アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

163 セーラ・ヴィクトル

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ラッキーナンバーを当てた俺が、準々決勝の10傑を争う相手はセーラだった。
いつもと同じ、魔法着の下には女神教シスターたちが着る修道服に魔石のはまった杖を持ったセーラが姿勢良くすっと立っている。

「セーラ」

「アレク」

「遠慮なくいくよ」

「ええもちろん」

なんかね、大切な仲間との闘いはワクワクするような、闘いたくないような、複雑な気持ちだよ。
そうは言っても全力で闘るよ、俺は。

武闘祭、セーラの武器は魔法壁のひとつだけ。
これを破れれば俺の勝ち、破れずに範囲外に出れば俺の負け。極めてシンプルな闘いになる。
いつものように、テニスコート1面ほどの対戦会場の真ん中あたりに介する2人とステファニーちゃん。

「1年1組セーラさん用意はいい?」

「はい」

「1年1組アレク君用意はいい?」

「わんわん」

「キモっ!」

(あっ!やっぱり「キモっ!」って言った!しかも速攻で‥)



お互い握手をするセーラと俺。

「じゃあいくよ、はじめ!」

開始と同時に詠唱をするセーラ。

「護り給へホーリーガード(魔法壁)!」

ブーーーーーンッ!

目にはハッキリ見えないが正面の空気が微かに歪んで見える。まるで夏のアスファルト面のようだ。そんな魔法壁がゆっくり迫ってくることは微かに動く訓練場の土でわかる。だんだんとコートを覆い出す魔法壁だ。

まずは土魔法から石礫を発現。これを投擲して試す。

カーンッ!

見えない空中ではね返される石礫。
じゃあ次は硬度を増した岩石を槍衾のように進行上の地面に発現してみる。

ガガガガガガガガッグシャッ!

姿勢を保てなくなった槍衾の岩石はグシャグシャと崩れ落ちた。

(一緒セーラが顔を顰めた気もした)

今度は魔法壁の内側にいるセーラを狙って、内から土塀を発現しようとするが、発現しない。

「エアカッター(風刃)」

ガガガガガッ!

エアカッター(風刃)もだめだ。
うーんどうしよう?

この魔法壁ってどこまで高く広がっているんだろう?
ひょっとして魔法壁を乗り越えられるのかな?
試すか。

ゴゴゴゴーー!

5階建くらいの高さまで発現した土塀に乗ってその上から再度魔法壁を抜けようかと叩いてみる。

コンコン、ガンガン!

叩いても蹴ってもびくともしない。

うーん。
どうしよう?

何気にセーラを見ると、薄らと汗をかいているのが見えた。




あっ、そうか!

魔法壁。これもやっぱり魔力の発現力だもんな。
だったら真っ向からの魔力勝負でいくか。
土塀を元に戻してコートに立つ俺。

「金剛!」

両脚にしっかりと力を入れて、相撲の鉄砲のように、見えない鉄砲柱(魔法壁)に向けて張り手を繰り返す。

バンバンバンッ!

張り手には魔力も風魔法も纏わせて前へ前へ
見えない魔法壁に両手を添えて、張り手を繰り出す。

バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!

全力で押す。押す。押し続ける。
捻りも何もなく、ただ愚直に押し続ける。
背にはシルフィの風、足元には土の精霊ノームの力を借りて。

バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!

とにかくただひたすら、一生懸命に張り手を続けるが‥‥それでもジリジリと後退していく。

透明な壁の向こうでもセーラが一心不乱に杖を両手に祈るように魔力を発現している。

何くそ!

だんだん後退していく俺。気持ちだけは負けないぞ!

「どっせーい」

バンバンバンッ!

「どっせーい」

バンバンバンッ!

思わずレベッカ寮長のようにかけ声が出る。

滝のように汗が出るがセーラのこめかみあたりからも滴る汗がはっきりと見えるし、眉間の皺も刻まれているのも判る。

セーラも必死。

俺も必死。

まだまだ。
ホーク師匠に初めて教わったとき、師匠が言った。
人の魔力には限りがあると。だから魔力を高めろ、日々魔石に魔力を込め続けろと。それでも魔力が尽きるときがある。だから精霊の力を借りるんだと。

「どっせーい」

バンバンバンッ!

「どっせーい」

バンバンバンッ!

「どっせーい」

バンバンバンッ!

‥‥‥止まった。

パリーンッ!

同時に、何も見えない空気中でガラスが割れるような音がした。

ガクンっ!

それと同時に膝をつくセーラがいた。
慌ててセーラの下に行く俺。

「はぁはぁはぁ、私の負けです‥‥」

「おつかれセーラ」

セーラの手を取り、起き上がるのを手伝った。


魔法壁の強さは聖魔法を発現するセーラの、圧倒的な強さの体現だ。

「セーラ、必ず10傑に入れよ。待ってるぞ」

「はいアレク。待っててくださいね」

汗びっしょりにニコッと笑うセーラ。
その姿に俺はなぜか心が動かされた。



最終予選、ラッキーカード(ラッキーナンバー)からの主人公らしからぬ?勝ちを経て。
俺はついに10傑へと辿り着いた。






武闘祭を見守る学園長サミュエルと副学長が話す。

「サミュエル学園長、ヴィンサンダー領のアレク君、やりますなあ。1年生の10傑はマリーさん以来5年ぶりですかな」

「ですな副学園長。聖魔法士のセーラさんもおそらくは」

「10傑となるべく武闘祭の規約は作られておりますからなぁ」

「アレク君の10傑はまさに実力ですな」
「サミュエル学園長が時おり言われるイノナカノ何とかですな」

「ははは。ですな、ですな」
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