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随行
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ガナルへは商隊の荷馬車の後に貴婦人用の馬車がついて行く形で移動していた。
アミとミアは商家の娘で、行商の経験もあり、馬車の操舵が出来る。そのため、貴婦人用の馬車の御者はアミとミアが務め、私とステーシアは貴族であることを明かし、馬車に同乗させてもらおうとした。その方が護衛しやすいからだ。
だが、お妃様はそんなことは気にされなかった。
「私は商家の生まれよ。別に貴族でなくても、一緒にお乗りなさいな」
私の前にはミレイ、その横にお妃様がいらっしゃるのだが、この二人の美貌圧が凄すぎる。自分で言うのも何だが、私は聖女になれるぐらいには美しいし、ステーシアもかなりの美人だが、この二人は圧倒的だ。
「あなた、ルミエールさん、息子があなたの話ばかりするのよ。どうしてかしら?」
お妃様が美しい眉をひそめて、私にたずねるが、どうしてなのかはこちらが知りたい。
「さ、さあ、私には分かりかねます」
「お兄様は戦場でもルミエールさんの姿を目で追ってばかり。あんなに分かりやすい愛情表現は、見ているこちらが恥ずかしくなりました」
妹のミレイの兄への評価は辛辣だった。
「は、はあ」
「廃太子されたジョージ王子を息子が殴ったと聞いたときは冷や汗が出たわよ。あなたのことを息子を惑わす女狐め、と思っていたのですけど、まっすぐで純粋で、可愛らしい方のようね」
「そ、そんな……」
「聖女様が絶賛しておられました。歴代聖女の中で文句なしで最上級の方だと」
「いえ、私は、そんな……」
誉め殺しされそうだ。
(ちょっと、ステイ、黙ってないで、助けてよ)
私はステーシアに合図した。
(分かったよ)
「あの、お妃様」
「なあに、ステーシアさん」
「よく陛下がガナル行きを許可して下さいましたね」
ステーシアがうまく話題を変えてくれたと思ったら、話はとんでもない方向に進むことになった。
「あら? お聞きになっていないのかしら? 許可は頂いてなくてよ。逃げて来ましたの」
「「え!?」」
私とステーシアはハモった。
「シュンメイはご存知かしら?」
「「はい」」
「あの子は私の甥なのよ。頭のいい子でね。今回の計画は全てシュンメイが立てたものよ」
「どんな計画なのでしょうか?」
私は聞かずにはいられなかった。
「ミレイ、説明して差し上げて」
「はい、お母様。シュンメイ兄様はルミエールさんにテリュース兄様を婿に取って頂きたいと考えています」
「え? 私が嫁に行くのではなく、婿を取るのですか?」
私はテリュースとの婚姻よりも、婿を取るという言い回しの方に興味が向いた。
「はい。ただ、テリュース兄様は本当にルミエールさんのことを大切に考えてまして、常々、ルミエールさんの人生の邪魔はしたくない、と言っておりますので、ご判断はルミエールさんにお任せします」
「そう言われましても、私はお兄様のことはあまり存じ上げておりません」
「それをこれから知って頂こうというのが、シュンメイ兄様の計画です」
「はあ」
「ルミ、私たちは逃亡幇助の罪に問われるぞ」
ステーシアが重大な点に気づいた。
「はい、残念ながら、私たちは指名手配中です。あなた方四人もです」
「嵌められたのか?」
ステーシアはミレイが王女であることを忘れているのだろうか。そんなに睨むのはまずいと思う。
「まあ、そうですが、あなた方四人は私たちがガナルの地で、命をかけてお守りします」
そうは言うが、ずいぶんと勝手だと私も思う。
「しかし、ガナルから出られないのですよね?」
私は私たちが不自由になる点をアピールしたかった。
「はい、しばらくはそうです」
「クレイと会えなくなるっ」
ステーシアが悲痛な叫び声を上げた。
「クレイさんはガナルにいらっしゃいます」
「は?」
ステーシアがキョトンとしているが、私も驚いた。そんなことが出来るのか。
「シュンメイ兄様はルミエールさんにテリュース兄様を知って頂くために、ガナルの地で冒険者活動をして頂きたいと考えました。そのために、ステーシアさん、アミさん、ミアさんがガナルにいたいと思うような策を施しました。クレイさんのガナルへの異動はその一つです」
