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殺し合いは望むところですわ
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命の奪い合いと聞いて、リッチモンド家家臣団の目が爛々と輝き出した。
「皆殺しにしていいだなんて、随分と気前のいい妃選定よな」
大いに勘違いしているのは、拳闘指南役のユウリだ。
しかも、気前がいいとか、完全に頭がおかしい。
「誰も皆殺しにしていいなんて言ってないわよ」
私はすかさず危険な発想を否定しておく。
リッチモンド家は王国では武闘派貴族として恐れられている。
そのリッチモンド家の中でも、彼女たち体育会系女子はイケイケだった。
「飛び道具もありなの? 気が抜けないわねえ」
弓術指南役のレイアも頭がおかしいようだ。
「ねえ、ドンパチしに行くわけじゃないから……」
「闇に隠れて消していくの?」
だが、暗殺術指南役のケイトの言葉には反論できなかった。
大いにあり得るからだ。
今、私は屋敷の敷地内にある道場で、武芸の各師範たちと、今後の対応について話しているのだが、人選を間違えたと後悔していた。
どう殺すかしか、考えてくれないのだ。
「お嬢が簡単にやられるとは思わないが、動きにくいドレスをおめしになっていたりするし、いつも帯剣されておられるわけではないから、少し護衛を増やした方がよくないか?」
女諜報部隊クノイチ筆頭のユキジが、ようやくまともな意見を出した。
「そうね。でも、正面きっては来ないわよ。過去にあったのは、事故死とか中毒死らしいわ。さすがに皆良家の子女たちだから、そんなに簡単には殺せないわよ」
「お嬢、バレなければ、殺していいのですか?」
「気に入らない子はね。いい子は殺しちゃダメよ」
かくいう私もイケイケの体育会系だった。
「あーあ。お花を生けたり、刺繍をしたり、踊りを披露したり、華やかな女の子の戦いだと思っていたのに、きな臭い殺し合いだとはね。でも、そう来るなら、私たちの得意分野だわ」
同意して頷く体育会の面々の中に一人だけ文系女子が混じっていた。
「お嬢様、殺し合いではございません。ごく一部、極めて稀にそういったこともあるということで、メインは華やかな女性たちの芸の競い合いにございますっ」
マリーのこの言葉で、私は常識人に戻ることが出来た。
脳筋たちと話していると、いつの間にか自分も脳筋思考になってくる。
「そうだったわ。刺繍とかで負けそうになったら、殺しちゃうところだったわ」
「しっかりして下さいまし、お嬢様。第一回戦まであと三日でございます。最初の競技種目がそろそろ発表になります」
噂をすればなんとやら。
妃選定委員会の使者が競技種目を伝えに来た。
道場は神聖な場所とされており、使者殿をお迎えするにはちょいどよい。
ここで聞かせてもらうことにした。
王の勅命という形で発表されるため、うやうやしく、お言葉を頂戴する必要がある。
使者が高らかに勅書を読み上げた。
「第一の競技種目を伝える。『生花』である」
「かしこまりました。謹んでお受けいたします」
使者はそう伝え終わると、何も言わずに帰って行った。
「すごいわね。余分なことは一言も話さないのね」
微妙な種目が来た。
正直なところ、得意ではない。
だが、最初の種目は点数に差が開きにくいと噂されている。
逆に微妙な種目でよかったかもしれない。
それに毎回点数が発表されるため、何となくきびしくマークされている今の状態から逃れられるかもしれない。
何だあいつ、大したことないじゃん、と思ってくれるかもしれないからだ。
あれ? 何だか皆んながほっとしている。
「どうしたの?」
「お嬢様、刺繍でなくて本当によかったですわ」
「え? どうして?」
「お嬢のは刺繍ではなくて、まるで血判状よな」
「私が見たのはもっと酷かったわ。血まみれで、黒ずんでいて、結核患者のハンカチかと思ったわよ」
こいつら、好き勝手に言ってくれる。
「仕方がないでしょう。針が指に刺さりまくるのよ」
「お嬢様は針を刺す勢いが強すぎるのです」
「布から突然針が出て来るのは、リズル、ではないわね、ルクラの剣のようだわ。閃いたわ。マリー、刺繍セットを持って来て頂戴」
私はルクラの水の流れのような足さばきをイメージしながら、刺繍をしてみた。
「お嬢様! 血が出ないですっ。まるで上手い人のようですっ」
何だ、コツをつかめば簡単じゃないか。
「どうよ。完璧でしょう!」
「……。お嬢様、これは何でしょうか?」
「鳥……よな?」
「いえいえ、蝶ではなくって?」
「何言ってんのよ。花よ。花に決まってるじゃないっ」
「「「花っ、これが!?」」」
……私は絵心がないのよね。
特に刺繍は最悪なんだけど、血が出ない方法が分かったから、ひょっとすると何とかなるかもと思ったけど、絵のセンスはどうしようもないわ。
