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第一章 始まり

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「おい!なんでそいつが居るんだよ!?」


弟の怒った声が教室に響く。クラスに残っていた子達は弟の姿を見た瞬間、蜘蛛の子を散らしたように逃げていったため、今この場にいるのは僕と弟、そしてヒナちゃんだけだ。


「チビちゃん.....今まで聞いたこと無かったんだけど、チビちゃんに友達は居るの?」

こんな態度を他の子にもしている訳では無いと信じたいが、どうだろう?
もし居ないなら僕がここで一肌脱ごうかな.....。

すると弟は心底不思議そうに、「弥斗以外はゴミだろ?」と驚くべき発言をした。
.....やはり悪化している。
この発言に他人はどう思うのだろうかと気になり、チラリとヒナちゃんを見てみた。

「.......」

普通ならドン引きものだが、ヒナちゃんはノーリアクションだった。
いや、見た感じノーリアクションだが内心ドン引きして固まっているのかもしれない。

取り敢えず僕は弟に「そっか」とだけ返事して思う。

このままだと弟は変わらない。ずっと狭い世界の中に居るままだ。

なら僕がすることは....


「よし、今日は2人で『遊んで』きてよ」

「「は!?」」


まるで信じられないという顔をする我が弟と固まるヒナちゃん。


「な、なんで!?弥斗はっ?俺は弥斗と一緒がいい!!」


こう.....急に子犬のように弱々しくなったりするからタチが悪いのだ、僕の弟は。
でも、負けないぞ。

「チビちゃんはもう僕が居なくても大丈夫でしょ?いつまでも僕がいちゃ練習にならないし。えっと、弟とあまり話したことないだろうけど、ヒナちゃんいい?」

弟を視界に入れずそう言い、ヒナちゃんと目を合わせる。


「う、お....い、い.....」


OKしてくれたんだよね?勢い良く顔をそらされたけど....
そして未だに不満そうな顔をしている弟を説得させること1時間、なんとか了承をとった。
僕が最初は着いていくという条件で。


「じゃあ行こうか」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※



案外聖域から出ることは簡単にできる。なぜなら聖域は仕切りもなく目に見えないものだからだ。だから僕らが通っている小学校の裏にある森に行けば簡単にカタラに出会える。まぁ、子供が間違っても入らないよう柵がしてあるが.......。

子供の通う学校の裏が聖域外とは危険なものだろうと思うだろうが、カタラが学校に入り込んできたことは無いらしく、親達は心配してないらしい。
.....このことからもこの世界で言う聖域というものは絶対の信頼を寄せられているのがわかる。

(僕は安心できないけど)

だって、得体が知れないだろう?
この中にいれば安全ですって言われてもすぐ隣に目を向ければ人を殺せる存在が居るんだ。その安全というものがどう成り立っているのか知りたいと思う僕は間違っていないはず。
自分が何に守られているのか分からないのに安心しろというのは僕には少し難しい。
僕には違う世界の記憶がある為そう思ってしまうのかもしれないが、僕からしたら僕の感性が普通なんだけど......。


「聖域に疑問?なんでだ?」

「お、おれっ.....か、か考えたこ、と....な...ね....」


チビちゃんとヒナちゃんは疑問に思ったことないって。不思議そうな顔をしている2人に「なんでもないよ」と言い、歩きながらヒナちゃんに目を向ける。


「そういえば、今から4階級の森に行くけど大丈夫?あっ、遊ぶっていうのはカタラ狩りに行くことなんだけど.....言ってなかったね」

「だ、だっ、大丈夫で....だ!」

「(でだ?)......そっかそれはよかった」


今僕が言った4階級っていうのはカタラの出現率・危険度の総合評価を10を上限として表したものだ。

聖域と同じようにどういう仕組みなのか僕には分からないが、その階級が7階級くらいに達するとその地域の対影支部に警報が行き異能者が派遣される。7階級は侵食の''危険''を示すらしい。

僕達が今向かっている小学校裏にある森は4階級でカタラがちらほらいるくらいで、そこまで危険はない。
だからいつもそこを異能磨きの場としている。




ということでその森に到着です。
高い木々が生い茂あってまだ日が明るい時間だと言うのに森は夜のように暗い。

(そういえばこの暗さに最初はビビって僕のそばから離れなかったなぁ、チビちゃんは)

思い出すと.....あぁいけないちょっとニヤけてしまう。


「ゴホン!....ここで今から2人で協力してカタラ狩りをしてもらいます。あ、命は自分で守るように」

「....なぁ弥斗」

「なにチビちゃん?」

「この不審者やれんの?」


それは戦えるかということでいいのかな?


「見た感じやれそうだと僕は感じたんだけど、ヒナちゃん一人でやれる?」

「お、も....もちろん」

「できるってさ。じゃあ僕は帰るから......ん?」


背を向け帰ろうとしたら後ろに軽く引っ張られる感覚がした。振り向くとむくれた顔の弟と、顔を赤くして視線を忙しなく動かすヒナちゃんがそれぞれギュッと僕の服の端を掴んでいた。



「えっ、どうしたの?」

「.....弥斗も一緒がいい」

「い、しょ......が、いい」


ヒナちゃんの言葉は兎も角
弟よ、それだと君に1時間かけてした説得が無駄になるのだけど.....

(まぁいいや。まだ出会って日の浅い2人を置いていくのはやっぱり拙い気もするし)

未だに僕の服を掴む2つの手を握り、笑う。


「しょうがないなぁ。それじゃぁ、僕VSチビ&ヒナで競争しようか」

「競争ってどっちが多くカタラを狩るかのか?」

「うん」

「ぁ、......ほ、しい」

「ん?」


なにかボソリと言ったヒナちゃんに首を傾げる。すると彼はまた顔を真っ赤に染め視線を忙しなく動かし、口をハクハクとさせた。


「ご、ごほ....うび、ほ、ほし、ぃ」

「?.....あぁ!勝ったらご褒美欲しいってこと?」

「なっ!?」

「お、う...ん」


ヒナちゃんの言う通り勝った方がなにか褒美貰えた方がこの競争もやる気が出るというもの.....。

(僕が勝ったらチビちゃんに1ヶ月接近禁止令出そうかな)

そう考えれば自分のやる気も出てきた為、了承した。


「おい、やるぞ不審者」


凄いやる気を出す弟に苦笑いをしながら僕は「スタート!」と言って駆けていく2人を見送る。


「う~ん、こりゃ負けられないなぁ」


そして僕も2人の後を追うように森の奥にへと足を向けた。
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