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19.呪人形の館 PART Ⅱ
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それまではただの子供特有の想像力の賜物だと思っていたミシェルと人形の姿。
だがあの不気味な絵を見て以来、アンジェラにはそうとは思えなくなり、そうなるとこれまで気にしていなかった日々の姿が急に違和感があるものに感じるようになってしまった。
娘が人形と話すとき、まるで人形側から話しかけられたように応答から入る姿が多い事。
人形が気づくとこちらに正面を向けて置かれている事が時折あった事。
知らない間に人形が置かれている場所は、食卓の上や背の高めな棚の上など、娘のミシェルにとっては無理ではないが少し苦労しそうな場所もあった事。
そういったときに置かれてこちらを向いている人形の紫水晶の瞳から、視線めいたものを感じた事、などである。
どれも些細で気にしすぎと言えるような話。
だけれど今のアンジェラはそれを気のせいで流す事ができなくなっていた。
そんな不安の中で、彼女はふと思い出した事があった。
夫はあの人形を「譲ってもらった」と言っていたことを。
考えればそこからおかしいのではないだろうか? とアンジェラは思ったのだ。
あのとき感じた、夫らしくもないし町長さんらしくもないという違和感。
そのことを考えると、彼女はいてもたってもいられなくなって、夫にそのときの状況を詳しく聞いてみる事にした。
「え? あの人形を譲ってもらったときの状況をより詳しく知りたい、だって? ……あー、えーと……」
思い立ったその日の夜、仕事から帰ってきた彼にアンジェラは聞いた。
すると、帰ってきたのは夫の歯切れの悪い姿だった。
「……ケントさん?」
「あっ、ごめんね。別に嘘をついてたとかそういう事じゃないんだよ。ただなんというか、思い返すとお互いなんだか熱に浮かされてたみたいだったというかさ……」
目を軽く逸らし、相変わらず言いづらそうにしているケント。
アンジェラはそんな彼の両肩に思わず掴みかかってしまった。
「わっ!? ア、アンジェラ!? 急にどうしたんだい……?」
「お願いですケントさん! はっきりと言って教えて下さい! 何があったんですか……!?」
「え、えっと……いや本当に変な事はなかったよ? ただ、あのとき言ったように僕も急に娘にこの人形をあげたいって強く思ったのと、あとなんだか町長さんもこれは僕に渡すべきだっていう、なんか使命感? みたいな気持ちになったらしくて……ああ、あとそうだ」
と、そこでケントはふと思い出したらしく少し瞼を大きめに開いた。
「町長さんもこの人形を手にしたときはなんだか無性に欲しくなったって言ってたよ。なんならその町長さんに譲った貴族様もそうだったらしいし、その貴族様も大きなアンティークショップで購入したとか……なんか、巡り巡ってる人形っぽいねぇ」
「…………」
アンジェラはケントのその話を聞いて、わなわなと手を彼の肩から離し、言葉が出なくなってしまった。
そして思った。
――まるで、人形がこの家に来るように、人々をそう仕向けたみたい……。
と。
馬鹿げた考えだとは自分でも思っている。
だけれども、そう自分の考えを否定しようとするたびに、あの日の絵、ミシェルの言葉、そしてこれまでただの思い込みと流してきた、人形にまつわる違和感の数々。
それらすべてがアンジェラに人形に対する恐怖へという形で膨れ上がっていく。
結果として、アンジェラはどうにかしてあの人形を捨ててしまいたい、そんな感情にかられるようになっていた。
