5 / 10
5
しおりを挟む
卒業式の後には卒業パーティがある。
卒業生は煌びやかな衣装へと衣替えし、今日で別れる学友たちとの最後の時間を楽しんでいた。
パーティの参加者は卒業生のみだが、婚約者がいる場合は、婚約者の同伴が許されている。
ロブは婚約者のエミリーをエスコートして、卒業パーティに参加していた。
本心では嫌だが、婿入りの身。しかもエミリーがパーティへの参加を楽しみにしている。
連れて行かないとなったら、ビッスル伯爵家の義両親がどんな反応をするか。
恐ろしくて考えたくもなかった。
ロザリーが婚約者だったら、こんな苦労をしなくてもいいのに。
卒業生代表として立派に答辞を詠んだロザリーの姿を思い出す。
嫌われ者のエミリーと違い、ロザリーが婚約者だったなら、ロブも晴れがましい気持ちで卒業パーティを迎えられた事だろう。
仕方のない事とは言え、運命の皮肉を呪うロブだった。
婚約者にエスコートされ卒業パーティに参加したエミリーは、この日のために新調したドレスとアクセサリーに飾られた自分の姿に自信満々だった。
だが世の中には素敵なものが溢れている。
卒業パーティともなれば、一つ上のお姉さま達は、さぞや素敵なドレスにアクセサリーをつけてくれるだろう。
中にはエミリーのお眼鏡に叶うアクセサリーもあるに違いない。
獲物を物色するために、エミリーは足取りも軽やかに、お茶会で顔見知りになっていた集団に近づいていった。
「卒業おめでとうございます」
「ありがとう」
下級生に声をかけられて振り向いたローラは顔を引きつらせた。
振り向くとエミリーがいた。
主席のロザリー・ビッスルの妹だ。
ロザリーとは交流があったが、その妹のエミリーは最悪だった。
ローラは以前お茶会で、エミリーに買ってもらったばかりのアクセサリーを奪われた事がある。
その時は、親を通して伯爵家に抗議し、返してもらったのだが。以来、エミリーの事は避けていた。
目をつけられたら、アクセサリーを奪われる。
ローラの他にも被害者は大勢いて、同年代の少女たちの間でそれは合言葉になっていた。
「嫌だわ。あちらにサマンサ様がいらっしゃる。ご挨拶にいかなくちゃ」
「あら、ほんとう。ごめんなさい、皆様。また後でお会いしましょう」
「私も、ネリー様にご挨拶しなくちゃ。失礼するわね」
エミリーの姿を見た少女たちは、私も私もと、一人二人と集団の中から抜けていき、後にはエミリーが一人ぽつんと残された。
「なによ、あれ。まぁいいわ。大したものはないみたいだったし」
エミリーを避けるように消えた少女たちに憤慨しつつも、素早く獲物の鑑定を済ませていたエミリーは次の獲物を探して別の集団へと突撃していく。
だがエミリーが声をかける度、その集団からは一人抜け二人抜け、エミリーは一人ぽつんと取り残される。
いっそ見事だった。
卒業生は煌びやかな衣装へと衣替えし、今日で別れる学友たちとの最後の時間を楽しんでいた。
パーティの参加者は卒業生のみだが、婚約者がいる場合は、婚約者の同伴が許されている。
ロブは婚約者のエミリーをエスコートして、卒業パーティに参加していた。
本心では嫌だが、婿入りの身。しかもエミリーがパーティへの参加を楽しみにしている。
連れて行かないとなったら、ビッスル伯爵家の義両親がどんな反応をするか。
恐ろしくて考えたくもなかった。
ロザリーが婚約者だったら、こんな苦労をしなくてもいいのに。
卒業生代表として立派に答辞を詠んだロザリーの姿を思い出す。
嫌われ者のエミリーと違い、ロザリーが婚約者だったなら、ロブも晴れがましい気持ちで卒業パーティを迎えられた事だろう。
仕方のない事とは言え、運命の皮肉を呪うロブだった。
婚約者にエスコートされ卒業パーティに参加したエミリーは、この日のために新調したドレスとアクセサリーに飾られた自分の姿に自信満々だった。
だが世の中には素敵なものが溢れている。
卒業パーティともなれば、一つ上のお姉さま達は、さぞや素敵なドレスにアクセサリーをつけてくれるだろう。
中にはエミリーのお眼鏡に叶うアクセサリーもあるに違いない。
獲物を物色するために、エミリーは足取りも軽やかに、お茶会で顔見知りになっていた集団に近づいていった。
「卒業おめでとうございます」
「ありがとう」
下級生に声をかけられて振り向いたローラは顔を引きつらせた。
振り向くとエミリーがいた。
主席のロザリー・ビッスルの妹だ。
ロザリーとは交流があったが、その妹のエミリーは最悪だった。
ローラは以前お茶会で、エミリーに買ってもらったばかりのアクセサリーを奪われた事がある。
その時は、親を通して伯爵家に抗議し、返してもらったのだが。以来、エミリーの事は避けていた。
目をつけられたら、アクセサリーを奪われる。
