悪霊令嬢~死した聖女憎悪に染まりて呪いを成す~

女譜香あいす

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27.ネタバラシ

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「はいよ日用雑貨ね、んでお代は……うん、こんぐらいね」

 街の大通りから外れた裏通りで、ダリアは貧しそうな身なりの男相手に商売をしているところだった。
 青空と共に輝く太陽の光も狭い裏通りにはいまいち通りづらい。
 ダリアは男から貨幣をもらうとそれをしまい、懐に収めながら去っていく男の背中を見つめる。

《……どう思う?》
「んー……まああんまり面白くなさそうだから別でお願い。どうせいじめるのならもっと面白そうな相手がいいわ」

 彼女の念話に後ろでいつも通り誰にも視認されていないサヤが顎に指を置いて言った。
 つまらなさそうに言う彼女に、ダリアは思わず念話ですらため息混じりに言う。

《お前さぁ……この前からちょっとなんていうか……贅沢な感じになったよな。まあ復讐対象の一人を相手できたから浮かれるのは分かるけれど、にしたってさぁ、本分忘れてないか?》

 ダリアは裏通りで適当に近くの壁に背中を預け、腕を組んで左右を軽く見回す。
 日陰となっている裏道を通る人はいないわけではないが、商売相手になりそうな人物は見当たらなかった。

「あら、忘れてないわよ? でもだからこそ選り好みはしたいじゃない? 上質な恐れこそが“私達”の歓び、芽生えた悪意を充足させることこそが正しいあり方。その道を外れてしまっはあまり効果も薄れるというものなのだから」
《そういうもんなのか……。あ、でもそうしたらこの前の復讐って結構博打だったんじゃないか?》
「え? なんで?」

 きょとんと可愛らしさすら感じる顔で見てくるサヤ。
 彼女がそんなリアクションをしたものだからダリアは逆にびっくりしてしまう。

《なんでって、だってお前そのカゲトラってやつに脱出賭けて負けたら死ぬゲーム仕掛けたんだろ? 少なくともお前がそいつに手を下してからしばらく入ってた満足タイムのべらべら幸せお裾分けを聞く分だとそんな印象だったんだけど》
「もうそれ嫌味通り越して普通に非難でしょう……ああでも、そうね。そう勘違いしてしまうものよね、なんならカー君だってそうだったんだから」

 一瞬苦い顔をしながらも、その後すぐにサヤは納得したのを顔に出してきて言った。
 さらにそこから続けて彼女は言った。

「まずその“ゲーム”って捉え方が間違ってるのよ。私、“遊び”ってしか言ってないわよ?」
《えっ? ……あ、そういうこと?》

 サヤの言葉を受けて軽く腕を組んだまま視線を上に向けたダリアは、すぐに気付いてサヤに視線を向けた。
 相変わらず落ち着いた微笑みのサヤに対し、ダリアはなかなかにしかんだ表情になってしまっていた。

「そういうこと。私がしかけたのはあくまで“遊び”。対等に勝ち負けを競うゲームじゃないの。私一人が満足するためにあれこれとやって見てただけで、元からカー君を出してあげる気なんてなかったわよ?」
《……じゃあ、待ち構えてた試練めいた仕掛けのそれぞれって》
「うん、あれどれもカー君が出した答えを正解にして通してあげてただけ」
《……よくテンション上がって話してた最後のギロチンのところは?》
「腕切ってたら二人の重さで仕掛けが発動して最後の最後に出られないって予定だったわね」
《………………》

 もうダリアの顔はとんでもなく渋く引いた表情になっていた。
 彼女の眉間を寄せた細目で見られるサヤだったが、やはり楽しそうにニコニコしていた。

《……性格悪りぃー…………》

 そして、念話とはいえそのままストレートに言葉が出てしまったのだ。

「当たり前じゃない、私の目的はあくまで復讐、そして私自身の楽しみのためなんだからそれで解放する選択肢とか用意するわけないでしょう。なんなら、そこも彼の自慢の頭を鼻にかけたところを持ち上げて落とすためだったわけだし」
《あ~~~~……》

 納得はした間延び声を念話で垂れ流す。
 結局はサヤが満足するための余興であり、文字通りの遊び、思いつきの戯れでしかなかったのだ。

「あんなに他人を疑えだの悪意を汲み取れだの言っていたカー君が勝手な思い込みで調子に乗っている姿は、とても哀れで愚かでお馬鹿で、うん、良かったなぁ……」

 また両手で頬を覆って恍惚としだすサヤにダリアは目元と口元をピクピクさせながらも、そのまま彼女は再び周囲を確認した。
 人通りは相変わらずで、商売の相手になるような人もいない。
 ダリアはそこで自然と見切りをつけ、壁から背中を離して大通りの方に歩き始める。

《つまりあれか、さんざん人を小馬鹿にしてたような頭はいいけど性格がめんどい奴が最後まで自分よりダルい性格の悪さしてるやつの罠にハメられているの気付かなかったと》
「せいかーい! まあ今頃はあの潰されるギリギリのところでずっと苦しみ続けている中でこの可能性にたどり着いているかもね。必死に助けを求めていたら別かもだけど」
《そっかー……そりゃずっとニコニコもするわな……》

 サヤから聞いた真実にダリアは苦笑するも、別にサヤに対して悪感情は抱いていなかった。
 言ってしまえば、ダリアにとっていつもの事となっていた。
 サヤが人をオモチャにして遊んで楽しげになっているその姿はもう見慣れたものであり、ある意味日常化していると言っても過言ではなかった。
 そうこうしているうちに、二人は裏通りから大きな通りに出た。
 通りを歩く人々の数は多いというわけではなく、少なくともサヤがカゲトラを仕留めたジェーワンネルの街の大通りと比べると落ち着いた通りであった。
 今、彼女らがいるのはボーリー領にあるフリードという街である。
 フリードはそこまで大きな街ではなく、活気に溢れているわけでもない。しかし困窮しているかと言われるとそういうわけでもなく、日に起こる事件も少ない。言ってしまえば、何か特筆することがあるわけでもない街なのだ。
 そうした街に二人がいるのはフリードの街が中間地点としてはしばしば利用される街でもあり、ダリアもそのルートを通っただけである。

「ったく、こういうところが需要分からなくて一番やりづらいんだよな……」

 商売がうまくいかないことを愚痴りながら歩き出すダリア。
 サヤはそんな彼女の後ろを笑顔でついていく。

「……ん」

 と、そこでダリアが軽く立ち止まった。
 彼女の視線には二人の人影が歩いていた。
 黒い修道服に身を包んだ女性二人。つまり、シスターである。
 そしてその二人のシスターが途中で建物に入っていく。
 当然そこにあるのは七本の光を模した線が伸びる星のシンボル――伸びる線は細長い二等辺三角形で、そのうち六本が左右三本ずつアシンメトリーに並び、下方向には他よりも長く伸びる七本目の線が伸びる――を屋根の上に掲げている、聖光輝教せいこうききょうの教会だった。

「あらどうしたの? もしかして私への気遣い?」
《んなわけないだろ、それともお前はシスターさんには簡単に負けるの?》
「そんなわけないでしょ」
《なら聞くなよオレも分かってるから。……いや、ただ教会って好きじゃないだけだよ。なんていうか、あの救ってやるよみたいな上から目線が腹が立つ》
「……ふふふ、捻くれてるわね」

 サヤに茶化されるように言われるが、ダリア本人もそこに関して自覚がない訳ではなかった。
 一部にはそういう人間もいるだろうが、ちゃんと心からの善意で奉仕活動をしている教会関係者もたくさんいる事は彼女も分かっていた。
 でも気に食わないものは気に食わない、そんな単純過ぎる話なのである。

「……ハァ」

 今度はそんな自分にため息をつくダリア。
 そしてまた軽くキョロキョロと目だけ動かして周囲を確認して、やはり客となりそうな人物はいないこと、他の教会の人間も見えないのを確認して、再び歩き始めた。

《帰ったらまあ午後の四時前ぐらいか。あのワガママ人形はまだしばらくはやってるかな、今回もいいところの家に潜り込めたらしいし》
「最近あなたより彼女の方が活躍してる感じがあるわね。あなたももっと頑張ったら?」
《こっちはあっちと違ってえり好みするお荷物がいるからなぁ……》
「あらまあ言ってくれるわね。まあでも事実だし甘んじて受け入れるわ。それはそれとしてもっと頑張ってね」
《あーはいはい、可能な限り善処します》

 サヤの疲れる絡み方にもある程度慣れてきたダリアはそっけなく返しながら本日の宿への道を歩いていく。
 人が少ない道で彼女は特に苦労することもなく宿にたどり着く。
 そして荷物を小さな部屋のベッドの近くに置いてとりあえずそのベッドに腰を下ろした、そんなときだった。
 ――ガコン! と目の前のテーブルが大きな音を立てて揺れた。
 一瞬驚きその方を見ると、金持ちの家で呪いを拡げていたはずのレイがそこにいたのだ。彼女は座ってではなく体勢を崩しながらも姿勢を維持しようと立っている、そんな姿で現れたのだ。

「……申し訳ありません、追い払われてしまいましたわ」

 そして、すぐさまドレスについた埃を変わらない無表情で手で払いながら、彼女は淡々と言った。

「……え?」
「……あらまあ」

 彼女の言葉にダリアは間の抜けた声を出し、さすがのサヤも驚いた表情で頬に片手を添えてしまったのだった。
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