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第一章 人族の国
マリエールの決意
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ローズは午後、マリエールとノウキの魔法訓練を見学した。
ローズは絶句した。マリエールの訓練は以前とまるで違っているのだ。
「カトリーヌ、報告になかったけど」
カトリーヌも呆然として訓練を見ていた。
「ローズ様、前回私が見たときとは全く違ってます。これではまるで……」
「そうね、まるでノウキの部下のようね」
おっとりした風貌に騙されがちだが、マリエールは異様に負けず嫌いだ。そうでなければ、魔法使いの頂点に立てるわけがない。
「まさか聖女様は……」
「ええ、間違いなく、ノウキの部下になったわね。メイドメイジに負けたくなかったのでしょうね」
しかし、どうやって聖女を部下にしたのだろうか。教会内で聖女は教皇と同列の最高位だ。上司は存在しない。
まさか聖女を辞めたのか?
「マリ、ちょっといいかしら」
マリエールは呼ばれて、訓練中のテンションのまま思わず瞬間移動を使ってしまった。ローズとカトリーヌがポカンとしている。
「お母さま、お呼びでしょうか」
ローズは娘の顔をまじまじと見た。
「あなた、今のは?」
「……瞬間移動です」
これまで人族の中で瞬間移動を使えたのは、伝説上の人物しかいない。
「あなた、ひょっとして……?」
ローズの疑問にマリエールは決意した顔で答えた。
「はい、ノウキの部下になりました。瞬間移動のほかに格納も使えます。あと2秒ほど時を止めることも出来るようになりました」
何ということだ。娘がとんでもない人外になってしまった。オークどころかドラゴンにさえも勝てるかもしれない。
「あなた、聖女は辞めてしまったの?」
「いいえ、辞めてはいないです。ノウキは神の使徒に登録しました」
なるほど、そういうことか。ノウキだけではなく、人族最強兵器がここもいる。マリエールをこのまま聖女にしておくのはもったいない。
「あなた聖女を辞めて軍に入りなさい」
「はい、お母さま、私もそうしたいと思っていました。ノウキと一緒にいる時間をもっと増やしたいのです」
「あなた、まさか……」
まさかマリエールもノウキに恋心を抱いているのではないかとローズは危惧した。姉妹で同じ男を奪い合う姿は、母親としては見たくはない。
「はい、私もノウキのことが好きです。でも、妻ではなく、生涯ノウキの部下でいる決意をしました。私は魔法の限界を突き詰めたいのです。とはいえ、妻にも未練があったのですが、昨日のエリザの話で吹っ切れました。エリザを応援します」
昨日、エリザベートとノウキの婚約に対するマリエールの返事に間があったのは、最後の未練を断ち切るためのものだった。
「わかったわ。教皇には話はついているの?」
「はい、神様に仲介をお願いしました」
「あはは、それは断れないわね。ところで、ノウキの魔法はどれぐらい上達したの?」
ローズは一人で訓練中のノウキの方を見た。
「以前の私と同じところで苦しんでいます。あともう少しで瞬間移動をマスターできるはずなのですが、足踏み状態です」
「でも、そんなに高いレベルにいるのね」
「はい、ノウキの訓練に向かう姿勢に私も随分刺激を受けました。彼は本当に努力家です。それから、メイドメイジですが、全員ノウキよりも上のレベルに到達しています。そろそろノウキもメイドメイジも実戦を経験した方がよいかと思います」
マリエールは聖女になるまでに何度か母親といっしょに戦場に出た経験がある。実はエリザベートも実戦経験がある。
「そうなのね。いいわ、カトリーヌと作戦を練るわ。邪魔したわね。訓練に戻って」
「はい、お母さま」
そう言い残して、マリエールはノウキのすぐ右に瞬間移動して、ノウキに対して、掛かり稽古をさせ始めた。
ローズは二人を複雑な表情で見守っていたが、カトリーヌといっしょに訓練場を後にした。
「カトリーヌ、オークに奇襲をかけるわよ」
練習場を出る際、ローズはカトリーヌにそう耳打ちして、二人は何やら相談をしながら、執務室に入って行った。
ローズは絶句した。マリエールの訓練は以前とまるで違っているのだ。
「カトリーヌ、報告になかったけど」
カトリーヌも呆然として訓練を見ていた。
「ローズ様、前回私が見たときとは全く違ってます。これではまるで……」
「そうね、まるでノウキの部下のようね」
おっとりした風貌に騙されがちだが、マリエールは異様に負けず嫌いだ。そうでなければ、魔法使いの頂点に立てるわけがない。
「まさか聖女様は……」
「ええ、間違いなく、ノウキの部下になったわね。メイドメイジに負けたくなかったのでしょうね」
しかし、どうやって聖女を部下にしたのだろうか。教会内で聖女は教皇と同列の最高位だ。上司は存在しない。
まさか聖女を辞めたのか?
