこから始めましょう。ルシアよ。私の名前……あんたは?」

白夜はくや 零斗れいと

「……レイトね。覚えたわ。零斗、立ちなさい!」

 なんだと言うんだ? お姫様……じゃなかった。ルシアか。
 突然なんだとは思うが、言われた通りに立ち上がる。すでに迷惑かけてしまっている俺が、ここで駄々をこねるわけにはいかないし。

「ほら、立ったけど?」

「……ちょっと待って。ちょっとね」

 思えば、俺たちは自己紹介もしなかった。
 最初にちゃんと会話した時から、言い合いをしてしまったから。

 それにルシアは俺を男として見ていなかった。それはどうでもいい他人だったから。
 なら、これは多少は距離が近づいたということなんだろう……か?

 そういう俺もお姫様としてしか見ていなかった。だから、お姫様と呼べばいいと思っていた。
 興味がなかったわけではないのに、それを口にはしなかった。

 だからおあいこだ。

 今日まで関わって、少しだが俺たちは互いを知った。ならば俺たちの関係は、ここから始まるのだろう。
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