Hand to Heart

亨珈

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智洋ルート

136 ストファイですか!?

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 番組が終わったあと、消灯前の音楽が流れ始めるまで辰と二人でビリヤードをして遊んだ。始めてすぐ位に周がやって来て一緒に三人でナインボールして、いつの間にか周が凄く上達していることに驚く。先輩たちとの時間以外にも一人で練習してるとこ見掛けたし、ゲームはもっと楽しそうにしてて、一番下手なのは自分だって思ってもなんだかほんわり心が温まって、ちょっと泣きそうになったくらい。
 それから部屋に帰ると智洋は勉強していたらしく、丁度中から出て来るところだった。
 携の部屋とは反対から帰って来たし「おやすみ」って辰が手を振って行ったから、何してたのかって話になって、軽く説明する。
 ついでに智洋の方はって、訊けば良かった。話している間にみっくんたちがチェック済ませて通り過ぎたから中に戻ったんだけど、そのまま少しくらい話を続ければ良かったと後悔。けど、机まで追い掛けて話題を引っ張るのも変だし……。
 なんか、先週とかのいちゃいちゃが嘘だったみたい。その前のただのルームメイトだった頃みたいに、智洋も俺も沢山の言葉を飲み込んでいる感じがした。
 軽いキスならしてるけど、あの蕩けるような深いキスもなくて、勿論その後ベッドに倒れこむみたいにして抜き合いっこなんてのもしてなくて、ホントはちょっと溜まってた。
 だって今週になってからは応援の練習もなくて、体育と格技とジョギングしか運動もしてない。
 今日も無理なんだろうな……。
 自分の椅子に腰掛けて、気付かれないようにそおっと振り返って背中を覗う。
 土曜日は、また出来るかな。次の日大変だったけど、また智洋のあの表情見てみたい。うっとりして切なそうで、ちょっと顔を顰めて熱を吐き出すときの表情。
 前に視線を気付かれちゃったから、それ以上は見るのを止めて前に向き直った。


 翌朝、おはようのキスとかジョギングとかはいつも通り。でも今日は夜に一緒にテレビ観る約束も取り付けてあるし、気にしないようにする。そうやって一日過ごしていたら、昼休みの後にトイレでばったり赤堀に出会ってしまった。

「やあ。ええと、霧川?」
「お、おう」

 一度紹介されている手前、挨拶くらいは普通にしておかないとなんて思いながら不承不承の引き攣った笑みを浮かべる。今週はここが掃除場所だから逃げられねえし。
 って、なんで俺が逃げ隠れしなきゃなんねえんだよ、普通でいいんだ普通でっ。
 赤堀は、そんな風にごちゃごちゃ考えている俺の脳内を探ろうとしているかのようにじっと顔を見て、それからにっこりと笑い掛けてきた。

「今日さ、放課後資料館の裏に来てよ。いいこと教えてあげる」
「資料館? 何であんなとこ……てか、いいことって」
「来なくてもいいけど。じゃあね」

 引きとめようと伸ばしかけた手をひらりと躱して、赤堀は足早に去って行く。
 資料館は、武道場の隣に建っている純和風の平屋だ。なんでも、これからの学園の歴史を残しておく為とかで、今は何もないけれど徐々に展示品を増やしていくらしい。今のところは施錠されたまま立ち入り禁止になっている。昔ながらの錠前が凄く雰囲気を出しているんだけど裏手はちょっとした木立が植えてあって、放課後には人気がない。
 そんな場所に俺を呼び出してどうすんだろ……。
 嫌な予感しかしないけど、誰かに言っといた方がいいのか? どっかに行く時は声掛けろって言われてるけど、放課後は智洋だって部活に行くし。
 ただ、資料館は部室棟に行く途中に寄り道する感じに行くことが出来る場所にあるから、しげくんか誰かに声を掛けておくだけでもいいかもしれない。
 考え込んでいる間に続々と掃除当番の仲間がやって来て、悩むのは途中やめにした。


 あっという間に放課後になってしまい、鞄に荷物を詰めていると辰と周が寄って来た。

「今日は部活だよな」

 確認するために掛けられた声に、曖昧に首を傾げる。

「それがさあ……呼び出しっていうか、変な感じなんだけど」

 はん? と訝しげに二人が寄って来て、赤堀の件をそのまま話した。考えてみれば、ネコやら何やら知ってんのはこの二人だけなんだし、同好会関係無しに二人に話を通しておけば良かったんだな。

「へえ~、それはそれは」

 辰は珍しく好戦的な笑みを浮かべてぷらぷらと手首を振った。

「任せろ。黒凌のやつらくらいなら俺一人で十分だ」

 細めに整えた眉と吊り上がった目が頼りになります! 辰、やっぱかっこいい。
 周は首を捻っていたけど、取り敢えず一緒には行くらしい。喧嘩になったら下がってろって辰に念を押されて苦笑している。
 まあ、周は勿論俺だってストリートファイトの経験なんかないしな。

「さー、そうと決まったらこっそり堂々と行こう!」

 腕を上げてやる気満々だけど、こっそり堂々って矛盾してねえ? 辰。

 まずは小道に沿って普通に資料館の入り口に行き、そこからは壁沿いに回りこみながら静かに横手に行く。待ち伏せしているとしたら、裏の木立の方だよななんて相談した結果。
 流石に辰が先頭だと、赤堀の手前、もしもそういうのじゃなかった場合に体裁が悪いっていうか、変に勘ぐり過ぎって怒らせそうだし俺が先頭。まあ怒らせてもどうってこたないんだけども。
 角まで来たところで、話し声が聞こえて来た。

「なんでこんな場所で……」
「いいじゃん。雰囲気あるでしょ。それに夜は駄目なんだろ? 今日は」

 間違えようもない智洋の声、と多分赤堀──。
 顔が強張った俺に気付いて、辰と周がぴたりと体を寄せてくる。

「約束、したから」
「妬けるね、ホント。ねえ、早く……部活、急ぐんでしょ」

 声が止んで、暫くしてあの耳に憶えのある水音と、喘ぎ声が聞こえてきて。
 周が、辰が、恐る恐る俺の顔に視線を遣ってくるのが判ったけど、息が苦しくなった俺は口をパクパクさせて地面を見て喘いでいた。
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