「マリ、ちょっといいかしら」
マリエールは呼ばれて、訓練中のテンションのまま思わず瞬間移動を使ってしまった。ローズとカトリーヌがポカンとしている。
「お母さま、お呼びでしょうか」
ローズは娘の顔をまじまじと見た。
「あなた、今のは?」
「……瞬間移動です」
これまで人族の中で瞬間移動を使えたのは、伝説上の人物しかいない。
「あなた、ひょっとして……?」
ローズの疑問にマリエールは決意した顔で答えた。
「はい、ノウキの部下になりました。瞬間移動のほかに格納も使えます。あと2秒ほど時を止めることも出来るようになりました」
何ということだ。娘がとんでもない人外になってしまった。オークどころかドラゴンにさえも勝てるかもしれない。
「あなた、聖女は辞めてしまったの?」
「いいえ、辞めてはいないです。ノウキは神の使徒に登録しました」
なるほど、そういうことか。ノウキだけではなく、人族最強兵器がここもいる。マリエールをこのまま聖女にしておくのはもったいない。
「あなた聖女を辞めて軍に入りなさい」
「はい、お母さま、私もそうしたいと思っていました。ノウキと一緒にいる時間をもっと増やしたいのです」
「あなた、まさか……」
まさかマリエールもノウキに恋心を抱いているのではないかとローズは危惧した。姉妹で同じ男を奪い合う姿は、母親としては見たくはない。
「はい、私もノウキのことが好きです。でも、妻ではなく、生涯ノウキの部下でいる決意をしました。私は魔法の限界を突き詰めたいのです。とはいえ、妻にも未練があったのですが、昨日のエリザの話で吹っ切れました。エリザを応援します」
昨日、エリザベートとノウキの婚約に対するマリエールの返事に間があったのは、最後の未練を断ち切るためのものだった。
「わかったわ。教皇には話はついているの?」
「はい、神様に仲介をお願いしました」
「あはは、それは断れないわね。ところで、ノウキの魔法はどれぐらい上達したの?」
ローズは一人で訓練中のノウキの方を見た。
「以前の私と同じところで苦しんでいます。あともう少しで瞬間移動をマスターできるはずなのですが、足踏み状態です」
「でも、そんなに高いレベルにいるのね」
「はい、ノウキの訓練に向かう姿勢に私も随分刺激を受けました。彼は本当に努力家です。それから、メイドメイジですが、全員ノウキよりも上のレベルに到達しています。そろそろノウキもメイドメイジも実戦を経験した方がよいかと思います」
マリエールは聖女になるまでに何度か母親といっしょに戦場に出た経験がある。実はエリザベートも実戦経験がある。
「そうなのね。いいわ、カトリーヌと作戦を練るわ。邪魔したわね。訓練に戻って」
「はい、お母さま」
そう言い残して、マリエールはノウキのすぐ右に瞬間移動して、ノウキに対して、掛かり稽古をさせ始めた。
ローズは二人を複雑な表情で見守っていたが、カトリーヌといっしょに訓練場を後にした。
「カトリーヌ、オークに奇襲をかけるわよ」
練習場を出る際、ローズはカトリーヌにそう耳打ちして、二人は何やら相談をしながら、執務室に入って行った。
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