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11 普通の転生者、晴れない心を持て余す
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明日から学園は約2ヶ月の夏季休暇に入る。待ちに待っていた休みなのに僕の心は晴れない。
全然晴れない。土砂降りと言うよりはジメジメと降り続く鬱陶しい雨のような気持ち。
「それで予定を教えてよ。サミーの邪魔にならないように顔だけでも見に行きたいんだ」
「いえ、来られるだけでも邪魔なので」
「ハハハハ! サミーは面白いことを言うな!」
うわ~ん! 真面目に言っているんですよ。正直に言ってるんです。心から、言っているんです!
先週、僕に謎の告白をしてきたクリーランド公爵子息のアーレン様は意外や意外、とてもポジティブで強い心を持つ人だった。
「何度も言いますが、僕は市場に働きに行っているんです。賃金をいただいて働いているんです。働いている間に高位の貴族の方に来られるのは困るんです」
「うん。邪魔はしないよ。ちゃんとこっそり顔を見に行くだけだよ。だって、好きな人が働いている所を見るなんてドキドキするじゃないか」
僕は違う意味でドキドキするよ。だって、護衛とかもいるんでしょ? そんな怪しい団体が人で賑わう休日のマルシェにいてみなよ。浮くでしょ? おかしいでしょ? 邪魔にならないわけないでしょ?!
「僕、お断りしましたよ。それに子爵家ですから。しかも三男ですから。お付き合いなんて無理ですから」
「うん。だからさ、お互いから知る事から始めるのがいいって聞いてきたんだよ。ね? アーレンって呼んで?」
「呼ばないです。僕、僕、やりたい事が沢山あるから、お付き合いしている暇ないんです! わ~ん!」
誰に何を聞いたんだよ~!
僕は走った。走っても仕方ないけど、でも走った。ほんとにどうしてこんな事になっちやったんだろう?
アーレンさんが現れるようになってから、フィルの眉間には三本の皺が常駐するようになってしまったし、ブラッドはお茶を飲みに来てくれなくなってしまったので、お菓子のおすそ分けもなくなってしまったし、なんなら明日からバカンスで領地に戻ってしまうんだって。
他の人も「公爵家じゃねぇ……」って言って、次に「きっとそのうち飽きるよ。だって公爵家だもん」と真剣に取り合ってくれないんだ。
先生に言っても頼りにならないし、本来なら来るはずのない食堂に公爵家の子息が来るから食堂のお兄さんも目を白黒させている。
「こ、これって元居た世界ではストーカーとか言うんじゃないかな。ああ、でもこの世界にそんなのないし。隠れるにしても、僕の居場所は今学園の寮しかないし。っていうかそのうちって、いつまで?」
本気で泣きたくなって、スンと鼻をすすりながら、僕はトボトボと寮の部屋に戻った。
今日は隣町の食堂の仕事がある。少しでも身体を動かしていた方が考えないで済むけど、考えないでいればどうにかなる事でもないのは判っている。
休日マルシェまであと3日。
公爵様はバカンスシーズンも王都にいるんだって言っていた。
市場の仕事は気に入っていたんだけど、本当に迷惑がかかるようなら辞めないといけないな。
「こんなんじゃ幸せも集められないよ……」
悲しい気持ちは集めていないのに、悲しくなる気持ちは止まらない。
そんな気持ちを抱えたまま、それでも時間までグズグズと卒業のレポート用に集めた本を見たりして、僕は隣町へと飛んだ。
だけど、幸せが多くなると集まってくるように、悲しい気持ちも多くなると集まって来ちゃうみたいで、いつもなら誰にも見られない所に転移出来るのに、今日は転移した所に人が居た。
別に見られても、僕だけしか使えないような特別な魔法じゃないけれど、それでもあまり持っている人がいない珍しい魔法で、犯罪とかに使われるとまずい魔法だから隠していたんだよね。
「あ……」
「え……!」
目の前にいて目を見開いていたは、あの黒髪の人だった。
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全然晴れない。土砂降りと言うよりはジメジメと降り続く鬱陶しい雨のような気持ち。
「それで予定を教えてよ。サミーの邪魔にならないように顔だけでも見に行きたいんだ」
「いえ、来られるだけでも邪魔なので」
「ハハハハ! サミーは面白いことを言うな!」
うわ~ん! 真面目に言っているんですよ。正直に言ってるんです。心から、言っているんです!