ローラの他にも被害者は大勢いて、同年代の少女たちの間でそれは合言葉になっていた。
「嫌だわ。あちらにサマンサ様がいらっしゃる。ご挨拶にいかなくちゃ」
「あら、ほんとう。ごめんなさい、皆様。また後でお会いしましょう」
「私も、ネリー様にご挨拶しなくちゃ。失礼するわね」
エミリーの姿を見た少女たちは、私も私もと、一人二人と集団の中から抜けていき、後にはエミリーが一人ぽつんと残された。
「なによ、あれ。まぁいいわ。大したものはないみたいだったし」
エミリーを避けるように消えた少女たちに憤慨しつつも、素早く獲物の鑑定を済ませていたエミリーは次の獲物を探して別の集団へと突撃していく。
だがエミリーが声をかける度、その集団からは一人抜け二人抜け、エミリーは一人ぽつんと取り残される。
いっそ見事だった。
86
あなたにおすすめの小説
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
お姉様から婚約者を奪い取ってみたかったの♪そう言って妹は笑っているけれど笑っていられるのも今のうちです
山葵
恋愛
お父様から執務室に呼ばれた。
「ミシェル…ビルダー侯爵家からご子息の婚約者をミシェルからリシェルに換えたいと言ってきた」
「まぁそれは本当ですか?」
「すまないがミシェルではなくリシェルをビルダー侯爵家に嫁がせる」
「畏まりました」
部屋を出ると妹のリシェルが意地悪い笑顔をして待っていた。
「いつもチヤホヤされるお姉様から何かを奪ってみたかったの。だから婚約者のスタイン様を奪う事にしたのよ。スタイン様と結婚できなくて残念ね♪」
残念?いえいえスタイン様なんて熨斗付けてリシェルにあげるわ!
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。
雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」
妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。
今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。
私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。
溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]
ラララキヲ
恋愛
「お姉様、それ頂戴!!」が口癖で、姉の物を奪う妹とそれを止めない両親。
妹に自分の物を取られた姉は最初こそ悲しんだが……彼女はニッコリと微笑んだ。
「わたくしの物が欲しいのね」
「わたくしの“お古”じゃなきゃ嫌なのね」
「わたくしが一度持った物じゃなきゃ欲しくない“欲しがりマリリン”。貴女はなんて“可愛”そうなのかしら」
姉に憐れまれた妹は怒って姉から奪った物を捨てた。
でも懲りずに今度は姉の婚約者に近付こうとするが…………
色々あったが、それぞれ幸せになる姉妹の話。
((妹の頭がおかしければ姉もそうだろ、みたいな話です))
◇テンプレ屑妹モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい。
◇なろうにも上げる予定です。
異母妹に婚約者を奪われ、義母に帝国方伯家に売られましたが、若き方伯閣下に溺愛されました。しかも帝国守護神の聖女にまで選ばれました。
克全
恋愛
『私を溺愛する方伯閣下は猛き英雄でした』
ネルソン子爵家の令嬢ソフィアは婚約者トラヴィスと踊るために王家主催の舞踏会にきていた。だがこの舞踏会は、ソフィアに大恥をかかせるために異母妹ロージーがしかけた罠だった。ネルソン子爵家に後妻に入ったロージーの母親ナタリアは国王の姪で王族なのだ。ネルソン子爵家に王族に血を入れたい国王は卑怯にも一旦認めたソフィアとトラヴィスの婚約を王侯貴族が集まる舞踏会の場で破棄させた。それだけではなく義母ナタリアはアストリア帝国のテンプル方伯家の侍女として働きに出させたのだった。国王、ナタリア、ロージーは同じ家格の家に侍女働きに出してソフィアを貶めて嘲笑う気だった。だがそれは方伯や辺境伯という爵位の存在しない小国の王と貴族の無知からきた誤解だった。確かに国によっては城伯や副伯と言った子爵と同格の爵位はある。だが方伯は辺境伯同様独立裁量権が強い公爵に匹敵する権限を持つ爵位だった。しかもソフィアの母系は遠い昔にアストリア帝室から別れた一族で、帝国守護神の聖女に選ばれたのだった。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる