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三章
ユートVSクシナダ軍団
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ノクサル氏の家を出ると、里中に設置されているランプが煌々と辺りを照らしていた。すっかり長居しちまったな。クシナダ、怒ってないといいけど。
昼間は結構人通りがあったのに、さすがに日が暮れると静かだな。俺の足音が煉瓦造りの建物の間に反響している。
確かエレナンセはこの道を真っ直ぐだったよな。以前チコの案内で買い物をした時のことを思い出しながらクロノリヤを歩く。しばらく行くと大きな純白の建物が見えてきた。この道で正解だったな。
だけど、チコの実家のエレナンセの入り口の前に背の低い集団が集まっているのが見える。
「……あれ?」
真ん中に陣取ってるのは、クシナダだよな?両隣にアムルスの子供達もいる。
あ、俺を見つけたみたいだ。周りにいるのは……連れてきた猫達?
「クシナダ、何やってるんだ?」
声をかけながら近づくと、クシナダのほっぺたがぷくっと膨らんだ。それを合図に猫達が一斉に俺を振り返る。
ランプに照らされているとはいえ周囲はもう薄暗い。大きく広がった瞳で、猫達が俺を見つめている。
「遅かったね、御主人」
ほっぺたを可愛らしく膨らませながらクシナダがしゃべる。器用だな。
「そうか?まあ、ちょっと長話だったかな」
「……ちょっと?」
あれ?クシナダの目が三白眼になったぞ?
「もうとっくに晩御飯の時間だよ?御主人が遅いから待ってたんだよ?」
「え?間に合ったろ?」
いや、俺の腹具合だと晩メシの時間はもうちょっと後だよな?
クシナダのほっぺたがさらに膨らむ。フグかお前は。
「クーちゃんね、我慢してたのよ。御主人が帰ってくるの待ってたんだよ」
クシナダの言葉に合わせてエレナンセの入り口が少しだけ開き、にやにやした顔がちらっと見えた。背の順にチコ、クリスティーネ、アムルスの顔が縦に並んでいる。おいお前ら、そこで何やってやがる?
「……どこ見てるのかな?今クーちゃんが話してるの!」
ついにクシナダが怒り出したぞ。そんなに腹減って……あ、昼間っから遊びまくってたからか。それでいつもより腹が減るのが早いのか!でもリュックにおやつ入れてたよな?
「……クシナダ、鞄に入れてたおやつは?」
「みんなで食べた!」
「美味しかったよユート」
「もっと無いの?」
「お腹空いたぁ……」
クシナダが声をあげ、猫達が同意する。クロノリヤに一緒に来た猫達は22頭、それにアムルスの子供達もいる。クシナダに持たせてたおやつをその人数で分けたら、焼き菓子1枚くらいしか食べてないってことか。それは腹が減るよな。うん。
「クシナダは優しいな。みんなで仲良く食べたのか。えらいな」
俺がそういうと、クシナダのほっぺたから空気が抜けて笑顔になった。
「うん。えへへー……って、違うの!」
そしてまたほっぺたを膨らませる。……誤魔化せなかったか。
「クーちゃんもみんなも、晩御飯食べずに待ってたの!」
「……ごめん」
まさか待っててくれるとは思ってなかったな。しまったな、先に晩メシ食っとくように言っとけばよかったな。
「……反省してる?」
「してるしてる」
「もうこんなことしない?遅くなる時は連絡する?」
お前はオカンか。連絡ってもなあ……あ、念話機があるか。クシナダの分もオーナーにもらおう。
「ああ、ちゃんと連絡するよ。ベルセンに帰ったら、オーナーに頼んでクシナダの分も念話機もらうよ」
「……約束だよ?」
「おう。ベルセンに帰ったらすぐオーナーに頼んでみるよ」
……あの変態に借りを作るのは嫌なんだけどな。まあ、今回は仕方ないか。
クシナダの顔が笑顔に戻ったしな。
「じゃあ、許してあげる!」
「……ごめんな」
「えへへー、御主人ったら仕方ないなあ」