だけれども現状においてもアンジェラには娘があんな気に入っている人形を勝手に捨てる勇気は出ないし、弱腰な自分は言ってもきっと娘に響くような言い方はできないだろうと思っていた。
そんな日、彼女は気付いた。
近々、また夏季休暇用に向けて雇った家庭教師の先生が来てくれる事に。
アンジェラは、彼女に依頼する事にした。
◇◆◇◆◇
「分かりました、私から言ってみましょう」
「あ、ありがとうございます……!」
その日、いつも通り午後一時半頃にやって来た髪を前髪含めて後ろに丸くまとめた女性の家庭教師に事情を話すと、二つ返事で了承してくれた。
「いえ、あの年頃の子が人形を家族のように扱い過ぎて勉学に身が入らないという事はたまにある事ですからね。そういうときは私のような外からの人間が言ったほうが聞いてくれる事もありますので」
アンジェラは正しく自らの不安を家庭教師に話したわけではない。
むしろ正直に言ってしまうと自分の正気が心配されてしまうだろう。なんなら今でも己の正気を疑っているところはある。
なのでアンジェラは「あまりにも娘が人形に執着し過ぎて日々の生活に支障が出ているので離れるようにと説得を協力して欲しい」と頼んだのだ。
結果として嘘で家庭教師を騙してしまったが、今はそれどころではないとアンジェラは自らを正当化したのだ。
「では、行ってまいります」
家庭教師はアンジェラに笑顔を作って二階にある子供部屋に上がっていく。
きっと彼女ならうまくやってくれるであろう、アンジェラはそう思った。
しかしまだ不安は彼女の心に燻る。
それを解消するために、彼女はキッチンに行って紅茶を入れる事にした。
「……ふぅ」
ゆっくりとお湯を沸かし、ティーポットに茶葉を入れて、じっくり時間をかけて紅茶を淹れる。
そしてそうして淹れたお茶を、静かに時間をかけて口にする。
彼女が落ち着くときによくやるルーティーンであった。
この間に紅茶がぬるくなってしまう事もよくあり、それもまた彼女を落ち着かせるひとときであった。
「……そう言えば、ケントさん遅いですね」
ティーカップ片手にソファーに座る彼女が時計を見るとまだ午後の二時を過ぎたばかりである。
それなのに彼女がそう言っているのは、その日、ケントは休みを取って家にいたからだ。そして彼はアンジェラが疲れているのではないのかと思って休みを取り、外で甘いものを買ってきてくれると言って外に出ていったのだ。
それがだいたいお昼少し前ぐらいだったとアンジェラは記憶している。
彼はミシェルを家庭教師が見ている間ぐらい二人でゆっくりしようと使用人も早めに帰らせたぐらいだったというのに、何故か未だ帰ってこない。
「どうしたのかしら……」
彼がこうして思ったより帰るのが遅れるのは珍しい事ではない。
ケント・バークレーという人物は近所からも好かれていて、よく道中で話しかけられては長話をしてしまう事も多いのだ。
アンジェラは時折そのことを注意しているのだが、ケント自身の長話癖はなかなか治らずにいるのでやや困っている事でもあった。
もしかしたら今日もそんな感じなのかもしれない。
アンジェラはそう思いながらリビングから見える窓の外にティーカップを持ち上げながら目を向けた。
「きゃあああああああああああああああああああああああっ!?」
……グシャリ!
――目の前で、叫び声と共に家庭教師が二階から落ちて来て、目の前の道に赤い華を咲かせた。
「……ひ、ひいいいいいいいいいいいいいっ!?!?」
一瞬呆けていたアンジェラだったが、すぐさま状況を理解しティーカップを落とし立ち上がって悲鳴を上げながら窓から後ずさった。
――なんでなんでなんで、どうしてこんな事にっ!? そうだミシェルちゃんは、ミシェルちゃんはっ!? ミシェルちゃんはどうなって……!?
「ママ」
後ずさった背中の足に何かがぶつかったと同時に、そこから声がする。
振り返ると、そこにはミシェルがいた。
珍しく人形を持たずに、ただ立っていた。
「ミ、ミシェルちゃん!? よかった無事で――」
「――レイちゃんが、怒ってるよ」
「……え?」
娘の声は、あまりにも冷たかった。
こんな娘の声を、アンジェラは聞いた事がなかった。
「お母さんがレイちゃんを捨ててって家庭教師さんに頼んだの、レイちゃん知ってるんだって。だからレイちゃん、先生を落としたの。ね、レイちゃん」
ミシェルが、アンジェラの背後に目線を送りながら言った。
先程までアンジェラが座っていたソファーのすぐ側に置いてある、ティーポットが乗っかっているテーブルの方だった。
アンジェラは、その目線を追うようにゆっくりと振り向く。
そこに、あの人形がいた。
あの人形が、テーブルの上にいつものように座っている形で置かれていた。
「ひっ、ひいっ!?」
「レイちゃんはね、うちのずっと昔のおじいちゃんが、悪いことしたって言ってたよ」
「へ……? そ、それ……どういう……」
「レイちゃん、それが許せないんだって。怒ってるんだって。だから、そういう悪いことした人は罰を受けないと駄目なんだって」
「…………あっ、ひっ!? ご、ごめんなさいっ! ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
アンジェラは必死に訳も分からずに両手を床につけて謝る。
謝って家族が助かるなら、いくらでも頭を下げても良かった。
ゴロン……という音が、不意にした。
頭を下げる彼女の目の前に、何かが転がってきた。
それもまた人形だった。だが目の前で座っている人形ではない、見た事もない物だった。
だいたい十センチないぐらいの大きさで、スーツを着たくるみ割り人形だ。
短い金髪で背の高いそれは、なんだか彼女の夫を彷彿とさせて――
「――ママ。レイちゃんは一緒になればいいよって」
「……え?」
「私達も、レイちゃんと一緒になれば、いいって」
アンジェラは娘の言葉の意味を知りたくて、手をつき頭を下げた状態から、そのまま首だけ背後を向く。
すると――
◇◆◇◆◇
「衛兵ですっ! 大丈夫ですか!?」
午後二時三十分頃。
バークレー家の扉を衛兵が勢いよく蹴り飛ばして入ってきた。
近所の住人からバークレー家の窓から家に通っていた家庭教師が落ちて来た、そして家から不自然に人が出てこないという報告を受けて衛兵が家にやって来たのである。
彼らが来たとき、最初に扉を叩いて声をかけて確認したが反応はなく、やむを得ず扉を破るという手段を取ったのだ。
だが、そうした乱暴な方法を取っても館の中から反応は返ってこない。
それどころか、人の気配すらない。
衛兵は最悪の可能性を考えながらも、館の中を進み出す。
そしてまず目に入ったリビングに入ったとき、彼はそれを目にした。
「……これは」
床には、人形が三つ転がっていた。
スーツの男の人形、ドレスの少女の人形、そして同じくドレス姿の大人の女性の人形である。それぞれくるみ割り人形、ぬいぐるみ、布人形、着せ替え人形で、みな金髪というぐらいしか統一感はなかった。
他には飲みかけのぬるくなった紅茶が入ったティーポットと割れたティーカップがあるぐらいで、他には何も見つける事ができずに衛兵は帰った。
それから、バークレー家の親子達を見た者は誰もいない。
だがあの不気味な絵を見て以来、アンジェラにはそうとは思えなくなり、そうなるとこれまで気にしていなかった日々の姿が急に違和感があるものに感じるようになってしまった。
娘が人形と話すとき、まるで人形側から話しかけられたように応答から入る姿が多い事。
人形が気づくとこちらに正面を向けて置かれている事が時折あった事。
知らない間に人形が置かれている場所は、食卓の上や背の高めな棚の上など、娘のミシェルにとっては無理ではないが少し苦労しそうな場所もあった事。
そういったときに置かれてこちらを向いている人形の紫水晶の瞳から、視線めいたものを感じた事、などである。
どれも些細で気にしすぎと言えるような話。
だけれど今のアンジェラはそれを気のせいで流す事ができなくなっていた。
そんな不安の中で、彼女はふと思い出した事があった。
夫はあの人形を「譲ってもらった」と言っていたことを。
考えればそこからおかしいのではないだろうか? とアンジェラは思ったのだ。
あのとき感じた、夫らしくもないし町長さんらしくもないという違和感。
そのことを考えると、彼女はいてもたってもいられなくなって、夫にそのときの状況を詳しく聞いてみる事にした。
「え? あの人形を譲ってもらったときの状況をより詳しく知りたい、だって? ……あー、えーと……」
思い立ったその日の夜、仕事から帰ってきた彼にアンジェラは聞いた。
すると、帰ってきたのは夫の歯切れの悪い姿だった。
「……ケントさん?」
「あっ、ごめんね。別に嘘をついてたとかそういう事じゃないんだよ。ただなんというか、思い返すとお互いなんだか熱に浮かされてたみたいだったというかさ……」
目を軽く逸らし、相変わらず言いづらそうにしているケント。
アンジェラはそんな彼の両肩に思わず掴みかかってしまった。
「わっ!? ア、アンジェラ!? 急にどうしたんだい……?」
「お願いですケントさん! はっきりと言って教えて下さい! 何があったんですか……!?」
「え、えっと……いや本当に変な事はなかったよ? ただ、あのとき言ったように僕も急に娘にこの人形をあげたいって強く思ったのと、あとなんだか町長さんもこれは僕に渡すべきだっていう、なんか使命感? みたいな気持ちになったらしくて……ああ、あとそうだ」
と、そこでケントはふと思い出したらしく少し瞼を大きめに開いた。
「町長さんもこの人形を手にしたときはなんだか無性に欲しくなったって言ってたよ。なんならその町長さんに譲った貴族様もそうだったらしいし、その貴族様も大きなアンティークショップで購入したとか……なんか、巡り巡ってる人形っぽいねぇ」
「…………」
アンジェラはケントのその話を聞いて、わなわなと手を彼の肩から離し、言葉が出なくなってしまった。
そして思った。
――まるで、人形がこの家に来るように、人々をそう仕向けたみたい……。
と。
馬鹿げた考えだとは自分でも思っている。
だけれども、そう自分の考えを否定しようとするたびに、あの日の絵、ミシェルの言葉、そしてこれまでただの思い込みと流してきた、人形にまつわる違和感の数々。
それらすべてがアンジェラに人形に対する恐怖へという形で膨れ上がっていく。
結果として、アンジェラはどうにかしてあの人形を捨ててしまいたい、そんな感情にかられるようになっていた。
だけれども現状においてもアンジェラには娘があんな気に入っている人形を勝手に捨てる勇気は出ないし、弱腰な自分は言ってもきっと娘に響くような言い方はできないだろうと思っていた。
そんな日、彼女は気付いた。
近々、また夏季休暇用に向けて雇った家庭教師の先生が来てくれる事に。
アンジェラは、彼女に依頼する事にした。
◇◆◇◆◇
「分かりました、私から言ってみましょう」
「あ、ありがとうございます……!」
その日、いつも通り午後一時半頃にやって来た髪を前髪含めて後ろに丸くまとめた女性の家庭教師に事情を話すと、二つ返事で了承してくれた。
「いえ、あの年頃の子が人形を家族のように扱い過ぎて勉学に身が入らないという事はたまにある事ですからね。そういうときは私のような外からの人間が言ったほうが聞いてくれる事もありますので」
アンジェラは正しく自らの不安を家庭教師に話したわけではない。
むしろ正直に言ってしまうと自分の正気が心配されてしまうだろう。なんなら今でも己の正気を疑っているところはある。
なのでアンジェラは「あまりにも娘が人形に執着し過ぎて日々の生活に支障が出ているので離れるようにと説得を協力して欲しい」と頼んだのだ。
結果として嘘で家庭教師を騙してしまったが、今はそれどころではないとアンジェラは自らを正当化したのだ。
「では、行ってまいります」
家庭教師はアンジェラに笑顔を作って二階にある子供部屋に上がっていく。
きっと彼女ならうまくやってくれるであろう、アンジェラはそう思った。
しかしまだ不安は彼女の心に燻る。
それを解消するために、彼女はキッチンに行って紅茶を入れる事にした。
「……ふぅ」
ゆっくりとお湯を沸かし、ティーポットに茶葉を入れて、じっくり時間をかけて紅茶を淹れる。
そしてそうして淹れたお茶を、静かに時間をかけて口にする。
彼女が落ち着くときによくやるルーティーンであった。
この間に紅茶がぬるくなってしまう事もよくあり、それもまた彼女を落ち着かせるひとときであった。
「……そう言えば、ケントさん遅いですね」
ティーカップ片手にソファーに座る彼女が時計を見るとまだ午後の二時を過ぎたばかりである。
それなのに彼女がそう言っているのは、その日、ケントは休みを取って家にいたからだ。そして彼はアンジェラが疲れているのではないのかと思って休みを取り、外で甘いものを買ってきてくれると言って外に出ていったのだ。
それがだいたいお昼少し前ぐらいだったとアンジェラは記憶している。
彼はミシェルを家庭教師が見ている間ぐらい二人でゆっくりしようと使用人も早めに帰らせたぐらいだったというのに、何故か未だ帰ってこない。
「どうしたのかしら……」
彼がこうして思ったより帰るのが遅れるのは珍しい事ではない。
ケント・バークレーという人物は近所からも好かれていて、よく道中で話しかけられては長話をしてしまう事も多いのだ。
アンジェラは時折そのことを注意しているのだが、ケント自身の長話癖はなかなか治らずにいるのでやや困っている事でもあった。
もしかしたら今日もそんな感じなのかもしれない。
アンジェラはそう思いながらリビングから見える窓の外にティーカップを持ち上げながら目を向けた。
「きゃあああああああああああああああああああああああっ!?」
……グシャリ!
