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ルールなしとは聞いておりませんでしたわ
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リズルとはドレスの仕立て屋で会うことになった。
出来るだけ普段通りに来て欲しいとのことだったので、先日と同じフレアと一緒にお店まで来ている。
少しドレスの直しをしてくると、屋敷の使用人たちにも伝えて来た。
店に入ると店員が特別室に案内してくれた。
フレアを一階に残して、特別室への階段をのぼってドアを開けると、リズルはすでに来ていて、女性と一緒だった。
リズルは私が知っているリズルではなかった。
非常によく似ているが、あの清々しい清流のような柔らかさではなく、躍動的な感じがした。
やはり皇太子殿下の方が、私の知っているリズルだったのだ。
(あの人の妃候補になれるなんて!)
全身に悦びが駆け巡ったが、表情に出すのは恥ずかしいので、ポーカーフェイスを決め込む。
女性の方はリリアナの妹だとすぐに分かった。
リズルと女性が微笑みながら近づいて来た。
「初めまして、ソフィアさん、私が本物のリズルです。こちらは私の婚約者のスタシアです」
「初めまして、ソフィア様」
「初めまして」
私たちはテーブルの椅子に腰掛けた。
「お呼び出てして申し訳ございません。兄から貴女に説明して欲しいと頼まれまして」
「留学のことですの?」
「はい、まずはそこからです。お察しかと思いますが、学園には兄のルクラが私になりすまして留学しました。帰国してからは、貴女の話ばかりで、参りましたよ。兄の剣を初見でかわしたそうですね」
「ええ、でも、運がよかっただけですわ」
「ご謙遜を。運で兄の剣はかわせないです。兄はあの若さで帝国随一の剣士です。兄とそれなりに戦えるのは、帝国では私のほか数名しかおりませんが、私は初見であの剣はかわせません」
「でも、その後、簡単に一本取られてしまいましたわ」
「急に隙だらけになったと言ってました。兄があんなに嬉しそうに話をするのを初めて見ました」
「皇太子殿下は、ずっとソフィア様の話ばかりでしてよ」
スタシアも話に加わって来た。
姉と容姿はよく似ているが、気さくでサバサバした感じだ。
「剣のお話でしょう。妃としては別のお考えをお持ちだと思いますわ」
「いいえ、兄は貴女さえよければ、ぜひ妻になって欲しいと熱望しております。私も剣を多少かじっておりますので分かるのですが、剣を交えると、相手と心が通じる瞬間があります。兄は貴女との試合で、貴女のお人柄に心をつかまれたと言ってました」
「殿下はご自分の口からご自分の言葉で、愛の告白をしたいと仰せでしたが、公けの立場がございますので、私たちが代理でお伝えに参った次第でございます」
「そんな、私などに何ともったいないお言葉……」
しおらしく恥じらいながら、私は心の中で「よっしゃあ」とガッツポーズを決めていた。
「おお、兄の気持ちを受け止めていただけるのですか。すぐに兄に知らせます。ただ、問題は妃選定です。妃選定については、どの程度ご存知ですか?」
「実力主義の帝国だけあって、公正に試験の総合点で勝負を決めるとうかがってますわ」
「やはりそうですか」
「違うのでしょうか」
「間違ってはいないのですが、何でもありの戦いなのです」
「どのような意味でしょうか?」
「妃候補は21名だったのですが、1名事故死しました」
「え?」
確かになぜ7人ずつではないのかと奇妙に思ったのだ。
「こういう戦いなのです。兄は最初、貴女をお呼びするつもりはありませんでした。愛する人を猛獣の檻の中に入れるようなものですから」
「妃候補の推薦枠が埋まって行くにつれ、殿下はどんどんお元気がなくなってしまわれて。とても殿下を見ていられませんでしたわ。そこで、リズルと私で絶対にお守りするからと殿下を説得したのです」
「リッチモンド家も調べさせて頂き、非常に強大なお力をお持ちであることが分かり、ようやく兄は貴女をお呼びすることを決意したのです。ただ、今もお呼びしてよかったのかどうかと悩んでいます」
「ここには私の意思で参りましたので、お気になさることはございませんわ」
「そのお言葉も兄に伝えます」
「そういえば、スタシア様のお姉様も出ておられましてよ」
「ええ、あの腐れ女……」
「く、くされ?」
「あら、私としたことが、お下品な言い回しで失礼いたしましたわ。おほほほ」
「……リリアナとスタシアは犬猿の仲なのです」
「そうでしたの」
「それはさておき、私とスタシアも戦いに加わらせてください。王国の情報がないため、今のところ誰も手を出して来ていないようですが、徐々に本性を現して来るはずです」
「殺しに来るのでしょうか?」
「はい」
え? 否定してよっ。
出来るだけ普段通りに来て欲しいとのことだったので、先日と同じフレアと一緒にお店まで来ている。
少しドレスの直しをしてくると、屋敷の使用人たちにも伝えて来た。
店に入ると店員が特別室に案内してくれた。
フレアを一階に残して、特別室への階段をのぼってドアを開けると、リズルはすでに来ていて、女性と一緒だった。
リズルは私が知っているリズルではなかった。
非常によく似ているが、あの清々しい清流のような柔らかさではなく、躍動的な感じがした。
やはり皇太子殿下の方が、私の知っているリズルだったのだ。
(あの人の妃候補になれるなんて!)