クシナダがそう言うと、半開きだったエレナンセの入り口が開いた。
「じゃ、クーちゃん。晩メシにしようぜ!」
チコが元気よくクシナダに声をかける。
「ケイト、エレイン、ご飯にしますよ」
アムルスが優しく子供たちを呼ぶ。そうか、ケイトとエレインって言うのか。
「猫ちゃん達もおいで。みんなの分もあるわよ」
クリスティーネ、まるで保育士みたいだな。
……お前ら覚えとけよ。半笑いじゃねえか。
「……ユート、ボクらも行こうよ」
気が付くと俺の足元に猫が1頭、俺を見上げて笑っていた。ちくしょう。
「……ああ、そうだな。そう言えばネコ君」
「なんだい?」
「お前ら、名前ってあるのか?」
足元の猫が、よく聞いてくれたとばかりに胸を張る。
「もちろんさ!ボクの名前はトト。いい名前だろ?さっき御子様がつけてくれたんだ」
「クシナダが?」
「そうさ!」
そうか、クシナダが。
「いい名前だな。よろしく、トト」
俺は笑いながらトトに右手を差し出す。トトも器用に右前足を俺の右手に重ねてきた。
「よろしく、ユート」
にこっと笑うトト。ついでにもう1つ聞いとくか。
「ところでさ……」
「なんだい?」
「なんで呼び捨て?」
「……」
目を見開いて意外そうな顔をするな。
「おい、黙るなよ」
「いやだってほら、ボクらはもう、兄弟みたいなもんじゃないか?」
「……俺は人族なんだけど」
「そうじゃなくて、魔力のことさ。ボクらの魔力は、ユートがくれたんだ」
……まあ、結果的に?
「だからボクらはユートの兄弟さ!」
……いやぁ、それちょっとちがくね?
「そんな嬉しそうな顔するなよ、ユート!」
「絶対してねえ!」
静まり返ったクロノリヤに、俺の叫びがこだまする。直後、奥から俺を呼ぶクシナダの声がして、俺とトトは慌ててエレナンセに入った。
入り口をくぐると、受付でチコのお姉さんが口元を隠して笑っていた。肩がぷるぷる震えている。
「お久しぶりです、ユート様」
「ユートでいいですって。様はやめてください」
俺は苦笑しながら軽く頭を下げた。
「今回も、宿代と食事代は払いますからね?」
「いいえ、ダメですよ」
「じゃあ、他を当たりますから」
チコのお姉さんがいたずらっぽく笑う。
「お代はもう、里長からいただいていますから」
ノクサル氏から?なんだよ水臭いな。先に言ってくれよ。
「わかりました。じゃあ、1晩だけお世話になります」
「はい」
そんなやりとりを終えてエレナンセの食堂に入ると、食堂はもう満席になっていた。先に席に座っていたクシナダが俺に気づいて両手を振っている。アムルスと子供達も一緒だ。
「御主人!こっち、こっち!」
見ると、クシナダの横の席が空いている。空けてくれてたのかな。
「ああ、ありがとな」
「えへへー」
クシナダの頭をくしゃくしゃと撫でながら席に座る。俺の右側にクシナダ、左側にアムルスの子供達、そしてアムルス。トトは……あ、クリスティーネに捕まったな。ご愁傷さま。
「クシナダ、いいことしたな?」
「何が?御主人?」
クシナダが不思議そうに首をかしげた。俺はクリスティーネの膝に拘束されたトトを見て続ける。
「ネコ君達の名前だよ。全員につけてやったんだろ?トトが教えてくれた」
「うん!あのね、猫ちゃん達名前が無いって言ってたからね」
「そうか。よく全員分思いついたな」
「えへへー、クーちゃん頑張ったよ!名前が無いと不安だもの。クーちゃんの名前は御主人がつけてくれたけど、猫ちゃん達には名前をつけてくれる人がいなかったんだよ」
なんだよ、優しいじゃないか。
「トト達、喜んでたぞ。いいことしたな」
「えへへー」
そんなことを話していると料理が運ばれてきた。今日はチコも給仕をしている。俺達の席には、わざわざ料理長が料理を持ってきてくれた。鶏肉の香草焼きと根菜の煮込み、それに野菜とキノコのクリームパスタがそれぞれ大皿に盛られている。
テーブルに備え付けの取り皿を使って、子供3人に取り分けてやる。
