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二章
接敵
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走り出してすぐに俺達は走り方を変えた。俺が軽くしすぎたせいで、普通に走るとふわふわして走りにくい。探り探り月面を飛ぶ感じで走ってみたらちょうどよかった。そのまま走っていると、10分くらいで先に出発した衛士隊に追い付いた。重さ1割恐るべし。
確かオーナーはベルセンから4日の距離に敵がいるだろうと言っていたが、この分だと明日の朝までに発見できるかもしれない。
俺達は衛士隊を追い越して先を急ぐ。
「おいボウズ、何で衛士隊を強化しなかった?」
「衛士隊に強化魔法をかけたあと、あれこれ指示されたくなかったからな」
「あとで面倒があっても知らねえぞ」
「平気平気。そうなったらクシナダ連れて逃げるから」
走りながらそんな会話を続ける。風の抵抗が凄いことになりそうなもんだが、魔力の鎧で何ともない。自分でやっといてアレだが、この魔法は反則だな。
等間隔に配置された物見台をチェックポイント感覚で通りすぎる。詰めている衛士達が俺達に気づいて騒ぐ様子がちらっと見えた。ここも無事だな。よし、次だ。
距離感がざっくりだが、大体5キロおきに物見台が設置されているみたいだ。
休憩を挟みながら物見台を通過し続けること80ヵ所。国境守りすぎだろ、何てぼやいていると日が傾き始めた。出発してから2刻半ってとこか。
「誰かさんのインチキ魔法のお陰でかなり進んだな。次の物見台が見えたら夜営するぞ」
リーダードミニクが失礼なことを言う。まあ、判断には従うけど。他の3人も特に反論は無いようだ。
速度を維持したまま進むと物見台が見えてきた。81ヵ所目だ。
俺達は走るのをやめて歩き出す。夜営地を探すためだ。
「誰かさんが衛士隊を無視したからな。近寄らん方がいいだろ」
根に持つね、キミも。無言で睨み付けてやる。ドミニクが笑いながら目をそらした。
「まあまあ、僕らは夜営なんかいつものことだから。スミス君、気にしないでよ」
爽やかに声をかけてきたのはジョエル。二十歳くらいの好青年で、赤い鱗のリザードマンだ。
「ああ。それに衛士隊に借りを作るのも癪だしな」
こっちはラース。老け顔だがこいつも二十歳過ぎくらい。人族で黄色いバンダナを頭に巻いている。
「テオロスの連中もそろそろ夜営の準備を始める頃じゃないかな。日も暮れてきたしね」
彼女はヴァレリア、俺達の班の紅一点だ。化粧がちょっと濃い目の人族だ。青いマントが風になびいている。
3人とも優しいやつらだな。どっかの大型犬とは大違いだ。
「おいボウズ、魔力探知で周囲を探ってくれ。獣や盗賊はいねえか?」
「1つ貸しだぞ」
まあ、勝手に調べるつもりだったけど。
「魔力探知開始、範囲はできるだけ広く」
俺を中心に魔力を広げるイメージで探知を始める。薄く広く、探知範囲が広がるのを感じる。
少し離れた場所に青い魔力が固まってる。これは物見台の衛士達だな。約20ってとこか。
「この近くには青い魔力ばっかりだ」
情報を口に出して共有してから、さらに探知を広げていく。探知の端っこに魔力が集まっている場所を見つけた。
「なんだこれ、赤?」
俺の呟きにドミニクが反応する。
「赤は敵意だ。ボウズ、どの辺りだ?」
なるほど、敵意は赤なのか。じゃあ、青は味方?戻ったらスザンヌにでも教えてもらうか。
「次の物見台から少し先かな。もう少し広げてみる」
ドミニクに答えながら探知範囲をさらに広げる。
おおう、いるわいるわ。赤い魔力が大量に。
「数えるのが面倒なくらい集まってる。たぶんテオロスの連中だな」
これが敵軍として、正確に数を数える方法は無いかな。こんだけいたんじゃ目視でも数え間違えそうだし。
魔力探知にオプションでフィルターかけれないか?ドラッグした範囲の数をカウント、みたいな。どうかな、できねえかな。試しにやってみるか。
「魔力探知を拡張、指定範囲内の魔力数をカウント」
赤い魔力の固まりの上に数字が浮かび上がった。やってみるもんだな……って。
「25,216」
「なに!?」
俺の言葉に全員が驚く。これって多いのか?
