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智洋ルート
128 ぐるぐる、ぐるぐる
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球を片付けている途中で消灯前の音楽が流れ始めて、サスペンスドラマも終わったのかぞろぞろと談話室にいた連中が出てくる。壁際のベンチチェストに球とラックを入れた箱を仕舞い、足を止めて待ってくれている智洋と合流した。
赤堀は友達と出て行ったのか、姿はなかった。
「ごめんな、俺がテレビ観ようって誘ったのに」
取り繕うように笑うと、別にと流してくれてほっとする。多分変に思っているだろうけど、今は時間がない。速足で部屋に帰って、中に入らずにそのままドアの前に並んで立った。
あいつ、テレビ好きなのかな……。取り敢えず、火曜日は居るって判ったから、もう行くのよそう。ドラマも興味ねえし、行くとしたら歌番組の日かな。
あれ? 歌番組って何曜日だったっけ。たまには新聞読まねえと駄目だなあ。
ロビーと図書館に新聞が数種類置いてあるのは知っていたけど、ここに来てから手に取ったことはなかった。受験前は、時事問題が出るからと毎朝頑張って読破してから登校してたのにな。
点呼が終わって中に入るなり、智洋に腕を掴まれた。
「和明、何考えてんだ? 溜め息ついてたけど」
え? 気付かなかった……溜め息、出ちゃってたか。
「いやー、最近新聞ろくに読んでねえなって気付いてさ。テレビ欄すらチェックしてないから、歌番組何曜日だっけとか悩んじゃって」
空いている方の手で後ろ頭を掻きながら、見上げて苦笑する。
きっと溜め息の原因はそれじゃないんだろうけど、それは言えない。
「金曜日じゃねえの? 八時からのやつ」
僅かに首を傾げて即答する智洋に「そっか」と笑顔を向ける。
数年前までは別の番組観てたけど、終わっちゃったんだよな~。アイドル全盛期も終わっちゃって、視聴率の関係なのかもしれないけどがっかりしたよな。
「最近の聴いてさ、いいのあったらCD買いに行ったりしような」
そうだ、日曜日とかに出掛ければいいんだよな。まあ、午前中だと智洋に迷惑掛けちゃうけど……浩司先輩たちとのビリヤードは外せねえし。
そう思ってから、くらりと眩暈がした。
何だ俺。自分は先輩たちと遊びたいくせに、智洋の都合無視してキャンセルしてくれるって勝手に考えてる……。
おかしい、駄目だ俺。
手の平で口元を覆って視線を落としてしまったのを不審がり、腕を揺さぶられた。
「ホントに変だぞ? 和明」
手の平を向けて、顔を覗き込もうとするのを制する。
「なんでもない、ごめん。もう寝るな」
腕を掴んだままの手に自分のを重ねて、そのまま軽くキスをした。
しないと、更に不審がるのは判っているから……。
でもそんなの変だ。したいからするもんだろ。しないとおかしいからするなんて、俺がおかしい。
ぐるぐる、ぐるぐる。変なのは判っているのに、どうにもならない自分の想い。
離れようとするところを追って来た唇に捕らわれて、熱くて蕩けるようなキスをした。強く抱き締めてくれる腕の中が心地良くて、間違いなく大好きって思うのに。
一番好きでも、相手にも想われていたとしても、それは勝手を押し付けてしまっていいわけじゃないってこと、今まで失念していた自分が信じられないくらいに不甲斐ない。
それでも、体育会が終わってしまえば、浩司先輩とは平日の繋がりがなくなっちゃうから、日曜日は死守したい。俺がこの学校に来た唯一で最大の理由が、浩司先輩そのものなのは確かだったから。
それは、智洋と付き合い始めても、揺るがない事実だったから。
昨日は火曜日で七限だったから時間的に無理だったけど、今日は六限だから大丈夫~!