「アムルス、とりあえずこれくらいでいいか?」
子供達のついでにアムルスにも取り分けてやると、嬉しそうに受け取った。
「ユート、感謝を」
「大げさなヤツだな」
「ふふふ」
最後に俺の分を取り皿に取ると、待ちかねたようにクシナダが両手を合わせた。アムルスが右手を胸に当てて微笑んでいる。俺も手を合わせながら笑ってしまう。睨んでくるクシナダの視線をスルーしながらアムルスの子供達を見ると、アムルスと同じように右手を胸に当てていた。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます!」
ケイトとエレインが不思議そうな顔をしているので、俺とクシナダの食事のルールを教えてやると、面白そうに話を聞いていた。
あ、こらクシナダ、口の周りべちゃべちゃじゃないか。急いで食うから……。
「あーあー、喉詰めるからゆっくり食えって」
呆れながら口の周りを拭いてやる。
「まふはー、ほいひいへ」
「食べながらしゃべるなって。あーもう、こぼすから、こぼすから」
「……ごくん。えへへー」
「全く。美味しいか?」
「うん!」
……あ、何だよ、そっちのチビ達もべちゃべちゃにして。
「あーあー、お前らもか。ほら、ケイトはどっちだ?」
「ふぁーい!」
右側頭部に髪の毛をお団子にしたちびっこが返事をする。じゃあ左側頭部に髪の毛をお団子にしてるのがエレインだな?俺は両手にナプキンを持って手を伸ばす。
「よーし、ケイトもエレインも動くな。こんなに汚して……」
「ありがとー、ユート」
「くすぐったいよー」
俺がケイトとエレインの世話を焼くと、クシナダが口の周りにわざとおべんとを付け始めた。
「あー!2人ともずるい、御主人、クーちゃんも、クーちゃんも」
「クシナダ、わざわざ汚すな!ご飯がもったいない!」
でも仕方ないから拭いてやる。こらアムルス、お前食ってばっかでずるいぞ。
「御主人」
アムルスを睨んでいると、クシナダに呼ばれて振り返る。
「ご飯美味しいね。みんなで食べると、もっと美味しいね」
そう言ってにぱっと笑っている。俺もつられて笑ってしまう。
その後食事が終わってからエレナンセで借りた部屋で眠りにつくまで、クシナダは終始ニコニコと笑っていた。
昼間は結構人通りがあったのに、さすがに日が暮れると静かだな。俺の足音が煉瓦造りの建物の間に反響している。
確かエレナンセはこの道を真っ直ぐだったよな。以前チコの案内で買い物をした時のことを思い出しながらクロノリヤを歩く。しばらく行くと大きな純白の建物が見えてきた。この道で正解だったな。
だけど、チコの実家のエレナンセの入り口の前に背の低い集団が集まっているのが見える。
「……あれ?」
真ん中に陣取ってるのは、クシナダだよな?両隣にアムルスの子供達もいる。
あ、俺を見つけたみたいだ。周りにいるのは……連れてきた猫達?
「クシナダ、何やってるんだ?」
声をかけながら近づくと、クシナダのほっぺたがぷくっと膨らんだ。それを合図に猫達が一斉に俺を振り返る。
ランプに照らされているとはいえ周囲はもう薄暗い。大きく広がった瞳で、猫達が俺を見つめている。
「遅かったね、御主人」
ほっぺたを可愛らしく膨らませながらクシナダがしゃべる。器用だな。
「そうか?まあ、ちょっと長話だったかな」
「……ちょっと?」
あれ?クシナダの目が三白眼になったぞ?
「もうとっくに晩御飯の時間だよ?御主人が遅いから待ってたんだよ?」
「え?間に合ったろ?」
いや、俺の腹具合だと晩メシの時間はもうちょっと後だよな?
クシナダのほっぺたがさらに膨らむ。フグかお前は。
「クーちゃんね、我慢してたのよ。御主人が帰ってくるの待ってたんだよ」
クシナダの言葉に合わせてエレナンセの入り口が少しだけ開き、にやにやした顔がちらっと見えた。背の順にチコ、クリスティーネ、アムルスの顔が縦に並んでいる。おいお前ら、そこで何やってやがる?