念話で聞いてみるか。確か念話機に魔力を流せばいいんだったな。右手の人差し指で右耳の念話機に軽く触れてみる。
「こちらユート。聞こえますかマンハイム」
加減がわからんから、とりあえずスマホで通話する感じで話してみる。
『ユート君?スザンヌよ、ちゃんと聞こえてるわ』
おー、聞こえる聞こえる。ノイズもないしスマホより高音質かも。
「スーちゃんちょっとオーナーと代わって」
『スーちゃん言うな。代わったげるけど、あとでクーちゃんとも話しなさいよ?』
「ああ、オーナーに報告したらそうするよ」
『じゃあ、オーナーに代わるわね』
『ユートちゃん、アナタ何したの?ついさっきデニスからも連絡があったわよ、クロノリヤに着いたって』
向こうも無事ついたか。よかった。
「ドミニク、デニスさん達はクロノリヤに着いたってさ」
「お、おう」
ドミニクはそれどころじゃないって感じだ。2万5千ってそんなに多いのか?
「オーナー、クロノリヤは無事?」
『ええ、まだテオロス軍も来てないみたいよ。ま、クロノリヤに喧嘩を売ってもヴァンちゃんがいるからね、アタシがテオロス軍の指揮官なら近寄らないわね』
「無事なんですね、よかった」
『デニスは少し休んだらそっちに合流するって言ってたわ。アナタ達、今どの辺りにいるの?』
どの辺りって、地名なんか分かんないぞ。
「ドミニク、ここの地名って分かる?」
「……ここはケブニル街道だ。次の物見台はケブニル第3詰所だ」
「えーと、ケブニル街道の、第3詰所の手前かな」
ドミニクから教えてもらった地名をオーナーに伝える。少しの沈黙のあと、呆れたような声が聞こえた。
『……アナタ達、どこまで行ってるのよ。あと少しでテオロスじゃない。戻ったら何したか教えてほしいわね。で、報告って何?』
「魔力探知で大量の赤い魔力を見つけました。目視してませんがたぶんテオロス軍です。普通に歩いたら半刻くらいの距離ですね」
でもたぶん10分もかかんないだろうな。俺達は。
『よくやったわ。じゃあ、見つからないように偵察をお願い。くれぐれも見つかるんじゃないわよ?』
「了解です。で、探知した魔力の数なんですけど大体2万5千ってところです」
『なんですって!?』
オーナーも驚いてる。やっぱ多いのか?
『それ、ほんとに?嘘じゃないわよね?』
「ええ、確かに。これから見に行きますけど。この数って多いんですか?」
ラフィーアの軍隊規模がわからんから、多いか少ないかわからん。ハ⚪スタでも8割近く……いや、多いか?
あ、多いわコレ。大軍だ。
『渡人だからピンと来ないかもしれないけど、ベルセンの人口が約30,000。衛士隊が約500。マンハイムのメンバーが100ちょっとね』
ごめんドミニク、多かったわ。ベルセン単独だと勝てねえぞ?
「オーナー、首都からベルセンに向かってる援軍はどのくらい?」
『……約1万よ。パルジャンス王国の全軍は5万だけど、動員にはまだ時間がかかるみたい。ちなみに言っとくと人口は200万ってとこね』
そうだよなあ。開戦したの今朝だもんな。1万でも無理して動かしたんだろうな。
軍隊ってのは人の集まりだ。でも人だけ動いても働けない。武器と、目的地に着くまでの食糧か最低限必要だ。そりゃ、常備はしてるだろうけど倉庫の中にだ。
倉庫から出して、兵士に装備させて、物資を移動手段に積み込む。後はベルセンに急行して、ベルセンの備蓄を軍で買い上げるか徴収するしかないよな。で、その間も倉庫から補給物資をピストン輸送……うん、大変だ。
俺も暇潰しにウォーゲームとかやるけど、軍が大きくなればなるほど、維持と動員のバランスが難しいんだよな。物資の確保には当然金がかかるし、兵士の維持にも金がかかる。
かといって縮小したらリスクが増える。戦時に徴兵したって間に合わないんだよな。ヘタ打つと物資の不足した軍隊か、兵士の不足した軍隊になるし……いやいや、今考えるのはそこじゃないだろ。
「オーナー、テオロス軍って規模わかります?全軍の」
『それは把握できてないわ。ただ、総人口は15万程度のはずよ』
とにかく今、テオロス軍は2万5千の軍勢で攻めてきてるって訳だ。
……人口15万の国で……。
「何その戦闘民族?」
俺の呟きはオーナーにも聞こえていたらしい。
『テオロスは確かに軍事国家だけど』
「いや、そうじゃなくて。6人に1人が軍人って、財政破綻しませんか?」
『……あ』
テオロスの産業が莫大な利益を生むなら別だけど、普通の国なら破綻するだろ。6人に1人は生産しないってことだぞ?しかもその1人は常に浪費する。消費じゃなくて浪費だ。
何かおかしいな。うーん、もっと詳しい情報がほしいな……。
魔力探知で脳裏に浮かんだ赤い魔力の群れに集中してみると、スマホで地図を拡大するように赤い魔力が拡大されていく。
ーーーーーーーーーー
テオロス軍
兵士 10,102名
成人男性 15,114名
備考 精神操作
ーーーーーーーーーー
「テオロス軍の構成が、兵士と成人男性?」
『……ユートちゃん?何見てるの?』
「いや、魔力探知で集中したら情報が出たんですけど、2万5千の中で兵士は1万だけみたいです」
拡大されたお陰で1つ1つの魔力がより詳しく見える。赤い魔力だと思っていたけど、よく見ると青い魔力だ。青い魔力を赤い魔力が覆ってる。まるで、俺が強化した皆の魔力みたいに。
備考の精神操作って、もしかしてこれのことか?
