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人との関わり
5 キールにかけられた魔法 1
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聞けばこのソアジャール城に連れて来られた際に、キールには逃亡防止の魔法がかけられていると言う。人間が魔力を有しているのにも驚いたが、まさか自分にそんなものがかけられているなんて夢にも思わずにまたもやキールは憤慨していく。
「つくづく人間は勝手だ!俺はここにいる承諾もしてないのに!」
その状態から、やっとの思いで寝台の裏から出てきてくれたキールだが、警戒をなかなか解いてはくれなかった。
騎士団長フレトールと考古学者カーンはキールに魔法をかけてしまっていると明かしたその後、それはそれは根気よくこの度の暴挙を詫び、敵意がない事を話し続けた。今回は王太子タルコットの命であって歯向かうこと叶わない臣下の務めと話すと、キールはまた王太子タルコットに対して嫌いだ!と声を上げる。それを何度も何度も繰り返し、ようやくキールはフレトールとカーンは今は自分を害そうとしているのではないと言うことが理解できた様だった。
寝台裏から出てきていても、キールの身体は直ぐに逃げられる様にとある程度の距離と体制を崩そうとはしない。その姿が警戒している野生動物の様にも見えて、微笑ましいやら気を抜けないやら…フレトールは強者を相手に剣を構えている時よりも余計に緊張した様に思う。
「エルフ殿。お腹は空いていませんか?こちらに来てから随分と時間が経ちます。さ、こちらに幾つか果物を用意いたしました。お好きな物はありますか?」
フレトールはソファーの前のテーブルに果物が山の様に盛られた皿をそっと置く。途端に部屋の中に瑞々しい果物の甘い香りがしてきて鼻腔をくすぐった。
「こちらは太古の森付近で採れる果物ばかりです。何がお好きか分かりませんでしたので、手に入るもの全て用意致しました。」
一体何処から用意したのか今まで果物の香りすらしなかったのにテーブルの上には今や溢れんばかりの果物尽くしだ。
「………?…何処から、出した?」
怪訝そうにキールはフレトールを見つめる。
「おや、運搬魔法をご存知ありませんか?」
「……?」
訝しげにフレトールを見つめながらもジリジリと果物の置かれたテーブルにキールは近づいていく。こんな理不尽な事に巻き込まれても腹は空くのだ。果物からは甘い香りが立ち込めて、キールの空腹の腹を刺激し続けている。
「ある所からその物の状態を保ったままで遠くまで運べる魔法のことですよ。」
ありがたい事にキールが近付けば近付くほど、フレトールは説明しながら後ろへと身をひいてくれている。王太子タルコットの時もそうだが、このフレトールと言う人間の動きも隙がなくて、キールには恐怖なのだ。
「……ふ…ん……」
「さ、お好きな物をどうぞ?毒は入っていませんよ。」
「入ってたって構わない…森にある物ならば何でも食べる。」
キールはフレトールの動きに注視しながらそっと果物に手を伸ばし、クンクンと匂いを嗅いでいる。特に変わったところはない様だ。瑞々しくて良く熟れている。喉も乾いていたキールにとっては申し分ないほどの食事である。果物の果汁も垂らしてしまわない様に器用に丸々一つ食べてしまった。
「果物はお好きな様ですね。」
キールのために用意された果物の山の向こうでカーンは何やら紙に書き込みながらそう声をかけてきた。
一つ食べて物凄く美味しい部類に入る果物の誘惑に勝てずにキールは既に二つ目に手を伸ばしていた。
「………」
「あ、お気になさらず。お食事していて下さいね。私は学者なものですから何にしても記録を取っておきたい質でしてね…あ、気になります?」
モグモグと美味しく咀嚼しながらキールもカーンが書いている物が気になってくる。
人間と仲良く本を読もうなどとは思わないが、先程、あれ程酷い対応をされたのだから何を書かれているのか気にはなるのだ。
「私は先程もご説明しましたが、考古学の研究をしております。その中には古のエルフに関するものも多々ありまして…我が国に残されている文献は多くはないのですよ。こちらに積んである物でほぼ全てでは無いでしょうか?ですから貴方様の一挙手一投足が私に取っては大変貴重でして…記憶魔法を使えれば良いのですけど、なかなかそんな才には恵まれませんでしたから。手書きで申し訳ありませんけど、忘れてしまわないうちに記録させて下さいね?」
「…………」
