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Ωの人生
12.
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津田の愛飲するメビウスより少し高価な銘柄だ。なるほど、育ちの良さそうな乾に似合っている。
「これもちょうだい」
津田が言うと、乾は少し驚いた顔をあげた。
「いいですけど、ここでは吸えませんよ」
さっそく一本抜き出そうと箱を開けた津田は、指を止めて嘆息した。思わず天井を仰ぐ。もう3日も吸ってない。給料日まで、新しい煙草を買うのを控えていた。
「喫煙室行きます?」
乾がそう提案するが、Tシャツにジーンズ姿で社の喫煙室に入るわけにいかない。それにもう律を迎えに行かなければ。
「家までがまんするわ…… 」
津田がそう言ってベッドを下りようとすると、
「そうですか」
という乾の低い声が頭上で聞こえ、視界がふっと暗くなった。
(…… うん?)
津田の唇が、乾の唇でふさがれていた。
(うんん…… っ?)
口から鼻に、煙草の甘い匂いが抜ける。乾の熱い舌が、津田の舌に、口腔に、苦みを塗りたくった。
チュッと、唇が離れた時にわずかな水音がした。
茫然とする津田に、乾はしれっと言ってのけた。
「おすそわけです」
(ええーー っ?)
「気をつけて帰ってくださいね」
背を向けてそう言うと、乾は津田を置いて医務室を出て行った。
「これもちょうだい」
津田が言うと、乾は少し驚いた顔をあげた。
「いいですけど、ここでは吸えませんよ」
さっそく一本抜き出そうと箱を開けた津田は、指を止めて嘆息した。思わず天井を仰ぐ。もう3日も吸ってない。給料日まで、新しい煙草を買うのを控えていた。
「喫煙室行きます?」
乾がそう提案するが、Tシャツにジーンズ姿で社の喫煙室に入るわけにいかない。それにもう律を迎えに行かなければ。
「家までがまんするわ…… 」
津田がそう言ってベッドを下りようとすると、
「そうですか」
という乾の低い声が頭上で聞こえ、視界がふっと暗くなった。
(…… うん?)
津田の唇が、乾の唇でふさがれていた。
(うんん…… っ?)
口から鼻に、煙草の甘い匂いが抜ける。乾の熱い舌が、津田の舌に、口腔に、苦みを塗りたくった。
チュッと、唇が離れた時にわずかな水音がした。
茫然とする津田に、乾はしれっと言ってのけた。
「おすそわけです」
(ええーー っ?)
「気をつけて帰ってくださいね」
背を向けてそう言うと、乾は津田を置いて医務室を出て行った。
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