「アミとミアもですか!?」
「今回の逃亡は大罪ですが、ルミエールさんは鬼籍ですし、ステーシアさんは勘当中ですので、両家へのお咎めはありません。しかしながら、アミさん、ミアさんのご実家は、資産を没収され、処刑されてしまいます」
「そ、そんな……」
「そのため、エドモンド商会から事前に取引を持ちかけました。ガナル地区の商権とエルフとの貿易ルートの譲渡です」
「どれだけの価値があるのか分からないですが、アミたちの実家は取引に応じたのですね」
「はい。アミさんとミアさんのご実家は私たちと一緒に移動中です」
「え? ひょっとして前の商隊は……」
「はい、アミさんとミアさんの商家の方々です。お互い気づいておられませんが」
「しかし、エドモンド商会にはそれでメリットはあるのでしょうか」
「エドモンド商会の当主である叔父様は、すでに東方の地に拠点を移しておられます。今後は、交易を王都ではなく、ガナル地区で直接行う予定です。その方がエルフとも交易できて、一石二鳥だからです。王都での商権はすでに譲渡先が見つかっており、全て譲渡済です」
「こんな短期間にそれだけのことを……」
「いいえ。ジョージ王子が立太子されたときから着手しておりました。思った以上にジョージ王子が早く失脚してしまい、少し慌てましたが、何とか間に合いました」
「テリュース王子が西王に封じられることを読んでいたのですか」
「そうなるように仕向けました。エルフとも協力しております」
「す、すごい。それをシュンメイさんがお一人で計画されたのですか?」
「そうです」
「ということは、これからは王都ではなく、ガナルが中心となって栄えて行くということでしょうか?」
「その通りです。王都は地理的には東方貿易の玄関口ですので、引き続きそれなりには栄えますが、良くて頭打ち、恐らく徐々に衰退すると思います」
「ひょっとして、シュンメイさんは、王位の転覆を画策されておられるのでしょうか」
「いいえ。経済的にはテリュース兄様を支援しますが、転覆ではないです。皇位継承者の一人を支援するに過ぎません。兄を王位に就かせるか、第三王子に継がせるかは、陛下のご判断にお任せします」
私たちは活動拠点をガナルに移さざるを得なかった。
アミとミアは商家の娘で、行商の経験もあり、馬車の操舵が出来る。そのため、貴婦人用の馬車の御者はアミとミアが務め、私とステーシアは貴族であることを明かし、馬車に同乗させてもらおうとした。その方が護衛しやすいからだ。
だが、お妃様はそんなことは気にされなかった。
「私は商家の生まれよ。別に貴族でなくても、一緒にお乗りなさいな」
私の前にはミレイ、その横にお妃様がいらっしゃるのだが、この二人の美貌圧が凄すぎる。自分で言うのも何だが、私は聖女になれるぐらいには美しいし、ステーシアもかなりの美人だが、この二人は圧倒的だ。
「あなた、ルミエールさん、息子があなたの話ばかりするのよ。どうしてかしら?」
お妃様が美しい眉をひそめて、私にたずねるが、どうしてなのかはこちらが知りたい。
「さ、さあ、私には分かりかねます」
「お兄様は戦場でもルミエールさんの姿を目で追ってばかり。あんなに分かりやすい愛情表現は、見ているこちらが恥ずかしくなりました」
妹のミレイの兄への評価は辛辣だった。
「は、はあ」
「廃太子されたジョージ王子を息子が殴ったと聞いたときは冷や汗が出たわよ。あなたのことを息子を惑わす女狐め、と思っていたのですけど、まっすぐで純粋で、可愛らしい方のようね」
「そ、そんな……」
「聖女様が絶賛しておられました。歴代聖女の中で文句なしで最上級の方だと」
「いえ、私は、そんな……」
誉め殺しされそうだ。
(ちょっと、ステイ、黙ってないで、助けてよ)
私はステーシアに合図した。
(分かったよ)
「あの、お妃様」
「なあに、ステーシアさん」
「よく陛下がガナル行きを許可して下さいましたね」
ステーシアがうまく話題を変えてくれたと思ったら、話はとんでもない方向に進むことになった。
「あら? お聞きになっていないのかしら? 許可は頂いてなくてよ。逃げて来ましたの」
「「え!?」」
私とステーシアはハモった。
「シュンメイはご存知かしら?」
「「はい」」
「あの子は私の甥なのよ。頭のいい子でね。今回の計画は全てシュンメイが立てたものよ」
