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第三話
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エルノワは社交に出る年齢になっても、デビュタントも行わず夜会にも参加せず、社交と呼ばれるそのどれにも参加しなかった。
幼い頃から貴族としては問題のあるエルノワの為に、子爵家は本人を含む一族総出でせっせと「病弱なので」と、言い続けてきた。
一時子爵夫妻はせめてデビュタントだけでもと考えはしたのだが、可愛らしい少女であったエルノワは、とても美しい令嬢へと成長していた。
一度でも社交の場に顔をみせれば、断れない相手から見初められても決しておかしくはない。
身内の欲目があったとしても、彼女は十分人目を引く美しさになっていたのである。
とにかくひたすらに病弱であると社交界から遠ざかったそのかいあって、社交に出ない令嬢だが身体が弱いのならば仕方がないと印象づいていた。
当然、適齢期になっても結婚の話はあまりない。
しかし、稀に格下の家柄から結婚の申し込みがくる時はあった。
だがそのほとんどが、病弱な娘を貰ってやるのだからと取引めいた申し込みであった為、あまりに強引な条件を突きつけてきた際には両親が激怒して使者を追い返した事もあった。
そんなある日である。
父からの呼び出され、話しの内容にエルノワは驚いた。
「え?ファーレンハウト辺境伯家のご嫡子ヴァイン様から結婚の申し込み?」
ファーレンハウト辺境伯家と言えば、我が家とは比べ物にならない上位貴族だ。
詳しくはないが、家庭教師が授業の中で王家とも繋がりが深い有力貴族と言っていたではないか。
「ああ。そうなのだ……」
「何故わたくしに……、それ程格上の辺境伯家からの申し込みでは、断る事は……」
「ああ……。断れる立場にないが、まずは私が直接辺境伯家に出向いて詳細を伺ってくるよ。しかしエルノワには、覚悟をしてもらわねばならないかも知れない。お前が望む形でなければ嫁に出すつもりはなかったのだが……。すまない」
娘の頭を撫で、申し訳なさそうに子爵は言う。
「こんな役に立たない娘も、愛情持って接して下さるお父様とお母様に感謝の気持ちしかございません。わたくしが嫁ぐ事で我が家の評価に影響が出るのが怖いのです」
「これ、そんな言い方をするものではないよ」
降ってわいたような格上の辺境伯家からの、断れない申し込み。
エルノワは絶望を感じずにいられなかった。
なるべく普通になれるように勉強も頑張ってはいたけれど、どうしても絵を描いている時間が長かったから、ダンスや教養は人より苦手。
社交らしい社交など、子どもの頃に何度かお茶会に出たきりだ。
病弱で学べなかったと理由をつけても、嫁いでしまえばその病弱である事が嘘だとばれる。なんとかばれなかったとしても、少なくとも今が健康であるならばと社交に出る事になるだろう。
とにかく、自分の何もかもに自信がない。
自分の判断が普通から外れていたら、と思うと怖いのだ。
幼かった夕日を描いたあの日、「こんな事をしでかすお嬢様は頭がおかしい。気味が悪い」と言ったのは誰だったか。きっと使用人の誰かだったのだろうが相手をよく覚えていない。言葉だけはずっと心に残り続けているのに。
神妙な面持ちででかけていった父だったが、後日辺境伯家から戻ると意外な事を口にした。
「エルノワ、ファーレンハウト辺境伯家からの婚姻の申し込み、お受けしよう」
「えっ!?」
あまりに深刻さがない言い方だったので、出立前の父との違いに驚いたのだ。
「まずは、あちらからの条件を伝えよう。
婚姻後もエルノワは子爵家で生活していい、つまりエルノワは家から出ていく必要がない」
ええっ?
幼い頃から貴族としては問題のあるエルノワの為に、子爵家は本人を含む一族総出でせっせと「病弱なので」と、言い続けてきた。
一時子爵夫妻はせめてデビュタントだけでもと考えはしたのだが、可愛らしい少女であったエルノワは、とても美しい令嬢へと成長していた。
一度でも社交の場に顔をみせれば、断れない相手から見初められても決しておかしくはない。
身内の欲目があったとしても、彼女は十分人目を引く美しさになっていたのである。
とにかくひたすらに病弱であると社交界から遠ざかったそのかいあって、社交に出ない令嬢だが身体が弱いのならば仕方がないと印象づいていた。
当然、適齢期になっても結婚の話はあまりない。
しかし、稀に格下の家柄から結婚の申し込みがくる時はあった。
だがそのほとんどが、病弱な娘を貰ってやるのだからと取引めいた申し込みであった為、あまりに強引な条件を突きつけてきた際には両親が激怒して使者を追い返した事もあった。
そんなある日である。
父からの呼び出され、話しの内容にエルノワは驚いた。
「え?ファーレンハウト辺境伯家のご嫡子ヴァイン様から結婚の申し込み?」
ファーレンハウト辺境伯家と言えば、我が家とは比べ物にならない上位貴族だ。
詳しくはないが、家庭教師が授業の中で王家とも繋がりが深い有力貴族と言っていたではないか。
「ああ。そうなのだ……」
「何故わたくしに……、それ程格上の辺境伯家からの申し込みでは、断る事は……」
「ああ……。断れる立場にないが、まずは私が直接辺境伯家に出向いて詳細を伺ってくるよ。しかしエルノワには、覚悟をしてもらわねばならないかも知れない。お前が望む形でなければ嫁に出すつもりはなかったのだが……。すまない」
娘の頭を撫で、申し訳なさそうに子爵は言う。
「こんな役に立たない娘も、愛情持って接して下さるお父様とお母様に感謝の気持ちしかございません。わたくしが嫁ぐ事で我が家の評価に影響が出るのが怖いのです」
「これ、そんな言い方をするものではないよ」
降ってわいたような格上の辺境伯家からの、断れない申し込み。
エルノワは絶望を感じずにいられなかった。
なるべく普通になれるように勉強も頑張ってはいたけれど、どうしても絵を描いている時間が長かったから、ダンスや教養は人より苦手。
社交らしい社交など、子どもの頃に何度かお茶会に出たきりだ。
病弱で学べなかったと理由をつけても、嫁いでしまえばその病弱である事が嘘だとばれる。なんとかばれなかったとしても、少なくとも今が健康であるならばと社交に出る事になるだろう。
とにかく、自分の何もかもに自信がない。
自分の判断が普通から外れていたら、と思うと怖いのだ。
幼かった夕日を描いたあの日、「こんな事をしでかすお嬢様は頭がおかしい。気味が悪い」と言ったのは誰だったか。きっと使用人の誰かだったのだろうが相手をよく覚えていない。言葉だけはずっと心に残り続けているのに。
神妙な面持ちででかけていった父だったが、後日辺境伯家から戻ると意外な事を口にした。
「エルノワ、ファーレンハウト辺境伯家からの婚姻の申し込み、お受けしよう」
「えっ!?」
あまりに深刻さがない言い方だったので、出立前の父との違いに驚いたのだ。
「まずは、あちらからの条件を伝えよう。
婚姻後もエルノワは子爵家で生活していい、つまりエルノワは家から出ていく必要がない」
ええっ?
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