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元婚約者からの電話
今日も一日の業務を無事に終えて、魔法省のビルから出て行く。
人の波にのまれるように通りを歩き、迎えの車に乗り込む。
魔石に込められた強力な魔力を原動にした四輪の乗り物で、騒音もなく環境にも優しい仕様だ。
後部座席に腰掛けながら、外の景色をぼんやりと眺めていても、頭の中はすぐに元婚約者のことでいっぱいになる。
彼は私の遠い親戚の一人で、ずっと家族ぐるみで付き合ってきた。
生まれてからお互い一緒にいるのが当たり前で、燃え上がるような恋心はなくても、確かな信頼関係を彼と築いてきたと思っていた。
十六歳のとき彼から告白されて、求婚されたときは人生の中で一番幸せだった。
でも、彼との絆は、種族の習性によって粉々になった。
どんな状況にあろうとも、番との絆を祝福するべきだと種族では言われている。
法律でも羽翼種の番を原因にした離婚や婚約破棄の損害賠償や慰謝料の請求は認められていない。
そのとき、携帯電話に突然着信があった。彼だ。緊張しながら電話のボタンを操作すると、機器に仕掛けられた魔法によって映像が二次元的に四角く映し出される。
茶髪で褐色の瞳の若い男。元婚約者の顔だ。
「あのさ、式場の件だけど、そのまま僕とミラで結婚式を挙げようと思うんだ。彼女のお腹が目立つ前に済ませられるし、キャンセル料だってもったいなかったし、ちょうど良かったよね? ん? あれ? 言ってなかった? 彼女、妊娠しているんだ。あっ、もちろん結婚式にはルーシーも来てくれるよね?」
何が彼にとって「もちろん」なのか、私には全然理解できなかった。
「せっかくの祝いの席に元婚約者がいたら、彼女が嫌がるんじゃないのかしら?」
平静を努めて断りながら、胸の中はどす黒い感情で渦巻いていた。
婚約していたとき、両親の意向で、彼とは清い関係のままでいた。
でも、番とは出会って一週間で子どもが授かるくらい深い仲になるのね。
「そんなことないよ。ルーシーとは結婚できなくなったけど僕にとってルーシーが大事な人には変わりはないし、君にもミラを紹介したいんだ。それにルーシーがいないと結婚式に出ないっていう友だちがいるんだよ。ねっ、頼むよ」
こんな風に甘えてくる一つ年下のシリウスをずっと可愛く思っていた。
でも、今は私の予想とは全く違う反応が返ってきて、違和感のほうが強かった。
私なら破談になったばかりの相手を結婚式には呼ばない。だって、きっと嫌な思いをさせるから。
私の気持ちより、友人が大事なの?
「で、でも……」
「えー、君の羽翼種って、番との絆は絶対に祝福してくれるものじゃなかったの?」
「それは、そうだけど……」
「じゃあ、もちろん出てくれるよね?」
「……う、うーん、ちょっと考えておくわね」
彼が当然のような感じで言ってくるから、拒否する私が間違っているのかと少し不安になり、はっきりと拒否できなかった。
「ルーシー。僕もこんなことを言いたくないけど、僕の結婚式に出席しなくて困るのは、君のほうだと思うよ。だって、僕は後継者に選ばれた人間だから」
彼から遠回しに脅されて、血の気が引いた。
彼は以前から自慢していた。
優秀だから、お互いの親族が経営する企業の後継者に選ばれたって。
「ごめん、切るわね」
シリウスの態度が怖くなって、一方的に電話を切ってしまった。
彼の顔が消えた途端、思わずホッとしてしまった。
「お嬢様、もしかして今の電話はシリウス様ですか?」
私の専属メイドが運転しながら先ほどの会話を聞いていたようだ。
我が家には使用人が昔からたくさん仕えている。
私の家は血筋だけは古く、代々続く立派な屋敷がある。
暮らしぶりも比較的裕福なほうだと感じている。
「ええ、そうよ。結婚式場をキャンセルするってメッセージを送ったら、番が妊娠したから急いで式を挙げたいみたいで、そのまま使いたいって言われたの」
「えっ、そんなことできるんですか? お嬢様との結婚のために式場を予約したので、シリウス様と別の女性が契約を続行できるわけないと思うんですが」
「それもそうよね。じゃあシリウスは勘違いしているのね。私からも式場に連絡しておくわ」
式場と契約したときに、私とシリウスの連名で記入していた。
シリウスは来年卒業とはいえ、まだ大学生だから、契約に疎いのは仕方がないのかもしれない。
「式場の予約は取れるかもしれないけど、結局キャンセル料はかかっちゃうわね。でも、お父様には契約関係はうやむやにしてはいけないと口酸っぱく言われているから、きちんと処理しないとね」
金銭が絡むなら、なおさら。
社長であるお父様の考えには、私も同感だ。
お父様は苦労して今の地位に就いたって聞いているし。
「そのほうが良いと思います。ですが、奥様にお任せしてもよろしいのではないでしょうか。その件を思い出すのは、今はお辛いでしょうし」
「そうね……」