「オーナー、他人を洗脳する魔法とかってあります?」
『あるにはあるわ。消費する魔力が多すぎるけど、対象を完全に操る魔法が』
「……2万5千全員にその魔法をかけることができるヤツっています?」
『それは……』
オーナーが一瞬ためらう。
『長い年月をかければエルフならできるかもしれないわ。普通の人族やホビットは無理ね。もしその規模に一気に魔法をかけるとすれば、女神の御子か、渡人ぐらいしかそんなことできないはずよ』
なるほど。俺も渡人だ。俺ならなんとかできるんじゃないか?
青い魔力を覆う赤い魔力を吹き飛ばせばいいんだよな。見た感じ赤い魔力は布みたいな感じで認識できる。吹けば飛びそうな感じがする。
じゃあ、風だ。魔力を飛ばす、魔力の風。
「魔力探知でテオロス軍を捕捉っ!」
『何するのユートちゃん!?無茶はやめなさい!』
「渡人ならできるんでしょ!」
「ボウズ!?」
意識を集中して魔力を高める。2万5千全員が対象だ。一気にあの赤い魔力を吹き飛ばす!
「解魔疾風!ぶっ飛ばせ!!」
俺は叫びながら、魔力を解き放った。
確かオーナーはベルセンから4日の距離に敵がいるだろうと言っていたが、この分だと明日の朝までに発見できるかもしれない。
俺達は衛士隊を追い越して先を急ぐ。
「おいボウズ、何で衛士隊を強化しなかった?」
「衛士隊に強化魔法をかけたあと、あれこれ指示されたくなかったからな」
「あとで面倒があっても知らねえぞ」
「平気平気。そうなったらクシナダ連れて逃げるから」
走りながらそんな会話を続ける。風の抵抗が凄いことになりそうなもんだが、魔力の鎧で何ともない。自分でやっといてアレだが、この魔法は反則だな。
等間隔に配置された物見台をチェックポイント感覚で通りすぎる。詰めている衛士達が俺達に気づいて騒ぐ様子がちらっと見えた。ここも無事だな。よし、次だ。
距離感がざっくりだが、大体5キロおきに物見台が設置されているみたいだ。
休憩を挟みながら物見台を通過し続けること80ヵ所。国境守りすぎだろ、何てぼやいていると日が傾き始めた。出発してから2刻半ってとこか。
「誰かさんのインチキ魔法のお陰でかなり進んだな。次の物見台が見えたら夜営するぞ」
リーダードミニクが失礼なことを言う。まあ、判断には従うけど。他の3人も特に反論は無いようだ。
速度を維持したまま進むと物見台が見えてきた。81ヵ所目だ。
俺達は走るのをやめて歩き出す。夜営地を探すためだ。
「誰かさんが衛士隊を無視したからな。近寄らん方がいいだろ」
根に持つね、キミも。無言で睨み付けてやる。ドミニクが笑いながら目をそらした。
「まあまあ、僕らは夜営なんかいつものことだから。スミス君、気にしないでよ」
爽やかに声をかけてきたのはジョエル。二十歳くらいの好青年で、赤い鱗のリザードマンだ。
「ああ。それに衛士隊に借りを作るのも癪だしな」
こっちはラース。老け顔だがこいつも二十歳過ぎくらい。人族で黄色いバンダナを頭に巻いている。
「テオロスの連中もそろそろ夜営の準備を始める頃じゃないかな。日も暮れてきたしね」
彼女はヴァレリア、俺達の班の紅一点だ。化粧がちょっと濃い目の人族だ。青いマントが風になびいている。
3人とも優しいやつらだな。どっかの大型犬とは大違いだ。
「おいボウズ、魔力探知で周囲を探ってくれ。獣や盗賊はいねえか?」
「1つ貸しだぞ」
まあ、勝手に調べるつもりだったけど。
「魔力探知開始、範囲はできるだけ広く」
俺を中心に魔力を広げるイメージで探知を始める。薄く広く、探知範囲が広がるのを感じる。