「……どこ見てるのかな?今クーちゃんが話してるの!」
ついにクシナダが怒り出したぞ。そんなに腹減って……あ、昼間っから遊びまくってたからか。それでいつもより腹が減るのが早いのか!でもリュックにおやつ入れてたよな?
「……クシナダ、鞄に入れてたおやつは?」
「みんなで食べた!」
「美味しかったよユート」
「もっと無いの?」
「お腹空いたぁ……」
クシナダが声をあげ、猫達が同意する。クロノリヤに一緒に来た猫達は22頭、それにアムルスの子供達もいる。クシナダに持たせてたおやつをその人数で分けたら、焼き菓子1枚くらいしか食べてないってことか。それは腹が減るよな。うん。
「クシナダは優しいな。みんなで仲良く食べたのか。えらいな」
俺がそういうと、クシナダのほっぺたから空気が抜けて笑顔になった。
「うん。えへへー……って、違うの!」
そしてまたほっぺたを膨らませる。……誤魔化せなかったか。
「クーちゃんもみんなも、晩御飯食べずに待ってたの!」
「……ごめん」
まさか待っててくれるとは思ってなかったな。しまったな、先に晩メシ食っとくように言っとけばよかったな。
「……反省してる?」
「してるしてる」
「もうこんなことしない?遅くなる時は連絡する?」
お前はオカンか。連絡ってもなあ……あ、念話機があるか。クシナダの分もオーナーにもらおう。
「ああ、ちゃんと連絡するよ。ベルセンに帰ったら、オーナーに頼んでクシナダの分も念話機もらうよ」
「……約束だよ?」
「おう。ベルセンに帰ったらすぐオーナーに頼んでみるよ」
……あの変態に借りを作るのは嫌なんだけどな。まあ、今回は仕方ないか。
クシナダの顔が笑顔に戻ったしな。
「じゃあ、許してあげる!」
「……ごめんな」
「えへへー、御主人ったら仕方ないなあ」
クシナダがそう言うと、半開きだったエレナンセの入り口が開いた。
「じゃ、クーちゃん。晩メシにしようぜ!」
チコが元気よくクシナダに声をかける。
「ケイト、エレイン、ご飯にしますよ」
アムルスが優しく子供たちを呼ぶ。そうか、ケイトとエレインって言うのか。
「猫ちゃん達もおいで。みんなの分もあるわよ」
クリスティーネ、まるで保育士みたいだな。
……お前ら覚えとけよ。半笑いじゃねえか。
「……ユート、ボクらも行こうよ」
気が付くと俺の足元に猫が1頭、俺を見上げて笑っていた。ちくしょう。
「……ああ、そうだな。そう言えばネコ君」
「なんだい?」
「お前ら、名前ってあるのか?」
足元の猫が、よく聞いてくれたとばかりに胸を張る。
「もちろんさ!ボクの名前はトト。いい名前だろ?さっき御子様がつけてくれたんだ」
「クシナダが?」
「そうさ!」
そうか、クシナダが。
「いい名前だな。よろしく、トト」
俺は笑いながらトトに右手を差し出す。トトも器用に右前足を俺の右手に重ねてきた。
「よろしく、ユート」
にこっと笑うトト。ついでにもう1つ聞いとくか。
「ところでさ……」
「なんだい?」
「なんで呼び捨て?」
「……」
目を見開いて意外そうな顔をするな。
「おい、黙るなよ」
「いやだってほら、ボクらはもう、兄弟みたいなもんじゃないか?」
「……俺は人族なんだけど」
「そうじゃなくて、魔力のことさ。ボクらの魔力は、ユートがくれたんだ」
……まあ、結果的に?
「だからボクらはユートの兄弟さ!」
……いやぁ、それちょっとちがくね?
