上 下
124 / 304
自分探しの旅その2(やりたいこと探し)

帰還

しおりを挟む

 男性は、大きくため息をつくと、一言言った。

「仕方ない、今回は見逃してあげよう」

 男性の言葉とほぼ同時に、ポップアップ画面が立ち上がる。

『転送を開始します。転送先:始まりの街・カンナの店』

 ああ、よかった。無事に元いた場所に帰してもらえるみたい。私は安堵のため息をつく。すると、男性はきっと私をにらんで言った。

「でも、忘れるな。ぼくはあきらめない」

 その言葉を聞き終わってすぐ、私は体が浮き上がるのを感じた。数秒後にはカンナさんのお店へと戻ってきていた。ううう、高所恐怖症で絶叫マシーン苦手な私には、厳しい旅だった。


 私はそんなことを思いながら、お店の外へ出た。シュウさん、戻ってこれたかな。チャット送った方がいいかな。

 そんなことを思っていたら、店の方へと歩いてくる男性の姿が目に入った。私はあわてて、彼の方へと走り寄った。

「シュウさん! よかった無事に戻ってこられましたか」

 私の言葉に、シュウさんはこっくりと頷く。

「……ああ」
「すみません、助かりましたありがとうございました」

 早口で言う私に、シュウさんは少しだけ首をかしげる。

「困った時はお互い様というヤツだ。役に立てることがあれば、遠慮なく頼ってくれて構わない。こちらも、そちらに助けてもらっているからな」

 そう言ってから、シュウさんは顔をしかめる。

「話は変わるが、先ほどの男に見覚えはあるか」
「いえ、ありません」

 私が即答すると、シュウさんは頷く。

「だろうな。しかし、こちらは」

 彼は、腕組みをしながらゆっくりと言った。

「……どうも、どこかで見た顔のような気がする」
「シュウさんが会ったことのある人ってことですか」

 私の言葉に、シュウさんは首をひねる。

「……元々、人の顔を覚えるのが苦手な性質でな。けれど、あの物言いとあの見た目、どこかで目にした気がする」

「ゲーム内の見た目って、変更できませんでしたよね」

 私は昔の記憶を手繰り寄せながら言う。そう、初めてゲームをログインした日。女神さまに初期ステータスを決定してもらったあの日、女神さまは言っていた。

『髪の色や髪型、瞳の色、肌の色などはいつでも変更できます』。

 でも、色合いは変更出来ても、顔の輪郭や身長など、ベースとなる見た目は変更できなかったはず。

「ああ、できない。現実世界とリンクしたゲーム。それがこのゲームのコンセプトだからな」

 シュウさんが答えてそうなると、と続ける。

「やはり、現実世界で出会ったことがある誰かか。それとも、ゲーム内のクエストなどで一緒になったことのある誰かだろうか。しかし、ギルドに所属しているメンバーではなかったしな……」

 シュウさんは顔をしかめる。

「まぁ、特別スキルを狙っているってことは分かりましたね。あとは、人のスキルを奪うことができる力、またはそのような道具を持っているということ」

 私の言葉に、シュウさんは頷く。

「このことは、上に報告しておく。また何か分かったら連絡する。あ、それと」

 シュウさんは一枚の紙きれを私に差し出しながら、頭をかく。

「……迷惑だったらすまないが。何かあったときのための、保険だ」

 私が中身を確認するより前に、シュウさんはさっさと立ち去ってしまった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

別れのあと先

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:16

私のおウチ様がチートすぎる!!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:262pt お気に入り:3,303

水の中でも何処でももふもふ!! あたらしい世界はもふもふで溢れていました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:326pt お気に入り:1,158

落ちこぼれ一兵卒が転生してから大活躍

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:18

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:6,503pt お気に入り:951

【意味怖プチ】1行で意味が分かると怖い話

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:596pt お気に入り:25

斧で逝く

SF / 連載中 24h.ポイント:434pt お気に入り:22

最強のFランク光魔導士、追放される

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:285pt お気に入り:269

【本編完結】捨てられ聖女は契約結婚を満喫中。後悔してる?だから何?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,597pt お気に入り:8,006

処理中です...