少し離れた場所に青い魔力が固まってる。これは物見台の衛士達だな。約20ってとこか。
「この近くには青い魔力ばっかりだ」
情報を口に出して共有してから、さらに探知を広げていく。探知の端っこに魔力が集まっている場所を見つけた。
「なんだこれ、赤?」
俺の呟きにドミニクが反応する。
「赤は敵意だ。ボウズ、どの辺りだ?」
なるほど、敵意は赤なのか。じゃあ、青は味方?戻ったらスザンヌにでも教えてもらうか。
「次の物見台から少し先かな。もう少し広げてみる」
ドミニクに答えながら探知範囲をさらに広げる。
おおう、いるわいるわ。赤い魔力が大量に。
「数えるのが面倒なくらい集まってる。たぶんテオロスの連中だな」
これが敵軍として、正確に数を数える方法は無いかな。こんだけいたんじゃ目視でも数え間違えそうだし。
魔力探知にオプションでフィルターかけれないか?ドラッグした範囲の数をカウント、みたいな。どうかな、できねえかな。試しにやってみるか。
「魔力探知を拡張、指定範囲内の魔力数をカウント」
赤い魔力の固まりの上に数字が浮かび上がった。やってみるもんだな……って。
「25,216」
「なに!?」
俺の言葉に全員が驚く。これって多いのか?
念話で聞いてみるか。確か念話機に魔力を流せばいいんだったな。右手の人差し指で右耳の念話機に軽く触れてみる。
「こちらユート。聞こえますかマンハイム」
加減がわからんから、とりあえずスマホで通話する感じで話してみる。
『ユート君?スザンヌよ、ちゃんと聞こえてるわ』
おー、聞こえる聞こえる。ノイズもないしスマホより高音質かも。
「スーちゃんちょっとオーナーと代わって」
『スーちゃん言うな。代わったげるけど、あとでクーちゃんとも話しなさいよ?』
「ああ、オーナーに報告したらそうするよ」
『じゃあ、オーナーに代わるわね』
『ユートちゃん、アナタ何したの?ついさっきデニスからも連絡があったわよ、クロノリヤに着いたって』
向こうも無事ついたか。よかった。
「ドミニク、デニスさん達はクロノリヤに着いたってさ」
「お、おう」
ドミニクはそれどころじゃないって感じだ。2万5千ってそんなに多いのか?
「オーナー、クロノリヤは無事?」
『ええ、まだテオロス軍も来てないみたいよ。ま、クロノリヤに喧嘩を売ってもヴァンちゃんがいるからね、アタシがテオロス軍の指揮官なら近寄らないわね』
「無事なんですね、よかった」
『デニスは少し休んだらそっちに合流するって言ってたわ。アナタ達、今どの辺りにいるの?』
どの辺りって、地名なんか分かんないぞ。
「ドミニク、ここの地名って分かる?」
「……ここはケブニル街道だ。次の物見台はケブニル第3詰所だ」
「えーと、ケブニル街道の、第3詰所の手前かな」
ドミニクから教えてもらった地名をオーナーに伝える。少しの沈黙のあと、呆れたような声が聞こえた。
『……アナタ達、どこまで行ってるのよ。あと少しでテオロスじゃない。戻ったら何したか教えてほしいわね。で、報告って何?』
「魔力探知で大量の赤い魔力を見つけました。目視してませんがたぶんテオロス軍です。普通に歩いたら半刻くらいの距離ですね」
でもたぶん10分もかかんないだろうな。俺達は。
『よくやったわ。じゃあ、見つからないように偵察をお願い。くれぐれも見つかるんじゃないわよ?』
「了解です。で、探知した魔力の数なんですけど大体2万5千ってところです」
『なんですって!?』
オーナーも驚いてる。やっぱ多いのか?
