アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

265 バブルスライム(前)

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ピヨーン  ピヨーン  ピヨーン  ピヨーン  ピョーン ピョーン‥

バスケットボール大のスライムが1体向かってきた。

 「アレク!」
 「はい、キム先輩!」

索敵網に引っかかる、わずかばかりの気配。それは確かにスライムなのだがその違和感が半端なかった。アレク袋として日常的にお世話になっているスライムには人一倍の愛着さえあるのに、この違和感はどうだ。首の後ろあたりがピリピリと痛い感じがする。

 「アレク、気をつけろ!」

キム先輩でさえ、俺に初めて見せる顔つきとなった。

ピョーン ピョーン ピョーン ピョーン‥

近づいてくるスライムに思わず鳥肌も立つ。
即座にニャンタおじさんの「教え」を思い出す。
(直感を信じろ。躊躇するな)


 『コイツは強い‥』
 「ええアレク、強いわよ‥」

俺の呟きにシルフィも応える。

 「シルフィ!アイツ‥」

マリー先輩に憑く風の精霊シンディがシルフィに叫ぶ。

 「ええ、バブルスライムよ!」

マリー先輩もすかさずみんなに警戒を促がす。

 「みんな気をつけて。バブルスライムよ!」
 「バブルスライム?」
 「ええ、レアな個体ね。学園ダンジョン50年で1度だけの出現。スライムだけどかなりヤバい奴よ!」

 過去の学園ダンジョン探索の記録では1度しか出ていない。その1度は、今も行方不明のホーク師匠のお兄さんが記録を樹立した回だな。

 「セーラさんは障壁に入ってて。かなり強力に発現してないと破られるわよ!」
 「はい!守り給えホーリーガード(聖壁)!」

リアカーの効果は絶大だ。これまでどおりのポータースタイルならシャンク先輩もセーラと一緒に後方待機となってたけど、今は違う。シャンク先輩も重要な戦力なんだ。


◯バブルスライム
スライムの特殊個体。人畜無害のスライムの亜種と考えず、まったくの別種の魔物と理解したい。
ベテラン主体の鉄級パーティーで会敵しても可能であれば、逃げることを推奨する。

バブルスライムの体当たり攻撃力はオークキングの斧の一撃に匹敵するため、極めて危険である。耐性は極めて高い。
表皮を纏う泡が魔法攻撃も物理攻撃も緩和すると考えられている。
体内を常に流動する爪の先ほどの真核に攻撃が命中すれば倒すことができる。食用不可。魔石は希少。ドロップ品を落とす率も高い。


ピョーン ピョーンと近づいてくる速度も従来のスライムとは比較にならない速さ。500メル先で探知してから、あっという間に50メルを割ってきた。

 「スライムのくせになんて凶々しいんだ‥‥」

 「キム先輩?」
 「ああ、俺も初めて見る‥」
 「マリー先輩?」
 「ええ、私も初めてよ」
 「記録では魔法は効かないわ。あの身体のどこかにある真核を貫くまでは終わらないわね」
 「後ろにブーリ隊がいるから逃げの選択はないな」
 「そうね」
 「では一応雷魔法で試します!」
 「じゃあ私も矢を」
 「マリー先輩、石化の矢を使ってみてください」
 「ええ」


たぶん雷魔法でも効かないだろうなって気はしたんだ。それでも今まで何度も何度も助けられた雷魔法だもんな。わずかばかりの期待をしつつ‥‥。

 「サンダーヴァレット!!」

意識して強い魔力を込めて撃ち込んでみた。

バチバチバチバチバチバチバチバチッ!


サンダーヴァレットがバブルスライムを直撃する。
一瞬バブルスライムの体内が青白く光り、高圧電流が駆け巡った。

 「やったか?」
 「アレク、倒した‥‥?」

一瞬期待したんだけどね……。

ジュワッッ

バブルスライムの表皮を纏う泡が雷魔法の威力をまるで無効化にしたんだ。体内を直撃しま高圧電流は避雷針のように、地中へ逃げ去っていった。

ピョーン ピョーン ピョーン ピョーン‥

 「チッ、やっぱり効かないか」

シュッ!

さらにその直後、マリー先輩の矢が放たれる。もちろんシンディの補正付きの正確なスナイパーの矢だ。

ザンンンッッッ!

 「さすがマリー先輩です!」

セーラが歓声を上げるが……。

ジュワワワッッ

バブルスライムの体内の半ばまで突き刺さった矢。この矢もバブルスライムの表皮を纏う泡でジュワッと溶け落ちた。シュワシュワと体内の柄も溶けて吸収された。


ゲフッ!
プッ!
カラーーンッ

金属製の矢尻は、まるで酔っぱらいのおっさんのゲップと唾吐きのように排出された‥‥。

ピョーン ピョーン ピョーン ピョーン‥

間髪入れずに俺は持てる魔法を発現する。

 「煉瓦ヴァレット!」

ダンダンダンダンダンッ!

ジュワワワッッ

得意としている土魔法を放っても纏う泡に阻まれて効果なし。煉瓦の山に埋もれても逆再生の水のように外へ出てくるバブルスライム。


 「エアカッター!」

サクッ   ザクッ
ジュワワワッッ

精霊魔法のエアカッターでさえ、一瞬身体がズタズタに裂けるのだが、すぐに元どおり繋がってしまう。

 「ウォーターヴァレット!」
 「ファイアボール!」
 「槍衾!」
 「サンダーンポォー!」
 「スパークライトー!」

ジュワワワッッ
ジュワワワッッ
ジュワワワッッ

思いつく限りの魔法を発現してみるが、そのすべてが阻まれていく‥‥。
土に閉じ込めても、火の海に包んでも、水の中に沈めてもすぐに再生進軍が始まるのだ。

ピョーン ピョーン ピョーン ピョーン‥


 「チッ、何1つ効かないな‥」
 「マリー先輩、前回のバブルスライムはどうやって倒したんでしたっけ?」
 「たしかデューク叔父さんが矢で倒したはずよ」
 「あの中の真核を射抜いたんですよね?」
 「おそらくね‥」

すげぇよな‥。
バスケットボール大の中で常に流動し続ける爪の先ほどの真核を射抜くなんて。俺には到底不可能だ。
精霊魔法を発現できるようになった俺でさえ理解できる、ホーク師匠のお兄さんの狙撃精度。驚くしかない。
 

ピョーン ピョーン ピョーン ピョーン‥

ついに彼我の距離は10メルを切った。
前衛は横並びでキム先輩と俺。やや下がる中段にマリー先輩とシャンク先輩。本陣の障壁の中にセーラ。
バブルスライムの銀色の体内に浮かぶ唯一の真核もハッキリ見える。赤い爪の先ほどの小さな真核‥‥。
さて、どうしよう。

と。

ギユュュュンンッッッ!

刹那。バブルスライムが一足飛びにキム先輩に飛びかかった。
疾い!俺よりもはるかに俊敏なキム先輩でさえ回避することができなかった。絶対に油断していない。それでもコンマゼロ秒の遅れが直撃するバブルスライムの体当たりだ。


ガアァァァンンンッ

大型車の正面衝突のような激しい衝撃音とともに。キム先輩が吹き飛ばされた。



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