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ヒート2 sideグレイヴ
しおりを挟むトイレから出て保健室に戻ろうとするが、あまり近づいて匂いにあてられてまたトイレに籠ると、彼が出てきた時に気づいてあげられない。そのままそこで待つことにした。
するとすぐに、保健室から彼が出てくる。
とりあえず声が届くぐらいの近さまでは近づけた。
「もう、大丈夫そうか?」
彼はコクリと頷く。よかった。
「そうか」
至近距離まで寄って匂いがするか確かめると、もう匂いは消えていた。
「薬がちゃんと効いたみたいでよかった」
「入れば?」
彼は少し視線を彷徨わせた後、そう言った。
「ああ」
保健室に入ってソファの端に座る。
彼は距離を開けて反対の端に座った。
「……薬って抑制剤だよな」
「そうだ」
それ以外に何があるというのだ。
「薬を飲ませるために俺を保健室に?」
「ああ、とても辛そうだったから落ち着いたところで早く飲ませてあげようと」
「そうか」
「嫌だったか?」
保健室に何か嫌な思い出でもあったのだろうか。
彼は首を横に振った。
「良かった」
これ以上嫌われたらどうしようかと思った。
「俺が薬はないって言った後……」
「っ!あれは、すまなかった!!」
「昔読んだ本に、ヒート中のΩは本能的に行動するようになり、無意識に抑制剤を隠したり拒否するようになると書いてあった」
本来の意思とは異なる行動をとる場合があると。
幼い頃からΩについて勉強をしていた。その時に読んだ本の中だろう。
「だから、どこかに隠し持っているかもしれないと思って、探そうとしたんだが、その、まあ、探しづらかったから仕方なく……」
君の姿が目に毒だったからとはとても言えない。
「……といっても言い訳にしかならないだろうが」
どんな罵詈雑言も今なら受け入れる所存だ。
「いや、いいんだ。緊急時だったし」
この子は本当に優しすぎると思う。
「正直、俺はお前に犯されると思ってた」
「俺はそんなことしない!これだけは確かだ。信じてくれ」
ズボンを剥いでおいて説得力がないな。
「それはもうわかってる。でも俺は本気でそう思ってたし、あの薬は避妊薬に見えてた。だから、拒否した」
「……すまない。怖い思いをさせた」
オメガが抗えないのをいいことに、ヒートに乗じてそういった事に及ぼうとする輩もいると聞く。
警戒する気持ちがあることに、気づくべきだった。
「お前は何も悪くない。俺が怖がり過ぎてただけだ」
「いや、怖がるのは当たり前だ。ヒート中のΩは弱くなる。警戒はしないと、命を落としかねない」
こちらは一度、交際を迫った相手だ。
なおさら恐怖したことだろう。
「……普段、Ωは弱いと言われるのは腹が立つ。でも、こればっかりは認めざるを得ない」
彼は膝を抱え顔を伏せる。
それはまるで不安を隠すようだった。
「俺を見つけたのがお前で良かった。俺は嫌だ嫌だと思っていても、なんの抵抗も出来ずに、お前に運ばれて薬を飲まされた。今回は違ったから良かったけど、これが俺の想定した通りになっていたらと思うと、ゾッとする」
「それは俺もゾッとする」
そんな事態になっていたら、俺は死ぬまで後悔する。
「俺は昔からαが大嫌いだ。だけどお前なら、好きになれそうな気がする」
「それは、とても嬉しいな」
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