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19 普通の転生者、秋が過ぎるのが早くて驚く
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「サミー、元気出しなよ。何があったのか知らないけど、もう少しで試験でしょう? そんな顔をしていたら面接で落とされちゃうよ?」
ブラッドからそう言われた。
「最近元気ないぞ。試験も大事だが身体を大事にしないとな。しっかり食べろよ」
食堂の人にも言われた。
「向こうだって謹慎だけで終わっているんだ。いつまでもグダグダ無駄な事を考えてるな。じゃないと領地で部屋住みだぞ」
フィルにまでそんな励ましなのか何なのか分からない事を言われて、しかも
「幸せ家族計画は終了か?」
「むぅぅぅぅぅぅぅ、家族計画じゃないってば!!」
こうして僕は10月後半に差し掛かった頃、ようやく復活をした。
僕がダリオンさんを傷つけた事は事実だ。例えお付き合いするつもりはなかったにしろ、やっぱり付き合えないっていう一言は言うべきだった。
そして、ダリオンさんがやった事もやってはいけない事だった。
いきなり転移してどこかに連れて行くのはいけない。それは人攫いだ。
だからもうやっぱりおあいこだと思って、なかった事にはならないけれど、それでもなかった事にするのがいいんじゃないかな。
それを聞いたフィルは
「やっぱりお前馬鹿だろう」って呆れていた。
ううう、だってさ。本当に悲しそうだったんだもの。人の悲しそうな顔を見るのは嫌なんだ。
勿論いつもそんな事は言っていられないし、僕の中にだって面倒な事に巻き込まれたくなかったっていう気持ちもあるよ。でも、それでもさ。
ダリオンさんの気持ちに応える事も、ロイであり続ける事もできないけど、ロイを好きになってくれてありがとうって思う気持ちは持ちたいんだ。
「サミーらしいな」
「僕らしいってどういう事? 馬鹿みたいって事?」
ムッとしながらそういうと
「お人好しで、チョロくて、心配になる」
「何それ、もう、同じ事はしないよ。ちゃんとそれくらいは成長しているんだからね」
「ああ、そうしてくれ。何度も人攫いに合われたら俺の身が持たない」
「そんなに何度も会わないよ」
「そうだな。さて、じゃあな。あんまり根詰めるなよ」
そう言ってフィルは僕の頭をポンポンとして食べ終えた食器を持って立ち上がった。最近は前みたいに朝と晩は一緒に食事をするようになったんだ。
そうして食堂から寮までのわずかな道を僕とフィルは並んで歩く。
「少し寒くなってきたね」
「ああ、風邪ひくなよ」
「うん。あのさ、フィルは騎士の試験、受けるの?」
「ああ? まぁな。考え中」
「へ? 騎士科に行ってて、夏の遠征訓練も受けたのに?」
「ああ。騎士試験に受かったって言うのは一つ自信にもなるなって思ったからな。けど」
「けど?」
「考え中。あ~、やっぱ領の方が星が綺麗だな」
フィルはそう言って夜空を見上げた。
「じゃあな。あともう少しなんだから頑張れよ」
「うん」
フィルはそう言って騎士棟の方の寮に向かって走って行った。僕はポテポテと歩いて自分の寮に入る。
「…………ああ、そうか」
ポツリと落ちた声。
試験が近づいてきて、卒業も近づいてきて、そうして来年になったら、僕は生まれて初めてフィルと離れる事になるんだ。
え? 今更? って思うけど、何だか急にそれを意識した。
「えっと……」
だって僕、王都で独り暮らしをするんだってちゃんと思っていたのに。
どうしてそれをきちんと理解していなかったんだろう?
「うわ……え? 僕、ほんとに馬鹿?」
今更ながらの事に動揺している自分に驚いて、僕はゆっくりと自分の部屋に戻った。とにかく、もう少し勉強をしよう。
試験まで後半月ほど。秋はなんて過ぎていくのが早いんだろう。
ブラッドからそう言われた。
「最近元気ないぞ。試験も大事だが身体を大事にしないとな。しっかり食べろよ」
食堂の人にも言われた。
「向こうだって謹慎だけで終わっているんだ。いつまでもグダグダ無駄な事を考えてるな。じゃないと領地で部屋住みだぞ」
フィルにまでそんな励ましなのか何なのか分からない事を言われて、しかも
「幸せ家族計画は終了か?」
「むぅぅぅぅぅぅぅ、家族計画じゃないってば!!」
こうして僕は10月後半に差し掛かった頃、ようやく復活をした。
僕がダリオンさんを傷つけた事は事実だ。例えお付き合いするつもりはなかったにしろ、やっぱり付き合えないっていう一言は言うべきだった。
そして、ダリオンさんがやった事もやってはいけない事だった。
いきなり転移してどこかに連れて行くのはいけない。それは人攫いだ。
だからもうやっぱりおあいこだと思って、なかった事にはならないけれど、それでもなかった事にするのがいいんじゃないかな。
それを聞いたフィルは
「やっぱりお前馬鹿だろう」って呆れていた。
ううう、だってさ。本当に悲しそうだったんだもの。人の悲しそうな顔を見るのは嫌なんだ。
勿論いつもそんな事は言っていられないし、僕の中にだって面倒な事に巻き込まれたくなかったっていう気持ちもあるよ。でも、それでもさ。
ダリオンさんの気持ちに応える事も、ロイであり続ける事もできないけど、ロイを好きになってくれてありがとうって思う気持ちは持ちたいんだ。
「サミーらしいな」
「僕らしいってどういう事? 馬鹿みたいって事?」
ムッとしながらそういうと
「お人好しで、チョロくて、心配になる」
「何それ、もう、同じ事はしないよ。ちゃんとそれくらいは成長しているんだからね」
「ああ、そうしてくれ。何度も人攫いに合われたら俺の身が持たない」
「そんなに何度も会わないよ」
「そうだな。さて、じゃあな。あんまり根詰めるなよ」
そう言ってフィルは僕の頭をポンポンとして食べ終えた食器を持って立ち上がった。最近は前みたいに朝と晩は一緒に食事をするようになったんだ。
そうして食堂から寮までのわずかな道を僕とフィルは並んで歩く。
「少し寒くなってきたね」
「ああ、風邪ひくなよ」
「うん。あのさ、フィルは騎士の試験、受けるの?」
「ああ? まぁな。考え中」
「へ? 騎士科に行ってて、夏の遠征訓練も受けたのに?」
「ああ。騎士試験に受かったって言うのは一つ自信にもなるなって思ったからな。けど」
「けど?」
「考え中。あ~、やっぱ領の方が星が綺麗だな」
フィルはそう言って夜空を見上げた。
「じゃあな。あともう少しなんだから頑張れよ」
「うん」
フィルはそう言って騎士棟の方の寮に向かって走って行った。僕はポテポテと歩いて自分の寮に入る。
「…………ああ、そうか」
ポツリと落ちた声。
試験が近づいてきて、卒業も近づいてきて、そうして来年になったら、僕は生まれて初めてフィルと離れる事になるんだ。
え? 今更? って思うけど、何だか急にそれを意識した。
「えっと……」
だって僕、王都で独り暮らしをするんだってちゃんと思っていたのに。
どうしてそれをきちんと理解していなかったんだろう?
「うわ……え? 僕、ほんとに馬鹿?」
今更ながらの事に動揺している自分に驚いて、僕はゆっくりと自分の部屋に戻った。とにかく、もう少し勉強をしよう。
試験まで後半月ほど。秋はなんて過ぎていくのが早いんだろう。
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