カリカリカリと紙にペンを走らせながらもカーンはペラペラと良く話せるものだ……変な事を書かれていたら後で必ず破き去ってやる、とキールは心に決めて空腹が満ちるまで必死に咀嚼し続けていた。
「つくづく人間は勝手だ!俺はここにいる承諾もしてないのに!」
その状態から、やっとの思いで寝台の裏から出てきてくれたキールだが、警戒をなかなか解いてはくれなかった。
騎士団長フレトールと考古学者カーンはキールに魔法をかけてしまっていると明かしたその後、それはそれは根気よくこの度の暴挙を詫び、敵意がない事を話し続けた。今回は王太子タルコットの命であって歯向かうこと叶わない臣下の務めと話すと、キールはまた王太子タルコットに対して嫌いだ!と声を上げる。それを何度も何度も繰り返し、ようやくキールはフレトールとカーンは今は自分を害そうとしているのではないと言うことが理解できた様だった。
寝台裏から出てきていても、キールの身体は直ぐに逃げられる様にとある程度の距離と体制を崩そうとはしない。その姿が警戒している野生動物の様にも見えて、微笑ましいやら気を抜けないやら…フレトールは強者を相手に剣を構えている時よりも余計に緊張した様に思う。
「エルフ殿。お腹は空いていませんか?こちらに来てから随分と時間が経ちます。さ、こちらに幾つか果物を用意いたしました。お好きな物はありますか?」
フレトールはソファーの前のテーブルに果物が山の様に盛られた皿をそっと置く。途端に部屋の中に瑞々しい果物の甘い香りがしてきて鼻腔をくすぐった。
「こちらは太古の森付近で採れる果物ばかりです。何がお好きか分かりませんでしたので、手に入るもの全て用意致しました。」
一体何処から用意したのか今まで果物の香りすらしなかったのにテーブルの上には今や溢れんばかりの果物尽くしだ。
「………?…何処から、出した?」
怪訝そうにキールはフレトールを見つめる。
「おや、運搬魔法をご存知ありませんか?」
「……?」
訝しげにフレトールを見つめながらもジリジリと果物の置かれたテーブルにキールは近づいていく。こんな理不尽な事に巻き込まれても腹は空くのだ。果物からは甘い香りが立ち込めて、キールの空腹の腹を刺激し続けている。
「ある所からその物の状態を保ったままで遠くまで運べる魔法のことですよ。」
ありがたい事にキールが近付けば近付くほど、フレトールは説明しながら後ろへと身をひいてくれている。王太子タルコットの時もそうだが、このフレトールと言う人間の動きも隙がなくて、キールには恐怖なのだ。
「……ふ…ん……」
「さ、お好きな物をどうぞ?毒は入っていませんよ。」
「入ってたって構わない…森にある物ならば何でも食べる。」
キールはフレトールの動きに注視しながらそっと果物に手を伸ばし、クンクンと匂いを嗅いでいる。特に変わったところはない様だ。瑞々しくて良く熟れている。喉も乾いていたキールにとっては申し分ないほどの食事である。果物の果汁も垂らしてしまわない様に器用に丸々一つ食べてしまった。
「果物はお好きな様ですね。」
キールのために用意された果物の山の向こうでカーンは何やら紙に書き込みながらそう声をかけてきた。
一つ食べて物凄く美味しい部類に入る果物の誘惑に勝てずにキールは既に二つ目に手を伸ばしていた。
「………」
「あ、お気になさらず。お食事していて下さいね。私は学者なものですから何にしても記録を取っておきたい質でしてね…あ、気になります?」
モグモグと美味しく咀嚼しながらキールもカーンが書いている物が気になってくる。
人間と仲良く本を読もうなどとは思わないが、先程、あれ程酷い対応をされたのだから何を書かれているのか気にはなるのだ。
「私は先程もご説明しましたが、考古学の研究をしております。その中には古のエルフに関するものも多々ありまして…我が国に残されている文献は多くはないのですよ。こちらに積んである物でほぼ全てでは無いでしょうか?ですから貴方様の一挙手一投足が私に取っては大変貴重でして…記憶魔法を使えれば良いのですけど、なかなかそんな才には恵まれませんでしたから。手書きで申し訳ありませんけど、忘れてしまわないうちに記録させて下さいね?」
「…………」
カリカリカリと紙にペンを走らせながらもカーンはペラペラと良く話せるものだ……変な事を書かれていたら後で必ず破き去ってやる、とキールは心に決めて空腹が満ちるまで必死に咀嚼し続けていた。
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