普通の転生者は幸せになる計画を立てる。でも幸せって何?

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24 普通の転生者、現実逃避をしてみる(改稿)

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 僕の頭は初めて聞く情報でもういっぱいいっぱいだった。
 だけど父様の話はまだ続く。

「それでね、サミュエル。お祖父様を諦めきれない公爵家が、では孫をって事で私に白羽の矢がたったんだ。でも私は大お祖父様やお祖父様ほど魔力量が多いわけではなく、何かに秀でているわけでもはない。それにエマーソン家には男子は一人だったから結局お断りしたんだけど、今、また養子にならないかって打診が来ている。後は王室からも」
「は?」

 え? 何て言ったの、最後。よ、よく聞こえなかったなぁ……

「貴方」

 さすがに母様が僕の顔を見て、父様を止めようとしてくれたんだけど、父様は溜息をつきながら首を横に振った。

「仕方がないだろう。もうサミュエルも成人だ。王城で働くのだから、いずれは手が伸びる。その前にきちんと話をして自分で決める道を選べるようにしておいてやらないと」
「それはそうですけど」

 何? 何を言っているの? 父様? 母様?

「今代の国王陛下はご幼少時にリリアンナ様にとても可愛がっていただいたそうで、その……初恋なんだそうだよ。それで、その……リリアンナ様の子孫でリリアンナ様に似ているサミュエル、君を公爵家か、もしくは、王家に迎えたいと考えておられるようだ。王家の場合は、その……第四王子との結婚らしいが」

「リ、リリアンナ様……? 第四王子??」

 声が震える。リリアンナ様とは肖像画の大祖母様おおおばあさまの名前だ。それくらいは僕にも分かる。王女様だったのは知らなかったけど。でも他の情報は分かりたくないんだけど?

「ちなみにその公爵家はマルシェの時の公爵家とは違うので安心しなさい」

 いやいやいやいや、安心できないです。これっぽっちも。

「すぐに決める必要はないけれど、そういう話もあるって事は覚えておいてね」

 母様は「食事中にごめんなさいね」って話をまとめたけど、問題はそこじゃないよね。
 覚えておいてどうするの? だって覚えているだけじゃ駄目だよね。多分。

 それにさ、来年になったらお城で働くんだよ? それってもうひと月もないんだけど?
 あ、でも僕が働く所は下っ端の所だから中央にいるような方たちとはお目にかかる機会なんてないんじゃないかなぁ。
 ましてや、王様や、王子様に公爵様? 
 普通は見ないよね。そんな上の人たち、下っ端の文官が見る機会はない。普通は。
 
 だって、回されてくる書類を確認して仕分けして、必要な書類の下書きして、確認してっていう地味~~~~~な作業だもの。後は計算得意って言ったら、帳簿の方も少しやってもらうかもって言っていたから、多分食事の時くらいしか部屋から出る事もないだろうしさ。しかも上位の人たちと下っ端の食堂は別だって言っていたもの。

 だけどニコニコ笑っていた面接官たちと、手続きをしに行った時の上司のニコニコ顔がどうしても気になるんだよね。
 でもさ、せっかく合格者3名という難関を乗り切ったんだもの。なりたかった文官というものを楽しみたいじゃない。まぁ。楽しむようなものではないかもしれないけれど。
 ううん! 弱気になったら負けだよ! 僕はコツコツした作業好きだし。計算も好きだし。資料まとめるのも苦じゃないし。幸せ集めも続行したい。
 それは間違っても公爵家の養子や第四王子との結婚じゃない。そうだ、そうだよね!

「サミー……思考が全てダダ洩れているよ。今日はもう休みなさい」

 兄様が可哀想な子を見るような顔をしてそう言った。

「………あ、ありがとうございます。すみません。声が出ていましたか。でも大丈夫です。そんな事はちゃんと考えたらありえないって分かります。だって僕は子爵家の三男だもの。公爵家の養子とか第四王子との結婚とかないです。大体その話が万が一本当だとしても、お祖父様も、父様も、ちゃんとお断りが出来ているわけですよね? カッコいいお祖父様や父様が断れるんだもの。こんな普通の僕なんて、いくら大お祖母様に似ているとか言っても所詮男ですし。実物見たらガッカリされる事間違いないです! お断りするどころか、お断りされますよ!」

 勢いをついてそう言うと父様はこめかみの辺りを押さえながら静かに声を出した。

「……サミュエル、とりあえず、いますぐどうこうというのはないと思うし、いざとなればお祖父様も力になってくれると思うから、お風呂にでもつかって、とにかくゆっくり休みなさい」
「分かりました。ありがとうございます」

 食後に行われるはずだった誘拐事件の事情聴取は無くなった。ヤッター!

 うんうん。多分、きっとどうにかなるよ。そんな気がしてきたぞ。
 あー、やっぱりうちの領の紅茶は美味しいなー。

 明日は領を少し見て回ろう。
 お祖父様にもご挨拶をしてこなくちゃ。
 後は……あ、自分の部屋の整理もしなきゃ。もうここを出るんだから。ちゃんと整理をして、それから……やること結構あるなー。

「ではお言葉に甘えて、失礼します。皆様おやすみなさいませ」
「おやすみ、サミュエル。とにかく、休みなさい」

 念押しするようなその言葉を背中に、僕は自分の部屋に戻った。部屋の中は昨日もここにいたように整えられていて少しくすぐったい。

 半分以上は魔法陣だったけれど、半分近くは馬車に乗ったし、わけの分からない話を聞いたから疲れたよ。とりあえず言われた通り今日は休もう。
 寝て起きたらめんどくさい事がなかったことになっていないかななんてぼんやりと思いつつ、浴槽でなくシャワーで済ませてサッパリすると、髪の毛だけ乾かしてベッドにもぐりこむ。

「……そう言えば人に卒業の前に帰れとか言っておいて自分は何をしているんだよ。フィルってば」

 こちらに来ると決めてから、フィルとはほとんど合わなくなった。もう一週間くらい会っていないような気がする。
なんだかんだと言いながら学園ではほぼ毎日顔は会わせていたから、こんな風に会えないのは本当に珍しい。

「結局これからどうするのかもちゃんと言わないしさ……」

呟くようにそう言って、僕は落ちてくる瞼に逆らえず、あっという間に眠りに引き込まれていった。




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