――目の前で、叫び声と共に家庭教師が二階から落ちて来て、目の前の道に赤い華を咲かせた。
「……ひ、ひいいいいいいいいいいいいいっ!?!?」
一瞬呆けていたアンジェラだったが、すぐさま状況を理解しティーカップを落とし立ち上がって悲鳴を上げながら窓から後ずさった。
――なんでなんでなんで、どうしてこんな事にっ!? そうだミシェルちゃんは、ミシェルちゃんはっ!? ミシェルちゃんはどうなって……!?
「ママ」
後ずさった背中の足に何かがぶつかったと同時に、そこから声がする。
振り返ると、そこにはミシェルがいた。
珍しく人形を持たずに、ただ立っていた。
「ミ、ミシェルちゃん!? よかった無事で――」
「――レイちゃんが、怒ってるよ」
「……え?」
娘の声は、あまりにも冷たかった。
こんな娘の声を、アンジェラは聞いた事がなかった。
「お母さんがレイちゃんを捨ててって家庭教師さんに頼んだの、レイちゃん知ってるんだって。だからレイちゃん、先生を落としたの。ね、レイちゃん」
ミシェルが、アンジェラの背後に目線を送りながら言った。
先程までアンジェラが座っていたソファーのすぐ側に置いてある、ティーポットが乗っかっているテーブルの方だった。
アンジェラは、その目線を追うようにゆっくりと振り向く。
そこに、あの人形がいた。
あの人形が、テーブルの上にいつものように座っている形で置かれていた。
「ひっ、ひいっ!?」
「レイちゃんはね、うちのずっと昔のおじいちゃんが、悪いことしたって言ってたよ」
「へ……? そ、それ……どういう……」
「レイちゃん、それが許せないんだって。怒ってるんだって。だから、そういう悪いことした人は罰を受けないと駄目なんだって」
「…………あっ、ひっ!? ご、ごめんなさいっ! ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
アンジェラは必死に訳も分からずに両手を床につけて謝る。
謝って家族が助かるなら、いくらでも頭を下げても良かった。
ゴロン……という音が、不意にした。
頭を下げる彼女の目の前に、何かが転がってきた。
それもまた人形だった。だが目の前で座っている人形ではない、見た事もない物だった。
だいたい十センチないぐらいの大きさで、スーツを着たくるみ割り人形だ。
短い金髪で背の高いそれは、なんだか彼女の夫を彷彿とさせて――
「――ママ。レイちゃんは一緒になればいいよって」
「……え?」
「私達も、レイちゃんと一緒になれば、いいって」
アンジェラは娘の言葉の意味を知りたくて、手をつき頭を下げた状態から、そのまま首だけ背後を向く。
すると――
◇◆◇◆◇
「衛兵ですっ! 大丈夫ですか!?」
午後二時三十分頃。
バークレー家の扉を衛兵が勢いよく蹴り飛ばして入ってきた。
近所の住人からバークレー家の窓から家に通っていた家庭教師が落ちて来た、そして家から不自然に人が出てこないという報告を受けて衛兵が家にやって来たのである。
彼らが来たとき、最初に扉を叩いて声をかけて確認したが反応はなく、やむを得ず扉を破るという手段を取ったのだ。
だが、そうした乱暴な方法を取っても館の中から反応は返ってこない。
それどころか、人の気配すらない。
衛兵は最悪の可能性を考えながらも、館の中を進み出す。
そしてまず目に入ったリビングに入ったとき、彼はそれを目にした。
「……これは」
床には、人形が三つ転がっていた。
スーツの男の人形、ドレスの少女の人形、そして同じくドレス姿の大人の女性の人形である。それぞれくるみ割り人形、ぬいぐるみ、布人形、着せ替え人形で、みな金髪というぐらいしか統一感はなかった。
他には飲みかけのぬるくなった紅茶が入ったティーポットと割れたティーカップがあるぐらいで、他には何も見つける事ができずに衛兵は帰った。
それから、バークレー家の親子達を見た者は誰もいない。
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