悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

tamura-k

文字の大きさ
24 / 109

22 きっともっと好きになる

しおりを挟む
 今まではそんな事を考えてもいなかったのに、どうしてそんな風に思ったのか僕にも分からなかった。
 でも何かを言えば言うほど、自分の頭の中がグチャグチャになって、何だか兄様との子供なんて欲しくないって言っているみたいに思えて、今度はそんな風に思わせたら嫌だという気持ちが溢れ出してきて、涙が止まらなくなってしまう。

「エディ、大丈夫だよ。泣かないで。今は子供の事を考えるのは止めよう」
「でも僕は」
「大丈夫。私がエディを愛している事も、エディが私の事を愛してくれている事も変わらないよ。分からない事を怖いと思うのは当たり前の事だ。ルシルとエディは違う。私はちゃんと分かっている。子供の事は不用意に聞くべき事ではなかったね。いずれ、また一緒に相談をしよう。だからエディ、泣き止んで?」

 トントンと背中を叩く手にあやされるようにしながら、目元や額、そして頬に口づけが落とされて、僕はまだ涙の残る目で兄様の顔を見つめて、ゆっくりと口を開いた。

「……アルは、もしも子供が授かる事が出来るなら、ほしいですか?」

 途端に兄様の顔が困ったように歪んだ。

「エディ、もうその話は」
「教えてほしい。もしも、子供が出来るなら欲しい気持ちはある?」
「…………そうだねぇ、エディとの子供だったら可愛いだろうなとは思うよ。エディに似てくれたら幸せだなとも考えたりはしたかな」

 その答えに僕はびっくりしてしまった。

「ええ? 僕に似る? アルに似た方がカッコいいですよ」

 うん。絶対に兄様に似た方がカッコいいよ。僕が知らない小さな兄様だって、きっとカッコよくて可愛いかったと思うんだ。

「ふふふ、そうかな。でも絶対に小さいエディと大きいエディが一緒に話していたら、見ているだけで皆が幸せになれそうだな」
「小さい僕と大きな僕……」

 いつの間にか涙は止まっていた。

「エディ。子供の事は正直に言えば、なるようになればいいと思っていたんだ。私にとっての一番はエディだから。それは絶対に変わる事がないから。今日聞いたのも子供が欲しくて聞いたんじゃないんだ。何となくエディが色々と考えているんじゃないかなって思ったから、一度どう思っているのか聞いてみようって。それだけなんだよ。エディは自分が育てた実を使ってみたいのかなって。思ってもいないような事件が起きて、色々と悩んでいたみたいだし、実の事や、子供を作るっていう事でエディの負担になったりしていなければいいなって思っただけなんだ。だけどかえって不安にさせてしまったね」

 そう言いながら兄様は僕の髪や、泣いてしまった目元に再び優しい口づけをいくつも落とした。

「でもね、エディ。これだけは言わせて? もしも私たちの子供が出来たら、エディはきっと誰よりも可愛がると思うよ。ウィルとハリーの時も二人をとても可愛がっていて、私は少しだけ嫉妬していたような気がする」
「ええ⁉」

 信じられないような言葉に顔を上げると、兄様は笑いながら「驚いた?」って言った。

「驚きました」
「あの頃は双子の所に通い詰めていただろう? それを見ると何だか胸の辺りがチクチクするような気がしたんだ。後からもしかしてって思って、自分の狭量さに少し落ち込んだ事があったんだよ。まぁ、他にも色々ね……」
「…………そんな事」
「だからね、子供が出来てエディが子供ばかりを可愛がっていたら、また嫉妬してしまうかもしれないな。子供とエディを取り合ったらどうしよう」

 僕の顔を覗き込んでそう言う兄様の空色の瞳は、言葉とは裏腹にとても優しくて、悪戯っぽくも見えて、僕は思わず笑い出してしまった。

「ふふふ、それは困りますね」
「ああ、困るな」
「でもきっと、アルは僕にしてくれたみたいに絵本を読んでくれたり、魔法や剣の稽古を見せてくれたり、色々なお菓子も教えてくれると思います。そうしたら僕は子供と並んで一緒にそれを見たりして……きっと、もっともっとアルの事が好きになっちゃいますね」

 そう言って、僕は一度言葉を切って、再び口を開いた。

「ありがとうございます、アル。子供の事は、今はあんまり考えられないけれど、子供は授かりものだとお祖父様が以前仰っていらしたように、そんな風に考えられたらいいなって思います。あと、自分でも考えていたわけじゃない事まで口に出てしまってすみません。でも怖いと思う中にはそれも入っていたのかなって分かって良かったです」
「うん。私もエディが思う怖い気持ちが分かって良かった」
「はい……えっと、アル」
「うん?」
「いつか、さっき話をしていたような日が来るのもいいなって思いました」
「ああ、そうだね。私もそんな気持ちだ。とにかくエディの事が好きだと気付いてから十一年経ってようやく手に入れたんだから、もう少し、私だけのエディでいてほしいな」

 ニッコリと笑った顔で、兄様はチュッと音を立てて、唇に口づけてきた。

「ということで、今夜はとびきり仲良くしてもいいかな」
「……アルの、好きなように」
「それはものすごい誘い文句だよ、エディ。ではお言葉に甘えて」
「さそ……っ……ま、あ、んん!」

 腰かけていたベッドの上に押し倒されて、唇を塞がれて……押し寄せてきた甘い波に、僕はあっという間に何が何だか分からなくなってしまった。

 翌日はとても久しぶりにポーションを飲んだ。

-------------
しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

婚約者の心の声が聞こえるようになったが手遅れだった

神々廻
恋愛
《めんどー、何その嫌そうな顔。うっざ》 「殿下、ご機嫌麗しゅうございます」 婚約者の声が聞こえるようになったら.........婚約者に罵倒されてた.....怖い。 全3話完結

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...