考えてみれば平日に部活に行くのは初めてで、そういやカードゲームとかやってるんだっけとか思い出しては気分を高揚させて部室棟に向かった。
平日は、SHR終わって直行したとしても一時間しかないから、TRPGは時間的に無理で。それぞれが持ち込んだゲームして遊んでいるとかなんとか。前に部室のロッカーで人生ゲームも見つけちゃったし、何だか楽しそう。今日は何すんのかなあ。
ドアの前まで来て、ふと足が止まる。
やなこと思い出したなあ……。間野と小橋二人だけしかいなかったらやべえじゃん。
何となく息を潜めて、ドアレバーを握ったままドアに耳をくっ付けた。
おー、いるいる。あの二人の声って興奮するとでかくなるし高くもなるし、聞き取りやすいんだよな。んー……もう一人居るような感じだし、開けても大丈夫か?
そう思って耳を離したとき、すぐ後ろから声が降ってきた。
「何してるの?」
うひゃあ! 飛び上がりそうなくらいびっくりして振り向くと、ビジネスマンみたいな鞄を両手で提げた山下が立っていた。一歩離れているとはいえ、身長差があるから上からにしか聞こえなかったようだ。
「あはは、なんでもねえよ」
誤魔化しながら今度こそレバーを下げて入室する。
「あー、カズくんとボンだー。こんにちは!」
お茶の入った湯飲みを配りながら、しげくんが迎えてくれた。
良かった~、聞こえなかったけどやっぱり居たんだ。
「おお、これならゲーム出来る!」
扇子でぱたぱたと顔を仰ぎながら、間野は嬉々としてロッカーに向かってるし。
「ぶーし! 負けそうだからって逃げるとは卑怯な」
長机で間野と向き合っていた小橋は手に持ったカードを叩きつけて指先でカードの向きを変えた。
「アタック!」
「あーもー、スルーだよスルー」
「ブロックしないんですか? セラ天出してるのに」
「どうせ焼く気だろうが! ファイアボール持ってんのは知ってんだよ」
「えー、じゃあ本人にダメージ振りますよ、死にますよ」
「いいよ負けで!」
ぎゃあぎゃあ言いながらも、間野は両手に載るくらいの紙箱を引っ張り出してきた。
その間に小橋がなにやら手帖に書き付けて、それから机の上にあった金属製の算盤みたいなやつをわざとらしくチンッと音を立てて動かす。
「ぶーし、もう後がないですよ。次負けたらどんな罰ゲームしてもらいましょうかねえ」
ふふふふふふ。暗い笑みを浮かべてにっこり微笑んでいる小橋、マジ怖いです! 腹の中は真っ黒黒に違いない!
赤堀は友達と出て行ったのか、姿はなかった。
「ごめんな、俺がテレビ観ようって誘ったのに」
取り繕うように笑うと、別にと流してくれてほっとする。多分変に思っているだろうけど、今は時間がない。速足で部屋に帰って、中に入らずにそのままドアの前に並んで立った。
あいつ、テレビ好きなのかな……。取り敢えず、火曜日は居るって判ったから、もう行くのよそう。ドラマも興味ねえし、行くとしたら歌番組の日かな。
あれ? 歌番組って何曜日だったっけ。たまには新聞読まねえと駄目だなあ。
ロビーと図書館に新聞が数種類置いてあるのは知っていたけど、ここに来てから手に取ったことはなかった。受験前は、時事問題が出るからと毎朝頑張って読破してから登校してたのにな。
点呼が終わって中に入るなり、智洋に腕を掴まれた。
「和明、何考えてんだ? 溜め息ついてたけど」
え? 気付かなかった……溜め息、出ちゃってたか。
「いやー、最近新聞ろくに読んでねえなって気付いてさ。テレビ欄すらチェックしてないから、歌番組何曜日だっけとか悩んじゃって」
空いている方の手で後ろ頭を掻きながら、見上げて苦笑する。
きっと溜め息の原因はそれじゃないんだろうけど、それは言えない。
「金曜日じゃねえの? 八時からのやつ」
僅かに首を傾げて即答する智洋に「そっか」と笑顔を向ける。
数年前までは別の番組観てたけど、終わっちゃったんだよな~。アイドル全盛期も終わっちゃって、視聴率の関係なのかもしれないけどがっかりしたよな。
「最近の聴いてさ、いいのあったらCD買いに行ったりしような」
そうだ、日曜日とかに出掛ければいいんだよな。まあ、午前中だと智洋に迷惑掛けちゃうけど……浩司先輩たちとのビリヤードは外せねえし。
