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第2章 幼年編
269 リズ・ガーデン
しおりを挟む【 リズside 】
ドルルルルルルルルルルルル‥
ドルルルルルルルルルルルル‥
後方のブーリ隊リズからも。ドラムロールを響かせてボル隊の上空から現れた「ナニカ」が見える。「ナニカ」は全身が黒い、妖精サイズの小さな者たち100体だ。ドラムのみで構成された鼓隊。それは微笑みの天使の降臨とは真逆。間違いなく凶々しい悪魔の眷属だ。
ドルルルルルルルルルルルル‥
ドルルルルルルルルルルルル‥
ドラムロールは聞く者に嫌悪感しか覚えさせない調べ。「ナニカ」の憤怒に満ちた顔つきの凶々しさと併せて。小さな悪魔が確かにそこにいた。
リズとセーラ、奇しくも聖魔法を発現できる2人にのみ見えていた怪異現象ともいえる光景。
ドルルルルルルルルルルルル‥
ドルルルルルルルルルルルル‥
誰かの誕生を祝うかの如くドラムロールが響きわたる。壮観ともいえる光景が見える者はブーリ隊の5人ではただ1人、リズのみである。
「ゲージ、オニールボル隊の空に何か見える?」
「ん?空には何も見えないぞ?」
「ああ見えねぇな」
「ビリー、タイガーは空に何か見える?」
「ん?空には何も見えないよ?」
「俺もだ」
「そうなのね‥」
そして微かに聞こえる小声でリズが呟いた。
「アレク、闇落ちしたらダメなの‥‥」
リズは幼いころ、魔法使いの里でタペストリーに描かれていた光景を長老から何度も何度も聞かされて育った。
セーラが司祭である父親から聞かされていたように、リズもまた里の長老から神話の一節を聞かされていたのだ。
「たくさんたくさん悪い天使さんたちがいるのね」
「そうじゃよ。じゃがこれは天使さんじゃなくて悪魔の使いじゃよ」
「へぇー悪魔なのね」
「ああ悪い奴らじゃよ」
「悪い奴らは私が倒すの」
「そうじゃのぉ。より良い世界になるようリズももっと魔法の勉強をしなくちゃならんぞよ」
「うん長老様わかった!」
「お主に里の始祖セーラ様の加護があるようにな」
「うん!」
そんな昔話がつい昨日のことのように思い出される。
そして‥‥リズの前に1人の女性が降り立った。
「あ、あなたはセーラ様‥‥」
もちろん会ったことなど無い。が魔法使いの里の始祖だということは疑いようのない事実としてリズの心に響いたのだ。
『我が里の娘リズ。火急の事態です。力を貸してくれますか?』
「仰せのままにセーラ様」
自然と頭を垂れるリズ。そして寝転んでいたリアカーからすっくと立ち上がり、仲間に宣言をする。
「ん?どうしたリズ?」
「みんなにお願いなの。これから何があっても私を信じてここで待っていてほしいの」
「えっ!?」
「リズ、なんだよそれ?」
「そうだぞ」
「私の一生のお願いなの!」
そう言って深く頭を下げるリズ。
「そ、そ、そんなこといきなり言われたら嫌とは言えねぇじゃねぇかよ!」
「ギャハハ。オニールの言うとおりだ。よくわからないがオイはリズがいいと言うまでここで待つぞ」
「リズ、『何があっても』なんだね?」
「ん」
「もしリズが死ぬ
ようなことがあったら言うことは聞けないよ」
「ん。約束する」
「タイガー?」
「ヨシ、俺たちブーリ隊はリズが戻るまでこの場で待機。それでいいな」
「「「了解!」」」
「みんなありがとうなの。じゃあ行ってくるの。フライ!」
自身を浮上させ、一気に加速するリズ。ボル隊をも眼下に先に向かうリズ。ちらりと見る視線の下にはマリー、キム、シャンクの3人の倒れ伏す姿もあった。フライ(浮上)でリズが向かう先には魔獣に囲まれたただ1人の人間アレクがいた。
もちろんその横に霊体の女性がいるのは仲間には見えなかった。
「「「がんばれリズ!」」」
仲間の声援を背に先を急ぐリズ。
『リズ、あの子を、ショーンを助けてください。このままではあの子は闇落ちしてしまいます』
「セーラ様、どうすれば良いのですか?」
『何もせずともあの子を正気に戻してくれれば大丈夫です』
「セーラ様アレクは‥?」
「ええ、あの子はショーンは私の大事な子どもです」
「‥‥わかりましたセーラ様」
そうしたわずかばかりのやりとりで。リズもまた己の生命だけを担保に魔獣の群れに降り立った。
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