「そんな嬉しそうな顔するなよ、ユート!」
「絶対してねえ!」
静まり返ったクロノリヤに、俺の叫びがこだまする。直後、奥から俺を呼ぶクシナダの声がして、俺とトトは慌ててエレナンセに入った。
入り口をくぐると、受付でチコのお姉さんが口元を隠して笑っていた。肩がぷるぷる震えている。
「お久しぶりです、ユート様」
「ユートでいいですって。様はやめてください」
俺は苦笑しながら軽く頭を下げた。
「今回も、宿代と食事代は払いますからね?」
「いいえ、ダメですよ」
「じゃあ、他を当たりますから」
チコのお姉さんがいたずらっぽく笑う。
「お代はもう、里長からいただいていますから」
ノクサル氏から?なんだよ水臭いな。先に言ってくれよ。
「わかりました。じゃあ、1晩だけお世話になります」
「はい」
そんなやりとりを終えてエレナンセの食堂に入ると、食堂はもう満席になっていた。先に席に座っていたクシナダが俺に気づいて両手を振っている。アムルスと子供達も一緒だ。
「御主人!こっち、こっち!」
見ると、クシナダの横の席が空いている。空けてくれてたのかな。
「ああ、ありがとな」
「えへへー」
クシナダの頭をくしゃくしゃと撫でながら席に座る。俺の右側にクシナダ、左側にアムルスの子供達、そしてアムルス。トトは……あ、クリスティーネに捕まったな。ご愁傷さま。
「クシナダ、いいことしたな?」
「何が?御主人?」
クシナダが不思議そうに首をかしげた。俺はクリスティーネの膝に拘束されたトトを見て続ける。
「ネコ君達の名前だよ。全員につけてやったんだろ?トトが教えてくれた」
「うん!あのね、猫ちゃん達名前が無いって言ってたからね」
「そうか。よく全員分思いついたな」
「えへへー、クーちゃん頑張ったよ!名前が無いと不安だもの。クーちゃんの名前は御主人がつけてくれたけど、猫ちゃん達には名前をつけてくれる人がいなかったんだよ」
なんだよ、優しいじゃないか。
「トト達、喜んでたぞ。いいことしたな」
「えへへー」
そんなことを話していると料理が運ばれてきた。今日はチコも給仕をしている。俺達の席には、わざわざ料理長が料理を持ってきてくれた。鶏肉の香草焼きと根菜の煮込み、それに野菜とキノコのクリームパスタがそれぞれ大皿に盛られている。
テーブルに備え付けの取り皿を使って、子供3人に取り分けてやる。
「アムルス、とりあえずこれくらいでいいか?」
子供達のついでにアムルスにも取り分けてやると、嬉しそうに受け取った。
「ユート、感謝を」
「大げさなヤツだな」
「ふふふ」
最後に俺の分を取り皿に取ると、待ちかねたようにクシナダが両手を合わせた。アムルスが右手を胸に当てて微笑んでいる。俺も手を合わせながら笑ってしまう。睨んでくるクシナダの視線をスルーしながらアムルスの子供達を見ると、アムルスと同じように右手を胸に当てていた。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます!」
ケイトとエレインが不思議そうな顔をしているので、俺とクシナダの食事のルールを教えてやると、面白そうに話を聞いていた。
あ、こらクシナダ、口の周りべちゃべちゃじゃないか。急いで食うから……。
「あーあー、喉詰めるからゆっくり食えって」
呆れながら口の周りを拭いてやる。
「まふはー、ほいひいへ」
「食べながらしゃべるなって。あーもう、こぼすから、こぼすから」
「……ごくん。えへへー」
「全く。美味しいか?」
「うん!」
……あ、何だよ、そっちのチビ達もべちゃべちゃにして。
「あーあー、お前らもか。ほら、ケイトはどっちだ?」
「ふぁーい!」
右側頭部に髪の毛をお団子にしたちびっこが返事をする。じゃあ左側頭部に髪の毛をお団子にしてるのがエレインだな?俺は両手にナプキンを持って手を伸ばす。
「よーし、ケイトもエレインも動くな。こんなに汚して……」
「ありがとー、ユート」
「くすぐったいよー」
俺がケイトとエレインの世話を焼くと、クシナダが口の周りにわざとおべんとを付け始めた。
「あー!2人ともずるい、御主人、クーちゃんも、クーちゃんも」
「クシナダ、わざわざ汚すな!ご飯がもったいない!」
でも仕方ないから拭いてやる。こらアムルス、お前食ってばっかでずるいぞ。
「御主人」
アムルスを睨んでいると、クシナダに呼ばれて振り返る。
「ご飯美味しいね。みんなで食べると、もっと美味しいね」
そう言ってにぱっと笑っている。俺もつられて笑ってしまう。
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