カミサマの父子手帳~異世界子育て日記~

青空喫茶

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二章

束の間の再会

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 魔力探知の認識の中で俺の魔力が疾走する。目標のテオロス軍まであと少し。
 3……2……1……。
「直撃!」
 俺の放った魔法が赤い魔力を吹き飛ばしていくのが分かる。
「ドミニク、敵の魔力が青に変わった。行こう!」

 がいんっ!

「……何すんだ」
 いきなりドミニクに殴られた。なんかめっちゃ怒ってる。魔法のお陰で痛くないけど。
「まず勝手に動きすぎだ!それから、説明しろ。念話の内容はお前しか分からねえんだ」
 ドミニクに言われて気がつく。普通にしゃべってたから自覚がなかったが、今までオーナーと念話で話してたんだっけ。
 そりゃ怒るわな。
 俺はいつも提げている次元鞄に手を突っ込んで水筒を取り出した。ここまで走り詰めだったからお茶でも飲もう。
「ごめん、話すよ」
 周囲に赤い魔力が無いのは確認済み。俺は地べたに座って水筒を地面に置いた。
「全く、話に聞いた通り、渡人わたりとってのは勝手だな」
 悪態をつきながらドミニクも座る。俺が次元鞄から夜営用のマグカップを出し始めると、他の3人も車座に座った。食器類はクロノリヤで買い込んだお陰で大量に持っている。
 人数分の食器を出して黒茶を注ぐと、寒空に湯気が立ち上った。次元鞄はやっぱり便利だ。
 皆がマグカップを取ったのを確認し、俺は説明を始めた。

ーーーーーーーーーー

 ユート=スミスが魔術創造による魔法を発動する半刻ほど前、クロノリヤから7つの魔力が駆け出していた。別動隊のデニス達である。
 5つの魔力はユートの強化魔法が継続中で、青い魔力を白い魔力が覆っている。
 残りの2つは青い魔力だ。驚いたことに、2つの青い魔力は5つの魔力に離されずについていっている。
 青い魔力の片方が言う。
「まったく、とんでもねえ魔法だな。獣人アニマの俺が獣化しても追い付くのがやっとだぜ」
 特徴的な赤い髪から伸びる長い耳。両手は長く変化し、手は大きい。両脚はウサギのごとく発達し、駆けると言うより跳ぶようにデニス達を追いかける。
 もう片方の青い魔力も白く長い髪をなびかせながら疾走している。純白の体毛に包まれた力強い四肢。狼のように突き出た口からは長い牙が覗いている。
「魔力が多いとは思っていましたが、これほどまでとは。しかし、妙なものですね」
 デニス達の少し後方で走りながら会話を続ける2人。
「何がだよ?」
「私はお前を食おうとしたのですよ。それが今は共に走っている。それどころかお前は私を、私の子供達を受けいれている」
「そりゃ、アイツのおかげだろ。アイツがいたから俺はアンタに食われずに済んだ。アイツがいたからアンタはクロノリヤに来た。種族を捨ててまでな」
「もともと勝手に生きて勝手に死んでいく種族です。未練などありません。ただ、あの人の子のでお前達を食う気が無くなっただけのこと。ならばともに生きてみようと思ったまで」
「簡単に言うけどよ、正直驚いたぜ。アンタの魔力がキレイな青になってたんだからよ」
「それもまた、あの人の子のなのでしょう」
 剣狼を捨て人化を得て、獣人アニマとなった。ホビットの長はあっけなく里に迎え入れた。里の者も当初は戸惑っていたが、が原因だと分かると苦笑した。
 それはもう、仕方ないなと。
 そして、食われかけた本人はと言うと、正体を知った瞬間こそ驚いていたもののそれだけだった。その感情に恐怖は無かった。
 何故かと問うと、自分を食わなかったから、そして今は食う気なんか無いだろうからと笑っていた。
 食われかけた本人が笑って済ませてしまった以上、反対するものはいなかった。やはり、仕方ないなと。
「それに、アンタの子達は可愛いからな」
 ウサギの獣人アニマが笑う。自分よりも小さな命が可愛くて仕方がないのだ。ホビットである以上、いずれ体格が抜かされるとしても、あの小さな子達はとても可愛い。今ではクロノリヤの第2のアイドルだ。
「感謝を」
「それはアイツに」
 数多く伝説の残る渡人わたりとの中でも、あの人の子は群を抜いているだろう。それは単純な強さではなく、膨大な魔力でもない。
 あの人の子のすることであれば、仕方がないなと苦笑してしまう。そんな妙なところがあの人の子にはある。新たな伝説が作られるとするならば、あの人の子はきっとこう呼ばれることだろう。
 物知らずのお人好し、と。
 走りながら笑い合う2人はほぼ同時に巨大な魔法が炸裂するのを感じた。
「あいつまた何かやりやがったぞ」
「本当に仕方がないですね」
 言いながら、やはり苦笑してしまう。2人は前方のデニス達に声をかけ、魔力が炸裂した地点を目指す。

