香りの献身 Ωの香水

鳩愛

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邂逅編

ある情愛1

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 夜半までアガの晩酌に付き合ったのち、二人はヴィオの家の裏手にあった別の家に泊めてもらうことになった。現在持ち主はおらず里の外で暮らしているものが一時的に帰ってくるときに使っている宿泊所のような扱いになっている家だ。里の他のものたちと話をする機会を明日得られることになった。

 ドリの里は山深い立地にあったこともあり、農作物をとることはできず大昔は税金を兵役で賄っていた時代の名残か、軍人になり従軍することで出稼ぎをするものが多かったらしい。彼らは子どもの頃から山野で恵まれた体格をさらに鍛え上げ、軍に入ってからも活躍してきた。

 戦争が終わってからは軍も縮小傾向となり、そのまま軍に残ったもの、国境境のやや荒れた地域の復興工事に駆り出された者、それにジルの同僚ともいえる警察官等里の者はさらに職を求めて各地に散っていった。これは他のフェル族の他の一派にもいえる。

「起きてたのか? 」

 設備は少し前の中央と大差ない住宅のため、熱いシャワーを浴びられたのはセラフィンにはありがたかった。季節は冬に向かってきていて、中央よりも北にあるこの地は思った以上に夜には気温が下がるようだ。セラフィンもジルも日頃から鍛えていて筋肉量が多いため意外と寒さに強いが、それでも今日は外にいることが多くてシャワーを浴びたら頭がすっきりとした。

 二つベッドのある寝室に戻ると、山里のためかなんとなくじめっとしているが寝台は清潔そうだ。中央から持ってきた別の鞄の中に入っていた寝巻代わりの柔らかなズボンをはき、上半身は裸のまま清潔な寝台に腰を下ろして背中半ばを覆うまっすぐな黒髪を乾かし始めた。

 ジルは酒に酔っているようだったからそのまま寝てしまって朝身支度をすればいいだろうとセラフィンは思っていたのだが、彼は意外と綺麗好きなため(口うるさい姉に非常に厳しく言われたせいもあり)鼻歌を歌いながらシャワーを浴びて出てきて寝台に突っ伏していた。

 とっくに先に眠ってしまったかと思っていたら、こちらもタオルを腰に巻いた状態で、リアが付いてきて渡してくれた水差しから水を継いで口にしていた。

「寝てなかったんだな」

 アガと話をしていた時は、診療中の怜悧な雰囲気に近かった。そんなセラフィンがリラックスした様子で微笑んできたのでジルも笑顔になる。

「シャワー浴びたら目が覚めた。水も飲んだし大して酔ってないですよ」

 森の中、窓を開けていなくてもひんやりした空気となんとなく森林の香りが室内に漂っている。部屋の内装だけ見れば中央にいるのと変わらないが、やはり独特の雰囲気がある。旅先にいるなという気分になる。
 ジルは起き上がって、もう一度水差しからコップに水を注ぎ、セラフィンの方に歩み寄ってきた。
 コップを手渡すと、長い睫毛を伏せそれをセラフィンが飲み干している間に、ジルは隣に座ってセラフィンの黒髪を弄んだ。勢いよく豪快に飲んだ水が喉元を伝うさまがセクシーで酔いが残るジルは指先で触れそうになってその衝動を抑えた。気を取り直して前を向く。窓の外は広葉樹の森。少しだけ紅葉が始まっていそうだ。
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