そう思ってから、くらりと眩暈がした。
何だ俺。自分は先輩たちと遊びたいくせに、智洋の都合無視してキャンセルしてくれるって勝手に考えてる……。
おかしい、駄目だ俺。
手の平で口元を覆って視線を落としてしまったのを不審がり、腕を揺さぶられた。
「ホントに変だぞ? 和明」
手の平を向けて、顔を覗き込もうとするのを制する。
「なんでもない、ごめん。もう寝るな」
腕を掴んだままの手に自分のを重ねて、そのまま軽くキスをした。
しないと、更に不審がるのは判っているから……。
でもそんなの変だ。したいからするもんだろ。しないとおかしいからするなんて、俺がおかしい。
ぐるぐる、ぐるぐる。変なのは判っているのに、どうにもならない自分の想い。
離れようとするところを追って来た唇に捕らわれて、熱くて蕩けるようなキスをした。強く抱き締めてくれる腕の中が心地良くて、間違いなく大好きって思うのに。
一番好きでも、相手にも想われていたとしても、それは勝手を押し付けてしまっていいわけじゃないってこと、今まで失念していた自分が信じられないくらいに不甲斐ない。
それでも、体育会が終わってしまえば、浩司先輩とは平日の繋がりがなくなっちゃうから、日曜日は死守したい。俺がこの学校に来た唯一で最大の理由が、浩司先輩そのものなのは確かだったから。
それは、智洋と付き合い始めても、揺るがない事実だったから。
昨日は火曜日で七限だったから時間的に無理だったけど、今日は六限だから大丈夫~!
考えてみれば平日に部活に行くのは初めてで、そういやカードゲームとかやってるんだっけとか思い出しては気分を高揚させて部室棟に向かった。
平日は、SHR終わって直行したとしても一時間しかないから、TRPGは時間的に無理で。それぞれが持ち込んだゲームして遊んでいるとかなんとか。前に部室のロッカーで人生ゲームも見つけちゃったし、何だか楽しそう。今日は何すんのかなあ。
ドアの前まで来て、ふと足が止まる。
やなこと思い出したなあ……。間野と小橋二人だけしかいなかったらやべえじゃん。
何となく息を潜めて、ドアレバーを握ったままドアに耳をくっ付けた。
おー、いるいる。あの二人の声って興奮するとでかくなるし高くもなるし、聞き取りやすいんだよな。んー……もう一人居るような感じだし、開けても大丈夫か?
そう思って耳を離したとき、すぐ後ろから声が降ってきた。
「何してるの?」
うひゃあ! 飛び上がりそうなくらいびっくりして振り向くと、ビジネスマンみたいな鞄を両手で提げた山下が立っていた。一歩離れているとはいえ、身長差があるから上からにしか聞こえなかったようだ。
「あはは、なんでもねえよ」
誤魔化しながら今度こそレバーを下げて入室する。
「あー、カズくんとボンだー。こんにちは!」
お茶の入った湯飲みを配りながら、しげくんが迎えてくれた。
良かった~、聞こえなかったけどやっぱり居たんだ。
「おお、これならゲーム出来る!」
扇子でぱたぱたと顔を仰ぎながら、間野は嬉々としてロッカーに向かってるし。
「ぶーし! 負けそうだからって逃げるとは卑怯な」
長机で間野と向き合っていた小橋は手に持ったカードを叩きつけて指先でカードの向きを変えた。
「アタック!」
「あーもー、スルーだよスルー」
「ブロックしないんですか? セラ天出してるのに」
「どうせ焼く気だろうが! ファイアボール持ってんのは知ってんだよ」
「えー、じゃあ本人にダメージ振りますよ、死にますよ」
「いいよ負けで!」
ぎゃあぎゃあ言いながらも、間野は両手に載るくらいの紙箱を引っ張り出してきた。
その間に小橋がなにやら手帖に書き付けて、それから机の上にあった金属製の算盤みたいなやつをわざとらしくチンッと音を立てて動かす。
「ぶーし、もう後がないですよ。次負けたらどんな罰ゲームしてもらいましょうかねえ」
ふふふふふふ。暗い笑みを浮かべてにっこり微笑んでいる小橋、マジ怖いです! 腹の中は真っ黒黒に違いない!
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