メイドの気遣いが純粋に嬉しい。
それでも婚約解消後も、まだ彼と関係が続くのかと思うと気が晴れなかった。
人の波にのまれるように通りを歩き、迎えの車に乗り込む。
魔石に込められた強力な魔力を原動にした四輪の乗り物で、騒音もなく環境にも優しい仕様だ。
後部座席に腰掛けながら、外の景色をぼんやりと眺めていても、頭の中はすぐに元婚約者のことでいっぱいになる。
彼は私の遠い親戚の一人で、ずっと家族ぐるみで付き合ってきた。
生まれてからお互い一緒にいるのが当たり前で、燃え上がるような恋心はなくても、確かな信頼関係を彼と築いてきたと思っていた。
十六歳のとき彼から告白されて、求婚されたときは人生の中で一番幸せだった。
でも、彼との絆は、種族の習性によって粉々になった。
どんな状況にあろうとも、番との絆を祝福するべきだと種族では言われている。
法律でも羽翼種の番を原因にした離婚や婚約破棄の損害賠償や慰謝料の請求は認められていない。
そのとき、携帯電話に突然着信があった。彼だ。緊張しながら電話のボタンを操作すると、機器に仕掛けられた魔法によって映像が二次元的に四角く映し出される。
茶髪で褐色の瞳の若い男。元婚約者の顔だ。
「あのさ、式場の件だけど、そのまま僕とミラで結婚式を挙げようと思うんだ。彼女のお腹が目立つ前に済ませられるし、キャンセル料だってもったいなかったし、ちょうど良かったよね? ん? あれ? 言ってなかった? 彼女、妊娠しているんだ。あっ、もちろん結婚式にはルーシーも来てくれるよね?」
何が彼にとって「もちろん」なのか、私には全然理解できなかった。
「せっかくの祝いの席に元婚約者がいたら、彼女が嫌がるんじゃないのかしら?」
平静を努めて断りながら、胸の中はどす黒い感情で渦巻いていた。
婚約していたとき、両親の意向で、彼とは清い関係のままでいた。
でも、番とは出会って一週間で子どもが授かるくらい深い仲になるのね。
「そんなことないよ。ルーシーとは結婚できなくなったけど僕にとってルーシーが大事な人には変わりはないし、君にもミラを紹介したいんだ。それにルーシーがいないと結婚式に出ないっていう友だちがいるんだよ。ねっ、頼むよ」
こんな風に甘えてくる一つ年下のシリウスをずっと可愛く思っていた。
でも、今は私の予想とは全く違う反応が返ってきて、違和感のほうが強かった。
私なら破談になったばかりの相手を結婚式には呼ばない。だって、きっと嫌な思いをさせるから。
私の気持ちより、友人が大事なの?
「で、でも……」
「えー、君の羽翼種って、番との絆は絶対に祝福してくれるものじゃなかったの?」
「それは、そうだけど……」
「じゃあ、もちろん出てくれるよね?」
「……う、うーん、ちょっと考えておくわね」
彼が当然のような感じで言ってくるから、拒否する私が間違っているのかと少し不安になり、はっきりと拒否できなかった。
「ルーシー。僕もこんなことを言いたくないけど、僕の結婚式に出席しなくて困るのは、君のほうだと思うよ。だって、僕は後継者に選ばれた人間だから」
彼から遠回しに脅されて、血の気が引いた。
彼は以前から自慢していた。
優秀だから、お互いの親族が経営する企業の後継者に選ばれたって。
「ごめん、切るわね」
シリウスの態度が怖くなって、一方的に電話を切ってしまった。
彼の顔が消えた途端、思わずホッとしてしまった。
「お嬢様、もしかして今の電話はシリウス様ですか?」
私の専属メイドが運転しながら先ほどの会話を聞いていたようだ。
我が家には使用人が昔からたくさん仕えている。
私の家は血筋だけは古く、代々続く立派な屋敷がある。
暮らしぶりも比較的裕福なほうだと感じている。
「ええ、そうよ。結婚式場をキャンセルするってメッセージを送ったら、番が妊娠したから急いで式を挙げたいみたいで、そのまま使いたいって言われたの」
「えっ、そんなことできるんですか? お嬢様との結婚のために式場を予約したので、シリウス様と別の女性が契約を続行できるわけないと思うんですが」
「それもそうよね。じゃあシリウスは勘違いしているのね。私からも式場に連絡しておくわ」
式場と契約したときに、私とシリウスの連名で記入していた。
シリウスは来年卒業とはいえ、まだ大学生だから、契約に疎いのは仕方がないのかもしれない。
「式場の予約は取れるかもしれないけど、結局キャンセル料はかかっちゃうわね。でも、お父様には契約関係はうやむやにしてはいけないと口酸っぱく言われているから、きちんと処理しないとね」
金銭が絡むなら、なおさら。
社長であるお父様の考えには、私も同感だ。
お父様は苦労して今の地位に就いたって聞いているし。
「そのほうが良いと思います。ですが、奥様にお任せしてもよろしいのではないでしょうか。その件を思い出すのは、今はお辛いでしょうし」
「そうね……」
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