『それ、ほんとに?嘘じゃないわよね?』
「ええ、確かに。これから見に行きますけど。この数って多いんですか?」
ラフィーアの軍隊規模がわからんから、多いか少ないかわからん。ハ⚪スタでも8割近く……いや、多いか?
あ、多いわコレ。大軍だ。
『渡人だからピンと来ないかもしれないけど、ベルセンの人口が約30,000。衛士隊が約500。マンハイムのメンバーが100ちょっとね』
ごめんドミニク、多かったわ。ベルセン単独だと勝てねえぞ?
「オーナー、首都からベルセンに向かってる援軍はどのくらい?」
『……約1万よ。パルジャンス王国の全軍は5万だけど、動員にはまだ時間がかかるみたい。ちなみに言っとくと人口は200万ってとこね』
そうだよなあ。開戦したの今朝だもんな。1万でも無理して動かしたんだろうな。
軍隊ってのは人の集まりだ。でも人だけ動いても働けない。武器と、目的地に着くまでの食糧か最低限必要だ。そりゃ、常備はしてるだろうけど倉庫の中にだ。
倉庫から出して、兵士に装備させて、物資を移動手段に積み込む。後はベルセンに急行して、ベルセンの備蓄を軍で買い上げるか徴収するしかないよな。で、その間も倉庫から補給物資をピストン輸送……うん、大変だ。
俺も暇潰しにウォーゲームとかやるけど、軍が大きくなればなるほど、維持と動員のバランスが難しいんだよな。物資の確保には当然金がかかるし、兵士の維持にも金がかかる。
かといって縮小したらリスクが増える。戦時に徴兵したって間に合わないんだよな。ヘタ打つと物資の不足した軍隊か、兵士の不足した軍隊になるし……いやいや、今考えるのはそこじゃないだろ。
「オーナー、テオロス軍って規模わかります?全軍の」
『それは把握できてないわ。ただ、総人口は15万程度のはずよ』
とにかく今、テオロス軍は2万5千の軍勢で攻めてきてるって訳だ。
……人口15万の国で……。
「何その戦闘民族?」
俺の呟きはオーナーにも聞こえていたらしい。
『テオロスは確かに軍事国家だけど』
「いや、そうじゃなくて。6人に1人が軍人って、財政破綻しませんか?」
『……あ』
テオロスの産業が莫大な利益を生むなら別だけど、普通の国なら破綻するだろ。6人に1人は生産しないってことだぞ?しかもその1人は常に浪費する。消費じゃなくて浪費だ。
何かおかしいな。うーん、もっと詳しい情報がほしいな……。
魔力探知で脳裏に浮かんだ赤い魔力の群れに集中してみると、スマホで地図を拡大するように赤い魔力が拡大されていく。
ーーーーーーーーーー
テオロス軍
兵士 10,102名
成人男性 15,114名
備考 精神操作
ーーーーーーーーーー
「テオロス軍の構成が、兵士と成人男性?」
『……ユートちゃん?何見てるの?』
「いや、魔力探知で集中したら情報が出たんですけど、2万5千の中で兵士は1万だけみたいです」
拡大されたお陰で1つ1つの魔力がより詳しく見える。赤い魔力だと思っていたけど、よく見ると青い魔力だ。青い魔力を赤い魔力が覆ってる。まるで、俺が強化した皆の魔力みたいに。
備考の精神操作って、もしかしてこれのことか?
「オーナー、他人を洗脳する魔法とかってあります?」
『あるにはあるわ。消費する魔力が多すぎるけど、対象を完全に操る魔法が』
「……2万5千全員にその魔法をかけることができるヤツっています?」
『それは……』
オーナーが一瞬ためらう。
『長い年月をかければエルフならできるかもしれないわ。普通の人族やホビットは無理ね。もしその規模に一気に魔法をかけるとすれば、女神の御子か、渡人ぐらいしかそんなことできないはずよ』
なるほど。俺も渡人だ。俺ならなんとかできるんじゃないか?
青い魔力を覆う赤い魔力を吹き飛ばせばいいんだよな。見た感じ赤い魔力は布みたいな感じで認識できる。吹けば飛びそうな感じがする。
じゃあ、風だ。魔力を飛ばす、魔力の風。
「魔力探知でテオロス軍を捕捉っ!」
『何するのユートちゃん!?無茶はやめなさい!』
「渡人ならできるんでしょ!」
「ボウズ!?」
意識を集中して魔力を高める。2万5千全員が対象だ。一気にあの赤い魔力を吹き飛ばす!
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俺は叫びながら、魔力を解き放った。
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