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発情期
1.
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水曜日の朝、津田は3日間休むと電話を入れてきた。はじめから「3日間」と言ってくるということは、発情休暇ということだ。
(そういえば昨日、汗かいてたな…… )
イラついたようにため息をついたのも、もう昨日から身体がつらかったのだろうか。
「昨日の午後から津田さん、セクシーでしたよね」
隣の空席を見ながら、増井がうっとりした目でつぶやいた。
「そうね、いい匂いしてたよね」
向かいの美馬が受ける。
二人の席は乾のデスクから近く、おしゃべりはよく聞こえる。普段はうるさいと思うだけの私語だが、乾は思わず耳をそばだてた。
「あたし、最近ちょっと津田さん好きかもなんですよね。はじめはコワイ人かなって思ってたんですけど、横顔めっちゃきれいだし」
「あーね。しかも地味に仕事できるしね」
「できるっていうかぁ、絶対頭いい人ですよね?だってT大でしょう。一昨日あたし、びっくりしたけど、あーなるって感じでした」
(あーなる……?)
ジャーナルみたいな響きだ。あーなるほど、の略だろうか。乾は今年30歳になったばかりだが、もともと世俗に疎い性格で、若い部下の言葉遣いがときどき理解不能だった。
「私は津田さんが子持ちって方が、びっくりしたけどねぇ」
美馬が、そこにいない津田を見つめるように顔を上げてつぶやいた。
津田が子どもを抱いて歩いていたことを、一昨日里谷は部署に戻るなり暴露した。津田も秘密にしているわけではないだろうし、乾も特別口止めはしなかったのだが、それをスクープのように披露した里谷にいい気はしなかった。
「あたし、津田さんが子持ちだって知ったら急に、昨日なんかちょっとそういうふうに見ちゃって、水飲むときの喉の動きとか、チラ見しちゃいました」
「ちょっと増井ちゃん…… 」
(そういえば昨日、汗かいてたな…… )
イラついたようにため息をついたのも、もう昨日から身体がつらかったのだろうか。
「昨日の午後から津田さん、セクシーでしたよね」
隣の空席を見ながら、増井がうっとりした目でつぶやいた。
「そうね、いい匂いしてたよね」
向かいの美馬が受ける。
二人の席は乾のデスクから近く、おしゃべりはよく聞こえる。普段はうるさいと思うだけの私語だが、乾は思わず耳をそばだてた。
「あたし、最近ちょっと津田さん好きかもなんですよね。はじめはコワイ人かなって思ってたんですけど、横顔めっちゃきれいだし」
「あーね。しかも地味に仕事できるしね」
「できるっていうかぁ、絶対頭いい人ですよね?だってT大でしょう。一昨日あたし、びっくりしたけど、あーなるって感じでした」
(あーなる……?)
ジャーナルみたいな響きだ。あーなるほど、の略だろうか。乾は今年30歳になったばかりだが、もともと世俗に疎い性格で、若い部下の言葉遣いがときどき理解不能だった。
「私は津田さんが子持ちって方が、びっくりしたけどねぇ」
美馬が、そこにいない津田を見つめるように顔を上げてつぶやいた。
津田が子どもを抱いて歩いていたことを、一昨日里谷は部署に戻るなり暴露した。津田も秘密にしているわけではないだろうし、乾も特別口止めはしなかったのだが、それをスクープのように披露した里谷にいい気はしなかった。
「あたし、津田さんが子持ちだって知ったら急に、昨日なんかちょっとそういうふうに見ちゃって、水飲むときの喉の動きとか、チラ見しちゃいました」
「ちょっと増井ちゃん…… 」
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