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第2章 幼年編
103 一閃
しおりを挟む話は再び、現在に戻る。
「やられたよ。まさかこんな村にとんでもない化け物が何人もいたとはな」
盗賊の男はヨハン父さん並の偉丈夫だった。
「せめて冥土の土産に坊主を連れていくか」
刺突の構えを前に、男が俺に向け瞬時の走りを見せた。
突貫!?
刀には致死性の毒が纏われている。
師匠の言葉が浮かぶ。
「死んでも満足か」
死にたくない。
でもここでコイツを逃せば、また誰かが被害に遭う。
死にたくない。
俺は家族を、村を守りたい。
ひくのも覚悟。
戦うのも覚悟だ。
刀を上段に構える。
何千、何万回と練習した型を身体が覚えていた。
その型が盗賊団の頭目を前に、意識せずに均整よく構えられた。
スキも無い、美しい師匠のあの構えだ。
スーハースーハー‥スーー
呼吸がだんだんと落ち着いてきた。
そんな呼吸に併せるように、心も落ち着いてくる。
「死ね!」
盗賊団の頭目が突貫を発現して駆け寄る。
スローモーションのように、刺突の敵の動きが解る。
スースー
自分の心音のみが聴こえる。
スースー・・・
やがて心音も、一切の音も聞こえなくなった。閑かな境地というんだろうか。
汗がポタリ落ちた。刺突の構えで迫り来る盗賊を目で追った俺は刹那、俺は刀を振り下ろした。
ここっ!
ザンッ!
俺の足がガクンと落ちた。
崩れ落ちた。
緊張の糸が切れたんだ。
「まさか、こんなガキに‥ガフッ」
ドウッ
盗賊団の頭目が倒れる。
少し離れた場所から3人の師匠が見守る。
「アレク君‥よくやった」
「神父様‥アレク君が、アレク君が‥」
涙目のシスターナターシャがディル神父を見る。
「これでヴィヨルドに行っても負けることはないじゃろう」
「ええ!ええ!」
幾つも家屋は燃やされた。
傷ついた人も多い。
だが奇跡的に、本当に奇跡的に死者は出なかった。
▼
門を開いた犯人は、逃げる間もなく捕まった。それはブッヒーをいじめていたあの男だった。
男は昼間に堂々と村に入った。何人かの村民は多少は不審に思ったという。が、まさか盗賊の手引きをするとは思わなかっただろう。
夜間まで身を潜め、夜半に門の鍵を開けたのもこの男だ。
領都に送られた男はほどなく斬首となった。
▼
災い転じて福となすということもある。この機に合わせて、俺は川から村に水路を引いた。火災は恐いからね。緩やかに流れる水路は船を浮かべて観光やレジャーにもなるかな。
「ピーナさんじゃあ全額デニーホッパー村でお願いします」
「わかったわ」
「アレク君‥君は‥」
チャンおじさんが立ちすくんでいた。
俺は見舞金として100戸ほどの村民全世帯にお金を渡した。
商業ギルドに貯まった俺の現在持っているお金のすべてだ。
シスターナターシャも協力してくれて教会で町長(チャンおじさん)からすべての家長に渡された。
サンデー商会からもミカサ商会からも、日々の生活で使う多くの日曜雑貨品が村に寄贈された。
隣の村やノッカ村からは毎日のように手伝いにきてくれた。
多くの人たちの復興支援もあって村の復興はハイペースで進んでいる。
春間近。
領都学校の卒業が近づいた。
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