アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

268 闇落ち

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パリーーーーーンッッ



ガラスが割れたみたいな、何か大切なものが壊れたような音がしたんだ。でもスッと身体が軽くなったからいいかなって。身体がというよりは心が軽くなったのかもしれないな。
なぜだ?なぜだ?って問い続ける心の葛藤がなくなったからね。




 (力が欲しいか?)
 (そんなもん欲しいに決まってるだろ)
 (だったら望め。お前はすでに力を持っている)
 (そうかよ。じゃあ望んでやるよ。俺に力をよこせ)
 (対価はお主の生命をもらうところだがな。今回だけはサービスだ)
 (なんかわかんねえけど貰えるものは貰っといてやるよ)


俺はバブルスライムに向かってゆっくりと歩き出す。

「煉瓦!」

煉瓦を出現させ、心が命ずるままの言葉を唱える。

「メギド!」

ギュウゥゥィィンンッッ

煉瓦はいとも簡単に、淡くも凶々しい青白い光を纏った。そんな煉瓦をバブルスライムに向かって発射させる。

「行け!」

シュッ!

ドガァァァァンンッッ!

一瞬にしてバブルスライムが半壊する。
ギョッとするバブルスライムの驚愕の様子が見てとれる。そして生命体としての本能が危険を察知してるんだろう。半壊のまま、ふらふらと逃げようとするバブルスライム。

ピョン‥ピョン‥ピョン‥ピョン‥ピョン
‥‥

 「待てよ。逃すわけないだろう。メギド!」

半壊のバブルスライムを殺さない程度の穴で穿っていく。俺の指先から出るのは青白く、凶々しさ全開のレーザー光線だ。

ギュウゥゥィィンンッッ!

半壊のバブルスライムの身体を刺し抜く青白い炎。

 「メギド!これはキム先輩の分」

ギュウゥゥィィンンッッ!

 「メギド!これはシャンク先輩の分」

ギュウゥゥィィンンッッ!

 「メギド!これはマリー先輩の分」

ギュウゥゥィィンンッッ!

 この光線何属性の攻撃魔法なのかな?わかんないや。でもわかるのはこの青白い炎が最強だってこと。この光線に当たったら最後、生命体がじわじわ燃えつきて終焉を迎えるんだ。魔法耐性があろうがなかろうが一切関係ない。
 バブルスライムの体内の真核に当てないよう少しずつ穴を穿つ。そしてバブルスライムを戦闘靴で踏みつける。

 「フン。なんだテメーもう終わりかよ?謝れよ」
 「‥‥」

発声器官がないからだろう。当然のように言葉を発することのないバブルスライム。

 「謝れよ!謝れよ!謝れよ!謝れって言ってんだろ?」

ダンダン ダンダン ダンダン ダンダンッ‥

 激昂に駆られるままバブルスライムを戦闘靴で踏みまくる。そのとき、真核を踏み抜いたようだ。

プシューーーーーッッ

バブルスライムが土に溶けていった。

 「チッもう死んだのか。弱っちいくせしやがって」





ドルルルルルルルルルルルル‥
ドルルルルルルルルルルルル‥


頭上では何か音楽がずーっと鳴っている。
ドラム?
鼓隊みたいだな。なんだろう?





【 セーラside  】


ドルルルルルルルルルルルル‥
ドルルルルルルルルルルルル‥


空の上から鼓隊の音が聞こえてくる。
天上から音が降り注ぐように聞こえてくるのは鼓隊のドラムロール。本能が拒否をする、とても耳障りの悪い音楽の誘いだ。思わず顔を顰めるセーラ。

「ま、まさか、こんなことが本当に‥‥お父さま‥‥」

これは昔、彼女の父親
が何度も話してくれた神話の物語。
女神教本部の司祭室には美術品としての位置付けもあるタペストリーが幾枚も飾られている。それは創造主たる女神様と悪魔の最終決戦に至る長い長い物語の絵巻物。その冒頭の一幕。悪魔登場のプロローグ。悪魔の眷属である鼓隊が地上に降臨するシーン。そしてそれは世界終焉へと続くプロローグ。長い長い物語の始まりの場面がこのタペストリー最初のシーンだ。
ドラムロールとともに悪魔サタンが降臨し、善と悪の闘う最終決戦が始まるというタペストリーの光景はなぜかセーラには印象的だった。
そんな光景は今まさに彼女の目の前で繰り広げられる光景。


 「いざ泰平の世が終わらん。永遠(とわ)に続く女神の御世が今まさに終わらん。これより始まるは苦難のとき。心せよ。諸人集いて苦難に備えあれ。心せよ‥‥」

自然と聖書の一節を誦んじるセーラだった。





 「マリー先輩!」

気を失ったマリー先輩がフライの魔法で宙に浮いたままセーラの側へやってきた。
アレクが発現したフライだろう。セーラの目には見えないがマリーとアレクに憑く精霊も運んでくれているのだろう。ゆっくりとセーラの横でマリーが地面に横たわる。

 「アレク!」

セーラの顔を見て一瞬頷いたアレクは自身を浮上させあっという間に前方に飛んで行った。
セーラにはほんの一瞬だけアレクの横顔が微笑んで見えた。それは何故か不安感を抱かせる笑顔で。

 「まさかアレクが‥」

タペストリーの絵の光景は偶然なのだろうか。妙な胸騒ぎが止まらない。それでも今は3人の仲間を救わねば。

 「ヒール!」

仲間の胸に手を翳すセーラだった。




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