「どんな計画なのでしょうか?」
私は聞かずにはいられなかった。
「ミレイ、説明して差し上げて」
「はい、お母様。シュンメイ兄様はルミエールさんにテリュース兄様を婿に取って頂きたいと考えています」
「え? 私が嫁に行くのではなく、婿を取るのですか?」
私はテリュースとの婚姻よりも、婿を取るという言い回しの方に興味が向いた。
「はい。ただ、テリュース兄様は本当にルミエールさんのことを大切に考えてまして、常々、ルミエールさんの人生の邪魔はしたくない、と言っておりますので、ご判断はルミエールさんにお任せします」
「そう言われましても、私はお兄様のことはあまり存じ上げておりません」
「それをこれから知って頂こうというのが、シュンメイ兄様の計画です」
「はあ」
「ルミ、私たちは逃亡幇助の罪に問われるぞ」
ステーシアが重大な点に気づいた。
「はい、残念ながら、私たちは指名手配中です。あなた方四人もです」
「嵌められたのか?」
ステーシアはミレイが王女であることを忘れているのだろうか。そんなに睨むのはまずいと思う。
「まあ、そうですが、あなた方四人は私たちがガナルの地で、命をかけてお守りします」
そうは言うが、ずいぶんと勝手だと私も思う。
「しかし、ガナルから出られないのですよね?」
私は私たちが不自由になる点をアピールしたかった。
「はい、しばらくはそうです」
「クレイと会えなくなるっ」
ステーシアが悲痛な叫び声を上げた。
「クレイさんはガナルにいらっしゃいます」
「は?」
ステーシアがキョトンとしているが、私も驚いた。そんなことが出来るのか。
「シュンメイ兄様はルミエールさんにテリュース兄様を知って頂くために、ガナルの地で冒険者活動をして頂きたいと考えました。そのために、ステーシアさん、アミさん、ミアさんがガナルにいたいと思うような策を施しました。クレイさんのガナルへの異動はその一つです」
「アミとミアもですか!?」
「今回の逃亡は大罪ですが、ルミエールさんは鬼籍ですし、ステーシアさんは勘当中ですので、両家へのお咎めはありません。しかしながら、アミさん、ミアさんのご実家は、資産を没収され、処刑されてしまいます」
「そ、そんな……」
「そのため、エドモンド商会から事前に取引を持ちかけました。ガナル地区の商権とエルフとの貿易ルートの譲渡です」
「どれだけの価値があるのか分からないですが、アミたちの実家は取引に応じたのですね」
「はい。アミさんとミアさんのご実家は私たちと一緒に移動中です」
「え? ひょっとして前の商隊は……」
「はい、アミさんとミアさんの商家の方々です。お互い気づいておられませんが」
「しかし、エドモンド商会にはそれでメリットはあるのでしょうか」
「エドモンド商会の当主である叔父様は、すでに東方の地に拠点を移しておられます。今後は、交易を王都ではなく、ガナル地区で直接行う予定です。その方がエルフとも交易できて、一石二鳥だからです。王都での商権はすでに譲渡先が見つかっており、全て譲渡済です」
「こんな短期間にそれだけのことを……」
「いいえ。ジョージ王子が立太子されたときから着手しておりました。思った以上にジョージ王子が早く失脚してしまい、少し慌てましたが、何とか間に合いました」
「テリュース王子が西王に封じられることを読んでいたのですか」
「そうなるように仕向けました。エルフとも協力しております」
「す、すごい。それをシュンメイさんがお一人で計画されたのですか?」
「そうです」
「ということは、これからは王都ではなく、ガナルが中心となって栄えて行くということでしょうか?」
「その通りです。王都は地理的には東方貿易の玄関口ですので、引き続きそれなりには栄えますが、良くて頭打ち、恐らく徐々に衰退すると思います」
「ひょっとして、シュンメイさんは、王位の転覆を画策されておられるのでしょうか」
「いいえ。経済的にはテリュース兄様を支援しますが、転覆ではないです。皇位継承者の一人を支援するに過ぎません。兄を王位に就かせるか、第三王子に継がせるかは、陛下のご判断にお任せします」
私たちは活動拠点をガナルに移さざるを得なかった。
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