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復讐開始

最後の重要人物の調略

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兵の調略はこのまま進めて行けばよいが、重要人物の調略があと2名終わっていなかった。

後宮のトップのキャサリン王太后と北方討伐部隊のトップのカイゼル大将軍だ。

キャサリン王太后の方は、王太后お気に入りのリリアがすでに王太后に会い、エリカとアラは王太后を心配してリリアが派遣した、という話にして、ますます気に入られた。エリカとアラが自由に島と後宮を行き来出来ているのはリリアのおかげだ。

リリアは母をカトリーヌに殺され、父を夫のランスロットが狙っていて、自分を昔から可愛いがってくれた王太后の調略を夫から依頼されている。

リリアが一番辛い役回りになっているが、貴族の調略なども含めて、ランスロットへの貢献度は随一であり、家柄も随一のため、妻たちが全員一致でリリアを正妻として認めた。それを受けて、ランスロットもリリアを正妻とすることを宣言した。

キャサリン王太后のリトマスが赤になることは、実はリリアを手中にした段階で確定していた。リリアが王太后のお気に入りであることをカトリーヌに聞くまで知らなかっただけだった。

キャサリン王太后がリトマス赤になった後、リリアはランスロットと結婚しており、正妻が自分で、エリカとアラが側室であることを明かした。王太后は聖女となってもリリアが結婚も含めて自由に行動出来る幸運に感謝し、心の底からリリアの結婚を祝福してくれた。

残るはカイゼル大将軍だ。

ガイゼル大将軍は、前王時代に帝国軍の侵攻を跳ね除け、王国の危機を救った大功ある救国の英雄だ。

カイゼル大将軍にはリリアとランスロットで直接話をすることにした。護衛の白虎さんと玄武さんには外で待っててもらうことにした。

カイゼルは眼光の鋭い壮年の男性で、短く刈り上げられた頭髪にはかなり白いものが混じっていた。

実はカイゼル大将軍はこの年まで独身だ。いつ戦場で命を落とすかも知れないため、妻を娶らなかったというバリバリの硬派だが、本当の理由はキャサリンから振られたからだった。

カイゼルは前王とキャサリンを取りあった仲なのだ。キャサリンが前王を選び、カイゼルは身を引いたという。

カイゼルがリリアに敬礼をした。

「リリア王女、随分とお美しくなられた」

リリアはスカートを軽く持ち上げて頭を下げて挨拶した。

「おじさま、おひさしゅう。こちらは、夫のランスロット・シラー伯爵です」

「おお、貴殿が幸運にも美しい花嫁を得られたシラー殿か」

「恐縮です。ランスロットとお呼びください」

ランスロットは左胸に右手を置く貴族式の挨拶を行なった。

カイゼルは敬礼で応えた。

「わざわざ北の果てまで来られて、なに用かな」

「はい、飾ることなく、単刀直入に申し上げます。私は現王に深く恨みを持っており、この度、現王に禅譲を迫るつもりです。その際、カイゼル殿には動かないで頂きたいのです」

「何だと、小僧!」

「おじさま、冷静に。外にランスロットの護衛がおります。おじさまでも一瞬で殺されてしまいます」

リリアはカイゼルとランスロットの間に入った。

「リリア王女、王はあなたの父ではないか」

カイゼルはいったん冷静になり、リリアに問いかけた。

「はい、ですが、父の非道は私も許せません。母も父に殺されたも同然です」

「何があったのですか」

カイゼルに尋ねられ、リリアはこれまでのことを説明した。

「そのような私情でシラー家を取り潰そうとなさるとは。ランスロット、貴殿の気持ちは分からんではないが、王への忠義を私は曲げることは出来ぬ」

カイゼルが絞り出すように答えた。

「カイゼル殿が北方討伐部隊を動かすと、私に忠誠を誓う近衛部隊と国内警備部隊とで、国を二分しての内乱になります。国を疲弊させますし、帝国からの侵攻を招きます」

ランスロットは国の半分を掌握していること伝え、内戦を避けて欲しいと訴えた。

「何と。それをどう信じろと」

「そうですね。実は北方討伐部隊の兵士も4割ほど掌握しています。今、動かしましょうか?」

「やって見せてもらおう」

突然、扉を開けて兵士が部屋に入って来た。この部屋を守るよう指示していた20名の兵士のうちの12名だった。カイゼルと何度か言葉を交わした兵士もいる。

「ここは少し多めでしたね」

カイゼルは信じられない。カイゼルの指示なしに部屋に入って来るなどあり得ないのだ。でも、何か不測の事態が発生したかも知れない。カイゼルは兵士に確認した。

「なぜ私の命なく部屋に入って来た」

「シラー様からのご命令であります」

「お疲れ様、下がって良いですよ」

ランスロットがそういうと、部屋に入って来た兵士が、カイゼルではなく、ランスロットに敬礼して、出て行った。

「いったいどうやって?」

カイゼルは目の前で起きたことが信じられなかった。どうやって呼んだのかも分からない。

「そういったスキルを持っているんです。カイゼル殿。王は君臨すれども統治せず。統治を行うものは、血統ではなく、能力で決めるべきです。古くから忠誠を誓って貢献している家臣の家を私情で取り潰すような暗君は排除すべきです」

この男、危険すぎる、カイゼルはそう判断し、王のため、今ここでランスロットを切り捨てるべきと判断した。そう思って、重心を前に倒した瞬間、ドゴーンという音と共にカイゼルは何者かに両足のふくらはぎあたりを天井の方に蹴り上げられ、背中から床に叩きつけられた。

ランスロットの方に視線を移すと、ランスロットの前に妖艶でゾッとするほど美しい白髪の女が立っていた。

「ランスロット、こやつがお前に殺意を持った故、足を払った」

「白虎さん、ありがとうございます」

カイゼルは背中を強く打ったが、それよりも足に激痛を感じていたため、足を見た。両足のふくらはぎのあたりがひしゃげてしまってえらいことになっている。

リリアが駆けつけ、治癒魔法を唱えた。カイゼルの痛みが徐々に治まっていく。

「リリア王女、あなたは!?」

リリアはゆっくりと頷いた。この世界では、女は妊娠すると治癒魔法が使えるようになる。

「カイゼル殿、僕には人では絶対に勝てない護衛が2人もついているんです。バカな考えは持たないでください。あなたは大きな勘違いをしている。国は王のものではない。国は国民のものです。あなたは王のためではなく、国民のためにどうすべきかをよく考えてください」

「おじさま、キャサリンおばあさまも今のランスロットと同じことをおじさまに伝えて欲しいとおっしゃってました」

「キャサリン様が……」

ランスロットとリリアはそれ以上は何も言わずに部屋を後にした。


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