明日にでもリズルに相談してみようかしら。
「皆殺しにしていいだなんて、随分と気前のいい妃選定よな」
大いに勘違いしているのは、拳闘指南役のユウリだ。
しかも、気前がいいとか、完全に頭がおかしい。
「誰も皆殺しにしていいなんて言ってないわよ」
私はすかさず危険な発想を否定しておく。
リッチモンド家は王国では武闘派貴族として恐れられている。
そのリッチモンド家の中でも、彼女たち体育会系女子はイケイケだった。
「飛び道具もありなの? 気が抜けないわねえ」
弓術指南役のレイアも頭がおかしいようだ。
「ねえ、ドンパチしに行くわけじゃないから……」
「闇に隠れて消していくの?」
だが、暗殺術指南役のケイトの言葉には反論できなかった。
大いにあり得るからだ。
今、私は屋敷の敷地内にある道場で、武芸の各師範たちと、今後の対応について話しているのだが、人選を間違えたと後悔していた。
どう殺すかしか、考えてくれないのだ。
「お嬢が簡単にやられるとは思わないが、動きにくいドレスをおめしになっていたりするし、いつも帯剣されておられるわけではないから、少し護衛を増やした方がよくないか?」
女諜報部隊クノイチ筆頭のユキジが、ようやくまともな意見を出した。
「そうね。でも、正面きっては来ないわよ。過去にあったのは、事故死とか中毒死らしいわ。さすがに皆良家の子女たちだから、そんなに簡単には殺せないわよ」
「お嬢、バレなければ、殺していいのですか?」
「気に入らない子はね。いい子は殺しちゃダメよ」
かくいう私もイケイケの体育会系だった。
「あーあ。お花を生けたり、刺繍をしたり、踊りを披露したり、華やかな女の子の戦いだと思っていたのに、きな臭い殺し合いだとはね。でも、そう来るなら、私たちの得意分野だわ」
同意して頷く体育会の面々の中に一人だけ文系女子が混じっていた。
「お嬢様、殺し合いではございません。ごく一部、極めて稀にそういったこともあるということで、メインは華やかな女性たちの芸の競い合いにございますっ」
マリーのこの言葉で、私は常識人に戻ることが出来た。
脳筋たちと話していると、いつの間にか自分も脳筋思考になってくる。
「そうだったわ。刺繍とかで負けそうになったら、殺しちゃうところだったわ」
「しっかりして下さいまし、お嬢様。第一回戦まであと三日でございます。最初の競技種目がそろそろ発表になります」
噂をすればなんとやら。
妃選定委員会の使者が競技種目を伝えに来た。
道場は神聖な場所とされており、使者殿をお迎えするにはちょいどよい。
ここで聞かせてもらうことにした。
王の勅命という形で発表されるため、うやうやしく、お言葉を頂戴する必要がある。
使者が高らかに勅書を読み上げた。
「第一の競技種目を伝える。『生花』である」
「かしこまりました。謹んでお受けいたします」
使者はそう伝え終わると、何も言わずに帰って行った。
「すごいわね。余分なことは一言も話さないのね」
微妙な種目が来た。
正直なところ、得意ではない。
だが、最初の種目は点数に差が開きにくいと噂されている。
逆に微妙な種目でよかったかもしれない。
それに毎回点数が発表されるため、何となくきびしくマークされている今の状態から逃れられるかもしれない。
何だあいつ、大したことないじゃん、と思ってくれるかもしれないからだ。
あれ? 何だか皆んながほっとしている。
「どうしたの?」
「お嬢様、刺繍でなくて本当によかったですわ」
「え? どうして?」
「お嬢のは刺繍ではなくて、まるで血判状よな」
「私が見たのはもっと酷かったわ。血まみれで、黒ずんでいて、結核患者のハンカチかと思ったわよ」
こいつら、好き勝手に言ってくれる。
「仕方がないでしょう。針が指に刺さりまくるのよ」
「お嬢様は針を刺す勢いが強すぎるのです」
「布から突然針が出て来るのは、リズル、ではないわね、ルクラの剣のようだわ。閃いたわ。マリー、刺繍セットを持って来て頂戴」
私はルクラの水の流れのような足さばきをイメージしながら、刺繍をしてみた。
「お嬢様! 血が出ないですっ。まるで上手い人のようですっ」
何だ、コツをつかめば簡単じゃないか。
「どうよ。完璧でしょう!」
「……。お嬢様、これは何でしょうか?」
「鳥……よな?」
「いえいえ、蝶ではなくって?」
「何言ってんのよ。花よ。花に決まってるじゃないっ」
「「「花っ、これが!?」」」
……私は絵心がないのよね。
特に刺繍は最悪なんだけど、血が出ない方法が分かったから、ひょっとすると何とかなるかもと思ったけど、絵のセンスはどうしようもないわ。
明日にでもリズルに相談してみようかしら。
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