先週、僕に謎の告白をしてきたクリーランド公爵子息のアーレン様は意外や意外、とてもポジティブで強い心を持つ人だった。
「何度も言いますが、僕は市場に働きに行っているんです。賃金をいただいて働いているんです。働いている間に高位の貴族の方に来られるのは困るんです」
「うん。邪魔はしないよ。ちゃんとこっそり顔を見に行くだけだよ。だって、好きな人が働いている所を見るなんてドキドキするじゃないか」
僕は違う意味でドキドキするよ。だって、護衛とかもいるんでしょ? そんな怪しい団体が人で賑わう休日のマルシェにいてみなよ。浮くでしょ? おかしいでしょ? 邪魔にならないわけないでしょ?!
「僕、お断りしましたよ。それに子爵家ですから。しかも三男ですから。お付き合いなんて無理ですから」
「うん。だからさ、お互いから知る事から始めるのがいいって聞いてきたんだよ。ね? アーレンって呼んで?」
「呼ばないです。僕、僕、やりたい事が沢山あるから、お付き合いしている暇ないんです! わ~ん!」
誰に何を聞いたんだよ~!
僕は走った。走っても仕方ないけど、でも走った。ほんとにどうしてこんな事になっちやったんだろう?
アーレンさんが現れるようになってから、フィルの眉間には三本の皺が常駐するようになってしまったし、ブラッドはお茶を飲みに来てくれなくなってしまったので、お菓子のおすそ分けもなくなってしまったし、なんなら明日からバカンスで領地に戻ってしまうんだって。
他の人も「公爵家じゃねぇ……」って言って、次に「きっとそのうち飽きるよ。だって公爵家だもん」と真剣に取り合ってくれないんだ。
先生に言っても頼りにならないし、本来なら来るはずのない食堂に公爵家の子息が来るから食堂のお兄さんも目を白黒させている。
「こ、これって元居た世界ではストーカーとか言うんじゃないかな。ああ、でもこの世界にそんなのないし。隠れるにしても、僕の居場所は今学園の寮しかないし。っていうかそのうちって、いつまで?」
本気で泣きたくなって、スンと鼻をすすりながら、僕はトボトボと寮の部屋に戻った。
今日は隣町の食堂の仕事がある。少しでも身体を動かしていた方が考えないで済むけど、考えないでいればどうにかなる事でもないのは判っている。
休日マルシェまであと3日。
公爵様はバカンスシーズンも王都にいるんだって言っていた。
市場の仕事は気に入っていたんだけど、本当に迷惑がかかるようなら辞めないといけないな。
「こんなんじゃ幸せも集められないよ……」
悲しい気持ちは集めていないのに、悲しくなる気持ちは止まらない。
そんな気持ちを抱えたまま、それでも時間までグズグズと卒業のレポート用に集めた本を見たりして、僕は隣町へと飛んだ。
だけど、幸せが多くなると集まってくるように、悲しい気持ちも多くなると集まって来ちゃうみたいで、いつもなら誰にも見られない所に転移出来るのに、今日は転移した所に人が居た。
別に見られても、僕だけしか使えないような特別な魔法じゃないけれど、それでもあまり持っている人がいない珍しい魔法で、犯罪とかに使われるとまずい魔法だから隠していたんだよね。
「あ……」
「え……!」
目の前にいて目を見開いていたは、あの黒髪の人だった。
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