全身に悦びが駆け巡ったが、表情に出すのは恥ずかしいので、ポーカーフェイスを決め込む。
女性の方はリリアナの妹だとすぐに分かった。
リズルと女性が微笑みながら近づいて来た。
「初めまして、ソフィアさん、私が本物のリズルです。こちらは私の婚約者のスタシアです」
「初めまして、ソフィア様」
「初めまして」
私たちはテーブルの椅子に腰掛けた。
「お呼び出てして申し訳ございません。兄から貴女に説明して欲しいと頼まれまして」
「留学のことですの?」
「はい、まずはそこからです。お察しかと思いますが、学園には兄のルクラが私になりすまして留学しました。帰国してからは、貴女の話ばかりで、参りましたよ。兄の剣を初見でかわしたそうですね」
「ええ、でも、運がよかっただけですわ」
「ご謙遜を。運で兄の剣はかわせないです。兄はあの若さで帝国随一の剣士です。兄とそれなりに戦えるのは、帝国では私のほか数名しかおりませんが、私は初見であの剣はかわせません」
「でも、その後、簡単に一本取られてしまいましたわ」
「急に隙だらけになったと言ってました。兄があんなに嬉しそうに話をするのを初めて見ました」
「皇太子殿下は、ずっとソフィア様の話ばかりでしてよ」
スタシアも話に加わって来た。
姉と容姿はよく似ているが、気さくでサバサバした感じだ。
「剣のお話でしょう。妃としては別のお考えをお持ちだと思いますわ」
「いいえ、兄は貴女さえよければ、ぜひ妻になって欲しいと熱望しております。私も剣を多少かじっておりますので分かるのですが、剣を交えると、相手と心が通じる瞬間があります。兄は貴女との試合で、貴女のお人柄に心をつかまれたと言ってました」
「殿下はご自分の口からご自分の言葉で、愛の告白をしたいと仰せでしたが、公けの立場がございますので、私たちが代理でお伝えに参った次第でございます」
「そんな、私などに何ともったいないお言葉……」
しおらしく恥じらいながら、私は心の中で「よっしゃあ」とガッツポーズを決めていた。
「おお、兄の気持ちを受け止めていただけるのですか。すぐに兄に知らせます。ただ、問題は妃選定です。妃選定については、どの程度ご存知ですか?」
「実力主義の帝国だけあって、公正に試験の総合点で勝負を決めるとうかがってますわ」
「やはりそうですか」
「違うのでしょうか」
「間違ってはいないのですが、何でもありの戦いなのです」
「どのような意味でしょうか?」
「妃候補は21名だったのですが、1名事故死しました」
「え?」
確かになぜ7人ずつではないのかと奇妙に思ったのだ。
「こういう戦いなのです。兄は最初、貴女をお呼びするつもりはありませんでした。愛する人を猛獣の檻の中に入れるようなものですから」
「妃候補の推薦枠が埋まって行くにつれ、殿下はどんどんお元気がなくなってしまわれて。とても殿下を見ていられませんでしたわ。そこで、リズルと私で絶対にお守りするからと殿下を説得したのです」
「リッチモンド家も調べさせて頂き、非常に強大なお力をお持ちであることが分かり、ようやく兄は貴女をお呼びすることを決意したのです。ただ、今もお呼びしてよかったのかどうかと悩んでいます」
「ここには私の意思で参りましたので、お気になさることはございませんわ」
「そのお言葉も兄に伝えます」
「そういえば、スタシア様のお姉様も出ておられましてよ」
「ええ、あの腐れ女……」
「く、くされ?」
「あら、私としたことが、お下品な言い回しで失礼いたしましたわ。おほほほ」
「……リリアナとスタシアは犬猿の仲なのです」
「そうでしたの」
「それはさておき、私とスタシアも戦いに加わらせてください。王国の情報がないため、今のところ誰も手を出して来ていないようですが、徐々に本性を現して来るはずです」
「殺しに来るのでしょうか?」
「はい」
え? 否定してよっ。
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