言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

犯人捜し

新たな協力者

　その時だった。メールが届いたことを知らせるポップアップ画面が表示される。私は、他の3人に断ってメールを開く。メールの送り主は、シュウさんだった。件名は、報告。

『話は聞かせてもらった。ここのカフェなら、既にこちらで見張っている。他の店を任せたい』

　やっぱり、仕事のメールみたいな文面だなぁ。私は心の中で苦笑いする。ん？　話は聞かせてもらったとあるけれど、シュウさんどこから見てたの？

　私は、辺りを見回す。いや、そもそも私、シュウさんの顔すらよく知らないんだけどさ。だけど。一つだけ、心当たりらしいものがある。

　さっき私たちの席に水の入ったグラスを届けに来てくれた人。黒髪で、全く気配を感じさせずにこちらに近づいてきた店員さんらしき人。あの人が、怪しい。

　でもあえて、こちらに声をかけてこなかったってことは、きっと何か理由があるんだよね。だったら、私の考えが合っている確証もない状態でさっきの人に直接声をかけるより、メールかチャットで話す方がいい気がする。

　このゲームにはチャット機能も搭載されている。まぁオンラインゲームなら、だいたいのゲームに搭載されている機能だとは思う。もちろんログインしている全員に見えるように発言するものもあるし、特定の人のみにしか見えないように設定して話すこともできる。今ならきっとシュウさん、すぐ返信くれると思うから、チャットでいいかな。

　私はそう思って、送付相手をシュウさんのみに設定してチャットを送る。

『もしかして、さっきお水持ってきてくれたのが、シュウさんですか』

　すると、すぐに返信が飛んでくる。その間に、フリントさんが雑談を交えながら、セナさんとルリアさんから犯人についての情報を聞き出してくれている。おお、何も伝えてないのにフリントさんすごい。

　私は安心してシュウさんからの返信を確認する。

『そうだ。挨拶もせずすまない。ワケありでここで働いている。少なくとも相手の尻尾を掴むまではここで働いているから、この店はこちらに任せてもらって構わない。得た情報は報告する』

　やっぱり、あの人がシュウさんだったんだ。もうちょっとちゃんと顔を見ておけばよかったな。私はそんなことを考えながら、返信する。

『分かりました。では、このお店の見張りはシュウさんにお願いします。この街の他の飲食店を知りませんか』

　私の問いに、シュウさんはすぐ店の数と店の場所をチャットで送ってくれる。ああ、私の上司や仲間にも、こんな人がいたらな。そんな思いが一瞬頭をかすめる。

　必要最低限の会話と、仕事の速さ。私は仕事は遅いし、人付き合いは得意じゃない。だから、必要最低限のコミュニケーションが居心地がよかったりする。まぁ、万人受けする考えだとは思ってないけど。

　とりあえず、現状は知り合いがここで働いているって情報は隠しておいた方がいいかな。どこから情報が漏れるか分からないからね。

　私は自分に言い聞かせると、フリントさんたちの会話の輪に戻り、犯人が同じ店で悪事を働く可能性は低そうなことを伝えた。そして、この店以外の飲食店にそれぞれを配置することを決めたことを伝えたのだった。