ーーーーーーーーーー

 黒茶で小休止しながら、俺はドミニク達に状況を説明した。
 魔力探知の精度を上げると、テオロス軍の赤い魔力は青い魔力を覆っていただけだということ。オーナーの話で赤い魔力が魔法による可能性が高かったこと。現実的にそんなことができるのは女神の御子か渡人わたりとである可能性が高いこと。同じ渡人わたりとであれば赤い魔力の除去ができるかもしれないと考えて魔法を使ったこと。
 あくまで、状況から見えた可能性に対して行った行動だったが、これ以上の最悪にはならないだろうと考えていたこと。
 そこまで説明したところ、ドミニクから再度殴られてしまった。軽率だったかと反省したが、ドミニクも他の3人も苦笑していた。
 小休止を終えた俺達は、青い魔力ばかりになったテオロス軍へと接近していた。
 恐らく正気に戻ったことによる混乱が発生している。そこかしこで兵をまとめようとする将校の声が響いていた。
「どう思う?」
 俺は難しい顔をしているドミニクに聞いてみた。
「どうもこうも、ボウズの魔法で正気に戻ったんじゃねえか?」
 俺もそう思う。俺は何を、とか、開戦してしまったのか、とか聞こえてくるからな。
 もしかして洗脳中のこと覚えてんのかな?
 いっそあの中の偉そうなヤツ捕まえ……?
 こっちにものすごいスピードで近寄ってくる魔力を感じる。青い魔力を白い魔力が覆ってる。数は5つ、デニスか。
「ドミニク、デニス達がこっちに来てる」
「とっつぁんか、早かったな」
「5人とも無事……何だコレ?」
 5人の後ろについてくる魔力が2つ。色は青。
「どうした?」
「いやなんか、オマケが2つついてきてる。すげえ、デニス達と同じ早さだ」
「……もしかすっと獣人アニマかもな。俺もそうだが獣化すると身体能力が強化されるから、それでついてこれてんのかもしれねえ」
 へえ、獣人アニマって凄いんだな。
 なんて呑気なことを考える俺の首筋に強烈な悪寒が走る。
「久しぶりっ!」
「うわっ!!」

 ずどんっ!

 身の危険を感じて後ろに跳ぶと、さっきまで俺がいた場所に何かが墜落した。
 もうもうと上がる砂煙を手で払いながら何かが立ち上がる。人か?
「何で避けんだよ、ひでえなぁ」
 人影がそんなことを言う。砂煙が晴れると、そこにはウサギ人間が立っていた。
「避けるに決まってる、殺す気か!?」
「ユートはあんなんじゃ死なねえって」
 あははと笑うウサギ人間。いや、俺今体重一割しか無いからな。避けなかったら今頃空の彼方に吹っ飛んでるぞ。ってか、何で俺のこと知ってんだ?
「ってか誰?」
 よくよく見るとものすごい格好だ。背丈は俺より少し高い、赤い髪に長いウサギの耳。顔は人族っぽいが頬に3本ずつ長い髭。
 丈の短いタンクトップからは、毛皮をまとったしなやかな腕が伸びている。掌は俺の顔くらいあるんじゃないか?タンクトップは大きな胸でぱっつぱつ。
 この寒いのにヘソ出しホットパンツって。脚も腕と同じように毛皮をまとっているが、太ももは俺の胴回りくらいある。膝から下が細長くてウサギみたいだ。
 俺の反応にウサギが怒った。
「何だよ、もう忘れちまったのかよっ!」
「お前みたいな露出狂は知らん」
「どこ見てんだっ!……じゃなくてチコだよ俺は」
「嘘つけ」
 俺は右手を顔の前に上げて、親指と人差し指で1センチほどの隙間を作る。
「チコはこんなだったぞ」
「そんなちっこくねえっ!見てろっ!」
 騒がしいウサギがムキになって光を放つ。

 ぽひゅん!

 間抜けな音がしてウサギの姿が消える。あれ?
 俺がキョロキョロしていると足元から聞き覚えのある声がした。
「相変わらず失礼なヤツだな、ユートは!」
「おうチコ、どっから出てきた?」
 チコが地団駄を踏む。
「さっきからいたろうがっ!」
 さっきからって、え?
「あのウサギ、お前か?」
「そうだよ、獣化して走ってきたんだ。分かるだろ」
「分かるか、あんなもん」
 俺はうりうりとチコの頭をくしゃくしゃにしてやった。獣人アニマの獣化ってあんなに変わるのな。このちんちくりんが……なぁ。
「相変わらず、人の子は騒がしいですね」
 音もなく唐突に人影が増えた。今度は何だ?
「この分だと私のことも分からないのでしょうね」
 やれやれと言った様子で大きな人影がため息をつく。
「お、狼男!?」

 すぱんっ!

 脳天を思いっきりしばかれた。痛くはないけども。
「失礼な。よく見なさい、私はメスです」
 そう言って胸を張る。革のシャツのような上着が2つの膨らみで張り裂けそうになっている。いや……メスて。
「それは、失礼しました」
 俺がそう言うと純白の狼女は脱力しながら光を放った。

 ぽひゅん!

 また間抜けな音がして見知らぬ美人が表れた。パールがかった真っ白い長髪に、大きな犬の耳が生えている。整った顔に済んだ赤い瞳。出るとこ出て、引っ込むとこ引っ込んだナイスバディの美人さん。革の上下に身を包んでいる。
 今度はさすがに初対面だ。
「どちらさま?」
 目の前の美人が苦笑した。口元に大きな八重歯が覗いている。
「私はアムルス。剣狼サーベルウルフのアムルス。久しいですね、ユート」
「……いや、狼じゃなくね?」
 さすがに詐欺だろ……。
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